Sir Vanity 桑原聖が語る、舞台『東京リベンジャーズ』主題歌制作 1年間の“失踪”を経てバンドが向かう先

Sir Vanity桑原、舞台『東リベ』主題歌制作

 2020年4月に結成され、同年6月には初シングル『Vanity / 悠』をリリースしたバンド Sir Vanity。ボーカル&ギターを務めるのは人気声優・梅原裕一郎と中島ヨシキ、音楽プロデューサーは桑原聖、クリエイティブディレクター&VJは渡辺大聖だ。その後、新たな活動については一切の音沙汰がないまま約1年間の時が流れたが、メンバー自身も「失踪」と表現したこの空白期間を破り、4名は初の作品タイアップに挑戦することに。

 楽曲提供先は、TVアニメの放送に実写映画の公開など、今まさに“東卍イヤー”と呼ぶに相応しい人気ぶりを誇る舞台『東京リベンジャーズ』。この8月に全国3都市にて上演される本公演に、8月6日配信リリースの新曲「HERO」が主題歌として起用された。会場ではSir Vanity初となるCDも発売される。

 そんな「HERO」について、パワフルなトラックに込めた様々なこだわりや、様々なアニメ・舞台に作品を提供する上で特に意識をした点、さらに今年6月に先駆けて配信リリースされた楽曲「紫陽花」の意外すぎる誕生秘話から、“自惚れ(=Vanity)”をテーマにしたバンド活動の在り方まで、2年目を迎えた現在の心境を桑原聖に詳しく聞いた。(一条皓太)

「制作時は『東京卍リベンジャーズ』のことしか考えていなかった」

ーー6月24日に新曲「紫陽花」が配信リリースされるまで、デビュー間もなくして約1年間の空白期間がありました。バンドの公式ラジオ『Sir Vanity Radio』では、これを「失踪」と表現されていましたが。

桑原聖(以下、桑原):そうですね(笑)。コロナ禍に突入して、メンバー全員がいまの時代の新しい働き方に順応するために、とにかく時間がかかりまして。当初こそ、メンバーが各々の仕事をこなしつつ、地に足を着けた状態でSir Vanityとして活動していこうと考えていたものの、見事に地に足が着かなくなってしまいました。そこでまずは、各自が本業の方にしっかり取り組もうと決めたんですよね。

ーーとはいえ、その期間も今回のタイアップ等の準備はしていたわけで。8月6日に配信リリースされる新曲「HERO」は、舞台『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用されていて、前述のラジオでその存在が匂わされていた“デモ6”として、新たに書き下ろされたものです。とにかくパワフルなデジロックチューンですが、まず歌詞についてはいかがですか。

桑原:今回は、ボーカルの梅原裕一郎くんと中島ヨシキくんが2人で作詞をしていて、日本語詞の部分は主にヨシキくんが担当しました。1番は主人公の花垣武道、2番はヒロインの橘日向、3番は東京卍會 副総長のドラケン(龍宮寺堅)、それぞれのことをイメージして綴っています。

Sir Vanity Radio #4

ーー桑原さんが手掛けたトラックについても教えてください。

桑原:アレンジはすごくイメージしやすかったのですが、メロディ作りはめちゃくちゃ悩みましたね。今回はどうしてもボーカル2人で歌い上げるサビにしたかったので、歌声に負けないキャッチーかつ破壊力あるメロディを作ろうとしたんです。すると、89秒の放送枠内でどれだけ印象を残せるかに命を懸ける、いわゆるアニソンナイズする際と同種の悩み方をしたのかなと。そこから抜け出すために、メロディの崩し方や普段は使わないようなリズムの組み込み方で試行錯誤をしていって。結果的にDAW(Digital Audio Workstation)のシーケンス上に、メロディトラックが5つも並ぶことに……サビだけでですよ?

ーーそれはまたすごいことを……。

桑原:今回は舞台チームからオファーを受けた時点で、具体的な楽曲のイメージをいただいていたのと、自分なりにもオケの部分で挑戦したいことがあったんです。最初のうちは、メンバーと「ちょっとラップ的にも挑戦したいね!」とか話して、ラップを入れようともしていたり。全然入らなかったですけど(笑)。

ーーたしかに今回のトラックだと、ラップを乗せるのは難しそうです。

桑原:現在のコミックス内で描かれる時間軸でいえば、ラップもマッチするかもしれません。ただ、今回の舞台でのストーリーにはなんとなく合わないかなと。

ーー武道(タケミチ)が物語序盤で泥臭く這い上がっていく姿は、ロックなサウンドだからこそ寄り添えるものがありそうですからね。桑原さんが考える、楽曲の聴きどころなどはありますか?

桑原:『東京卍リベンジャーズ』は“タイムリープ”という要素を持つ作品なので、楽曲内の各セクションに対して、時計の針が進むタイムエフェクトのような効果音を入れたところです。イントロでは特に、武道(タケミチ)が物語の序盤で駅のホームから線路に突き落とされた、“あの瞬間”を表現したいなと。アレンジやエフェクトは、僕の所属する制作チーム・Arte Refactから、山本恭平くんにアディショナルプログラミングのサポートをしてもらいました。

ーー印象的なエフェクトだなと思いました。

桑原:あとは男同士の殴り合いを表現するように、サウンドでもパワーを出す意識をしました。レコーディング時にもエンジニアを指名しまして。

ーーどなたに声をかけたのですか?

桑原:SIGN SOUNDの相澤光紀さんです。澤野弘之さんの作品でもエンジニアを担当されている方で、パワフルな音を録ってくれるんですよ。もう、たまらないですね。殴り合いや炸裂音のようなスネアが鳴ったりと、聴いていてめちゃくちゃ気持ちいいです。

ーー“力強さ”でいえば、今回は楽曲全体でシンセサイザーを使用していますね。

桑原:「HERO」の話からは少し外れるんですが、Sir Vanityで作ってきた今までの楽曲ではシンセサイザーではなく、意識的に生ピアノの音を選んできたんです。「悠」だけは、Arte Refactの酒井拓也くんにEDM系の上モノをお願いした、そもそもが打ち込みベースの曲だったので例外なんですけどね。実は最初は「Vanity」でもシンセを使い倒していたんですよ。

ーー実際に配信リリースされた楽曲は、生ピアノのものですね。

桑原:そうしたら、なんか「やり慣れたことをやっちゃったな」という印象に着地したので、トラックダウン直前にシンセ部分のデータはすべて消しました。

ーーえぇ!?

桑原:その過去のバージョンはいずれ発表するかもしれません。ただ、Sir Vanityとして始動するタイミングで世に出す楽曲は、それぞれ異なるアレンジにしたかったので。そんな過去も踏まえつつ、今回の「HERO」ではシンセのサウンドを多用しています。理由は、そうしないと『東京卍リベンジャーズ』でタイムリープする、12年間の時間の変化を力強く表現しきれないと考えたからですね。どこを聴いても、この作品らしいサウンドになっていると思いますよ。制作当時は『東京卍リベンジャーズ』のことしか考えていなかったので。

ーーそうした楽曲作りへのこだわりについて、その背景には“より難しいことをしていこう”とする、バンドの成長意識なども少なからず反映されているものですか?

桑原:いえ、『東京卍リベンジャーズ』に対して感じた想いが率直に表れただけです。逆に、これから発表していく楽曲はもっとシンプルなバンド構成のものになっていますよ。

ーーもう次の作品が……!

桑原:近いうちに新曲が連続リリースされますので、楽しみにしていてください。

ーーちなみに、桑原さんはアニメ・舞台など様々なメディアで幅広く展開するゲームアプリ『あんさんぶるスターズ!!』でも音楽を手掛けていますが、都度メディアに応じてアニメだからこうすべき、舞台だからこうすべき……といった制作上での決まりごとなどはあるのでしょうか?

桑原:舞台だから特別に……といったことはありませんが、楽曲がどんな場面で流れるのかはすごく意識しますね。もともと僕はアニメ音楽がものすごく好きなんです。それこそ僕が音楽を聴いて育った時代でも、例えばTVドラマの主題歌はものすごく素敵なものでした。ただ、作品のストーリーとのマッチングよりも、「なんとなくこのアーティストが人気だから主題歌を歌っているのかな?」という感覚もあって。そこでアニメ音楽と出会った時に、「なんて作品とリンクした音楽なんだ!」と感動したことが、この仕事に就きたいと思ったきっかけなんですよね。

ーーその感覚、すごくよくわかります。

桑原:アニメに限らず、映像作品と重なる音楽って、ものすごく強い親和性が生まれるものです。だからこそ今回の舞台では、脚本を読み込んだ上で、音楽とステージのリンクを大切にした楽曲を作ることを念頭に置いていました。劇中でも、「HERO」は特にインパクトがあるシーンで流れるので、鑑賞中には「ここだな!」と気付いてもらえると思います。

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