『トワイライト』インタビュー
スカート 澤部渡が考える、ポップミュージックの宿命と醍醐味「いつか打順が回ってくるといい」
スカートの澤部渡は、ポップミュージックが抱えている宿命と今も戦っていた。メジャーでの2作目となるアルバム『トワイライト』は、マニアックさを持ちつつも、多くの人々に聴かれうるポピュラーさをあわせ持つ、まさにスカートならではの音楽だ。2018年秋、シングル『遠い春』のリリース時のインタビューでは、ストリーミングサービスで音楽配信を解禁するかどうかの話題も出たが、『トワイライト』のリリースまでの間に解禁となったのも、スカートを取り巻くひとつの大きな環境の変化だった。メジャー2作目での変化はどういうものだったのか、澤部渡に聞いた。(宗像明将)
「アルバムに絶対入れるぞ」という気持ちで制作したシングル曲
――ジャケットのイラストを手がけた鶴谷香央理さんは、どこで知った方なんですか?
澤部:もともと僕がファンで。ウラモトユウコさんという方の漫画を好きになったとき、その方がインターネット上で絵しりとりをやってて、その時のメンバーがオカヤイヅミさんとウラモトさんと、鶴谷香央理さんだったんですよね。それで、コミティアで発表されている同人誌や、『モーニング』の読み切りを読んでいるうちに、『メタモルフォーゼの縁側』という漫画が「このマンガがすごい!」(宝島社発表の漫画ランキング)で1位に選ばれるヒット作になって。
――漫画の一コマの引用のようですが、これは描き下ろしなんですか?
澤部:描き下ろしなんですよ。いわゆるキメコマじゃないコマを描き下ろしてもらった感じですね。架空の漫画の一コマをサンプリングするというアイデアを、アートディレクターの森敬太さんが提案してくれて。スカートという架空のバンドのジャケットに、架空の漫画の一コマが載るのがいいなって思ったんですよね。
――今、CDパッケージを見せてもらいましたが、表面のイラストの部分がエンボス加工なんですね。
澤部:そうそうそう。空押ししてあるんですよ、そこにステッカーが貼ってあります。
――そうやって今回もパッケージに凝っていますが、『遠い春』でインタビューした後に、これまでの作品をストリーミング解禁するという大事件が起きましたね。
澤部:普通に会社の意向ですよ(笑)。「さすがにもうやったほうがいいんじゃないか?」「わかりました」と。まぁ時代の流れとしてはしょうがないでしょう。たぶん自分ひとりでやってたら、まだ解禁してないんじゃないかな。
――2017年の前作『20/20』から今回の『トワイライト』で、アルバム制作について感覚的に変わった部分はありますか?
澤部:やっぱりシングル曲があったのは大きいですね。
――シングルが2枚ありましたもんね。
澤部:そうですね。1枚だったら『CALL』でも『20/20』でもあったんですけど、「アルバムに絶対入れるぞ」っていう気持ちでシングルを制作したのは初めてだったので。「シングル曲だからアルバムの流れから外れちゃうな」とは言いたくなかったんですよね。
――シングル曲を最初から収録しようとしたのはなぜですか?
澤部:それはもうポップミュージックの宿命という感じですかね。単純にそこまでたくさん曲を書けないというのもありますけど(笑)。
――シングル収録の「遠い春」「君がいるなら」「花束にかえて」は、それぞれ主題歌・挿入歌と、すべて映画のタイアップソングですよね。クライアントワークだと変わるところはありましたか?
澤部:もう全然違いますよ。作品に寄り添った内容の曲というオーダーがあるので。ふだんは自分で土を耕すところから始めなきゃいけないんですけど、その作業がないですからね。
信頼を寄せるバンドメンバーと作り上げたサウンド
――今回の『トワイライト』は、1曲目がNegiccoのKaedeさんに提供した「あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)」で幕を開けます。Kaedeさんのバージョンと一番違うのは、澤部さんが歌いあげているところですね。
澤部:そんなに歌い方を変えたつもりはないですけど、キーの設定を同じにしたので、どうしても強く出さなきゃいけない部分はありましたね。
――なぜ同じキーで歌ったんですか?
澤部:曲のキーをいじりたくないんですよ。「この曲にはこのキーが一番合ってる」と思って作っているので、声が出るならそのまま歌おうと思いました。
――「あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)」が1曲目なのは、いかにもスカートのアルバムらしい幕開けですね。
澤部:そうなんです。「スカートあるある」で、アルバムがギターから始まりがち(笑)。実は『20/20』の制作が終わった直後に書いた曲なんですよ。なので、この曲で次のアルバムが始まるというのは、僕的には「きれいに円が描けた」という感覚がありました。
――2曲目の「ずっとつづく」では、スティールギターが響きます。
澤部:スティールギターは矢部(浩志/ex.カーネーション)さんなんですよ。あれだけドラムも書く曲も素晴らしいということは、絶対歌心がある方なのだろうとずっと思っていたんです。カーネーションのトリビュートアルバム(2013年『なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?』)で「月の足跡が枯れた麦に沈み」を歌わせてもらったときに、矢部さんにスティールギターを弾いていただいたんですよ。あれがめちゃくちゃ良かったから、今回この曲でもご一緒させていただくべきだなって思ったんです。
――3曲目はシングル「君がいるなら」ですが、ちなみにシングルのセールスは気にしますか?
澤部:僕は気にしますけど、会社の人は「これはプロモーションですから!」という予防線を張ってくれてます(笑)。アーティストのメンタルを理解してくれているんだなぁと(笑)。
――でも、悪い数字ではないですよね。
澤部:自分の中で一生メインストリームには行けないんじゃないかっていう焦燥感がどこかにあるのかもしれないです。それもまた贅沢な話で、変わらないで行けるんだったら行きたいということでもあるんですけど。もちろん活動規模が大きくなっていく中で拡張したり、形が変わっていくことは僕は仕方がないことだと思うんです。だけど、自分からパイオニア精神を持って、洞窟の先を懐中電灯で照らすようなことはできないと思っていて。
――逆に言うと、それは自分たちのやっていることに対してものすごく自信があるということですよね。
澤部:そうかもしれない(笑)。
――微妙な塩梅の回答ですね。
澤部:そうなんですよ。すごく自信もあるし、その反対の気持ちも常に持っていて。「絶対君は死んだ後に評価されるから大丈夫」って言う人と、「いやいや、今の時代を見てみな」って言う人が、常に自分の中にそれぞれいるんですよね。
――そんな葛藤を抱えつつ、4曲目の「沈黙」はパーカッシブですね。
澤部:とにかくシマダボーイのパーカッションがかっこいい曲を1曲作りたいと思ってたんですよ。あと、前のアルバムで16ビートっぽい曲がなかったので、今回は1曲はやりたいなと思って作りました。
――5曲目はシングル曲「遠い春」。徳澤青弦カルテットが参加しています。「遠い春」のインタビューのときに「今はもう生楽器をたくさん増やしたからといって派手になる感じじゃない気もするんですよね」と言ってましたけど、この曲に弦を入れた意図は?
澤部:聴いていただければわかる通り、たしかに弦の音の力は素晴らしくあるんだけれど、この楽曲の間合いをしっかりと見た佐藤優介のスコアの素晴らしさですよ。とにかく間奏は派手なだけじゃない、素晴らしいパートになっていると思います。佐藤優介自体が「生きる音楽」みたいな部分がある人なので、楽曲にどういうものを足したらどうなるかをちゃんとわかってアレンジしてくれるんです。彼のセンスはいつもとても信頼しています。