スカート、Official髭男dismら擁するIRORI Recordsレーベル長インタビュー 徹底した“アーティスト・ファースト”の姿勢
「IRORI Records」設立、ポップス性を共通項にしたアーティストたち
ーーそして昨年5月には新レーベル「IRORI Records」を設立。スカート、Official髭男dismの2組からスタートしましたが、レーベル発足の経緯を教えてもらえますか?
守谷:こういう仕事をしている以上、好きなアーティストと一緒に音楽を発信できる場所を作りたいという気持ちはずっとあって。そうは言っても大きな会社なので、自分でレーベルを立ち上げるのは難しいなと思っていたんですが、ちょうどいいタイミングで会社から「自分のチームを作ることに興味はないか?」という話があって。もちろんヒゲダンの成功も大きいと思いますが、僕としてはチャンスだし、ぜひやってみたいと。それがレーベル設立発表の2カ月くらい前ですね。まずスカート、ヒゲダンの2組で始まったんですが、その時点では、他のラインナップはほとんど見えていなかったです。
ーーその後、Homecomings、Kroi、SOMETIME’Sがレーベルに参加。
守谷: Homecomingsは、カクバリズムがSecond Royal Recordsと共同マネージメントになった流れで「ウチでやりましょう」と。スカートと同じで、リスナーとして以前から聴いていたし、迷うことはまったくなかったです。Kroiはレーベルを立ち上げる直前に出会って、一瞬でヤラれて。ポニーキャニオンのカラーよりも、IRORIのほうがフィットするなと思ったし、メンバーも賛同してくれたので、一緒にやることになりました。SOMETIME'Sは、以前からお付き合いがある渋谷Milkywayのスタッフからデモ音源を聴かせてもらって、いいなと思い、制作を手伝っていたんです。そのときは僕の個人的な動きだったんですけど、メジャーリリースのタイミングで、IRORIから出してほしいなと。
ーーそれぞれの音楽のどんなところに惹かれましたか?
守谷:Homecomingsは、ボーカル畳野彩加の表情豊かなボーカリゼーションと、息を飲む美しいコーラスワーク、彼らにしかないグルーヴに惹かれました。ギター福富優樹の詩が楽曲をビビットに温かく彩っていて、メジャーシーンにもフィットする可能性を感じました。以前よりフェスやイベントなどでも独特な存在感を発するオンリーワンなバンドだという印象がありました。彼らのルーツでもあるインディー精神、音楽性をしっかりと残しつつも、よりエバーグリーンな楽曲を残すバンドとしてキャリアをバックアップしていきたいです。
Kroiは彼らが自主制作していた「Fire Brain」「Network」という楽曲をたまたまサブスク で聞いた時に、瞬間的に「めちゃくちゃカッコいいな」と思いました。アートワークのセンスも抜群でしたし、実際にコンタクトを取ったのがコロナ禍だったので最初はリモートで会話をしたのですが、メンバーの個性もすごく魅力的で惹かれました。いろいろ話してみると音源のミックスはメンバーの千葉大樹(Key)が担当していたりと自分達自身のサウンドイメージをしっかり持っていて。こんなバンドはなかなか出会えないと思い、ライブを見ずともすぐ契約したいと猛アプローチしました。音はもちろん、ビジュアル、MV、ファッションなど彼ら独自で発信するカルチャーを、しっかりメインストリームにフックアップして、日本のみならずグローバルに新しい音楽シーンを提示できるアーティストになると思います。
SOMETIME'Sも自主制作で会場限定販売していた音源を現在マネージメントを共同で行っている渋谷Milkywayというライブハウスの方から送ってもらって聞いたのが最初です。ボーカルSOTAの日本人離れしたグルービーな声色も素敵でしたし、90’sのフレーバーのする懐かしいメロディがベースにありながら、英語詞を織り交ぜた独特の歌詞や歌い回しがどこか新鮮で、意外といそうでいないアーティストだなと。一言で言えば「グッドミュージック」で一聴したら頭から離れなくなり、インディーズタイミングから一緒に制作をスタートすることになりました。様々なミュージシャンの力を借りながら、気張らず彼ららしいグッドミュージックをずっと発信し続けてほしいです。老若男女世代を選ばない方々に好いてもらえる音楽、アーティストだと思っていますので近い将来、J-POPシーンを席巻するアーティストになってくれると信じています。
ーー彼らとの制作における印象的なエピソードはありますか?
守谷:厳密に言えばHomecomingsは僕自身は現場でディレクションをしていないアーティストなのですが、担当ディレクターの言葉を借りると、デモから楽曲のイメージがしっかり組み上がっているので、エンジニアの荻野真也さんとコミュニケーションをとりつつ、楽曲に落とし込んでレコーディングしています。「メジャーだから」といった価値観や流行に流されることなく、より良い楽曲を残すことを意識して制作しています。
Kroiは全員がブラックコーヒーバカ飲みバンドです(笑)。一回のRECでどれぐらい飲んでるんだろうと測ったら1リットルのペットボトルが25本くらい空になったなど、100あるうちの99はくだらない話しかしていないのでここにあげられない話もいっぱいあるのですが(笑)。というのは冗談で、音楽やアーティスト活動にはとてもストイックなバンドです。レコーディングは1音1音こだわって制作しているので、いつも長時間に及びますし、Kroiというバンドのブランディングもメンバー全員がしっかり意識を持っていて。普段のふざけたキャラクターからは想像できないギャップがたまらなくカッコいいなぁと日々思っています。
SOMETIME'Sは紆余曲折を経て活動をスタートさせた2人なので、びっくりするぐらい彼らを応援してくれるミュージシャンが多く、「えっこの人も知り合い?」なんてことはザラで、その人脈の多さにいつも驚かされています。それだけ人に愛される2人で、いい意味でそういったミュージシャンとともに“他力本願”で制作やライブを行なっています。あと、SOTAが将棋にハマっていることから、レーベル内でちょっとした将棋ブームが起きたこともありましたね。
ーー5組ともまったく毛色が違いますが、レーベルの方向性として、ジャンルに捉われないという意図もあるんでしょうか?
守谷:確かに毛色は違いますが、共通軸としてポップス性があるのかなと。ポップスにはジャンルの壁がないし、実はいろんな音楽的チャレンジができるんですよね。僕自身飽き性で、特定のジャンルを聴き続けているというより、そのときに興味があるものを聴くタイプで。意欲的なチャレンジをしているアーティストが好きだし、IRORIに参加してくれているバンド、アーティストも、ポップスという軸を持ったうえで、新しいこと、革新的なことをやろうとしているところがいいなと思っています。
ーー音源、映像の制作チームは、アーティストごとのオーダーメイドですか?
守谷:そうですね。やり方はアーティストごとに違うし、こちらから「こういうチームで」と提案するというより、本人たちと話し合いながら決めています。自分なりにエンジニアや映像ディレクターなどの資料を作って、「どういう人とやってみたい?」と意向を聞きつつ進めていくというか。“アーティスト・ファースト”であることは徹底していますね。
ーーアーティスト主導が基本姿勢なんですね。
守谷:完全にそうです。そもそも、そのアーティストの音楽に惹きつけられて一緒にやっているので、僕のほうで「ここを変えたい」みたいなことはないんですよ。もちろんレコーディングの質、音源の質を上げることは必要ですが、それ以外のことは言わないですね。一緒に仕事をしているアーティストには必ず、「メジャーに行くと、“こうしろ”ってもっと言われると思ってた」と言われます(笑)。
ーーストリーミングで聴かれるための対策などは?
守谷:リスナーのプライオリティが配信やストリーミングになっているのは間違いないですけど、自分たちがやることに変わりはなくて。いい音源を作って、聴いてもらう機会を増やすだけなんですよね。たとえば「ストリーミングは短い曲のほうが聴かれる」と言われていますけど、そういうマーケティング的な手法を音楽制作に取り入れるやり方はしていないですし。ある時期からマーケティングという言葉が苦手になってしまいまして。「そんなことで、いいものが作れるはずはない」くらいに思ってますね、今は。そもそもヒゲダンの「Pretender」は5分半くらいありますから。クイーンの映画(『ボヘミアン・ラプソディ』)でも、そういうエピソードがあるじゃないですか。
ーー「ボヘミアン・ラプソディ」をシングルとしてリリースしたいと主張するメンバーに対し、「そんな長い曲、売れるわけない」とレーベルのトップが反対するっていう。
守谷:あれって過去の成功例をアーティストに押し付けているだけで、ぜんぜん正解じゃないんですよね。答えがわかってたら、そんなにラクなことはないわけで(笑)。ストリーミングに関してやったことがあるとすれば、臆せず配信したことですね。当時はまだメーカーとしては「先に配信すると、パッケージの売上が下がる」という見方があったんですけど、とにかく聴いてもらう機会を増やしたかったし、それがヒットにつながる可能性があると思ったので。
逆の話になりますが、もちろんパッケージリリースも大切にしています。ストリーミングが主流ですがまだ100%ではない。ストリーミングのみでのリリースになるとストリーミングで音楽を聴いていない数%の人たちのリスニングチャンスを逃してしまう可能性がある。今の時代様々なスタイルで音楽を聴く人がいる状態なのでその多様性に準じて全てのリリース形態でリリースすることも心がけています。1曲入りのCDだってそれでしか聴けない人もいるわけで、素晴らしい音楽を発信しているという自負があるのであれば「聴けない人を作らない」ということを一番優先しているかもしれません。
ーーなるほど。ちなみに“IRORI Records”というレーベルの由来は?
守谷:横文字は自分の性分に合わなかったので、和製の言葉がいいなと思っていたんですよね。まさにコロナ禍のなかで立ち上がったレーベルだったんですが、ヒゲダンのメンバーとリモート会議をしていて、ポッと出た“IRORI”という言葉がしっくりきて、レーベル名に採用しました。日本語の“囲炉裏”なんですが、英語だと“IRORI”で回文になっていて視覚的にもいいなと。意味合いとしては、囲炉裏を囲んでいる時間には愛おしさがあるし、そんな音楽を世に提示したいという気持ちがあって。あと、「囲炉裏で食材を調理すると、余計な味付けをしなくても素材の味を生かして美味しくいただくことができる」というのも、レーベルのマインドと近いなと思っています。僕らが下手な色を付けたり、奇を衒った戦略を取ったりしないで、アーティストが持つクリエイティビティ、その魅力がより多くの方に伝わる形を取りたいので。
ーーアーティストを支えるレーベルやスタッフは、あくまでも裏方だと。
守谷:そうですね。まずはアーティストの楽曲を聴いてもらって、「このバンドもIRORIなんだ」っていう立ち位置がいいなと。
ーー今後もアーティストは増える予定なんですか?
守谷:増やしたいと思っています。実際、来年リリース予定のアーティストも控えているので。すでに出来上がっている人というより、1から一緒にやっていけるアーティストが中心になると思いますね。そのほうがこちらもやりがいがあるので。
◼所属アーティスト
スカート:https://skirtskirtskirt.com
Official髭男dism:https://higedan.com
Homecomings:https://homecomings.jp/
Kroi:https://kroi.net/
SOMETIME'S:https://sometime-s.jp/
IRORI Records HP
IRORI Records Twitter