LACCO TOWER 松川ケイスケと真一ジェット、ユニット発足の経緯 “松川ジェット”で表現した昭和~平成の女性たちの生き様

松川ジェットが歌で表現する”女性の生き方”

美空ひばり、山口百恵、中森明菜……女性シンガーの名曲をフィーチャー

ーーいろいろなアイデアがあったでしょうけど、メジャーデビュー作は女性シンガーの名曲に絞ったアルバムとなりました。

松川:アルバムの起点になったのは、美空ひばりさんの「真赤な太陽」なんです。話し合いの早い段階で、この曲を僕の声でカバーしたらハマるんじゃないかってアイデアが生まれたのがよかった気がしますね。

ーーめちゃめちゃハマってます。ケイスケさんの歌にこれまで触れてきたにもかかわらず、1曲目に置かれた「真赤な太陽」でいきなり度肝を抜かれました。喉の使い方がすごくパワフルで。

松川:ああ、嬉しいです。ありがとうございます!

真一:ケイスケの歌が強烈で、まさにガツンときますよね。LACCO TOWERとはまったく違う響きに驚いてほしいです! 耳当たりがかなり新鮮だと思うんで。ピアノはロックンロール寄りな弾き方をしていて、こういうのもバンドではあまりやってないです。

松川ジェット「真赤な太陽」/MatsukawaJET「Makka Na Taiyou」

ーー山口百恵さんの「イミテイション・ゴールド」もアタック感の強いピアノが際立ったロックテイストですよね。

松川:「イミテイション・ゴールド」は打ち込みにしてみたり、オーソドックスにベースとドラムを入れてみたり、真一がいろいろやってくれたんですけど、最終的にはこのキリッとした形になったね。

真一:EDMアレンジになりかけたときもあったりね。二転三転してのシンプルなロックです。

松川ジェット「イミテイション・ゴールド」/MatsukawaJET「Imiteishon Goorudo」

ーー収録曲のラインナップを最初に見たときは渋く浸れる感じのアルバムなのかなとも思ったんですけど、実際に聴いてみると2人の歌とアレンジにすごくワクワクさせられる内容でした。

松川:「真赤な太陽」をやると決めてから、ただ単に自分たちが好きな曲を取り上げるよりも、もっとテーマを絞ったほうが面白いなと思って。昭和から平成にかけての女性シンガーの名曲、しかも当時の時代背景や女性の生き方が表われている歌を、『彼女の出来事』というタイトルのもと、ピックアップしてみたんです。結果、普通のカバーアルバムとは一線を画したものにできたんじゃないかなと。

真一:始めにスタッフを含めたみんなで曲を持ち寄ったんですけど、その時点でもう女性シンガーの曲が多かったんですよ。

ーーケイスケさんは女性目線の曲が似合うというか、好きですもんね。

松川:はい(笑)。女性シンガーの曲というよりは、女性目線で歌った曲が好きなんです。たとえば、長渕さんの「いつものより道もどり道」とかも大好きで。女性目線で書いた曲を男性が歌うのも好きだし、知らない誰かの物語を当事者ではない人が歌っているアンバランス感が聴いていてとても心地よくて、そういう表現がしたいんですよね。実際、バンドでも多いアプローチだったりします。

ーー「薄紅」「炭酸水」「桜桃」とか、言われてみればLACCO TOWERにも女性目線で歌った曲がたくさんありますよね。中森明菜さんの「少女A」のテイストなんかは特にしっくりくる感じがしました。

松川:LACCO TOWERの「少女」という曲では、〈あたいは少女A〉とモロに歌っていたりもしますしね。こうやって話していて、今作のテーマに行き着いたのはすごく自然なことなのかもしれないなと思えてきました。

ーー自分たちのオリジナルのように歌えた曲も多いんじゃないですか?

松川:そうですね。バンドのときは短い小説みたいなものをまず書いて、そこから歌詞を作っていくんですが、今回は作詞がないぶん、場面をしっかり思い浮かべて歌うことを心がけました。そのシーンの色、時間帯、登場人物の雰囲気だったりを頭の中に置くと、自分の曲のように入り込める感じがしたので。物語性のある曲、情景が浮かぶ曲をそもそも選んではいるんですけどね。

真一:すべてヒット曲ではあるんですけど、ありがちなラインナップじゃなくて、ちゃんと一歩踏み込んだ選曲になったと思いますね。ミーハーな感じがないし、僕らが楽しんでカバーしているのも伝わるんじゃないかな。あと、何よりもケイスケの歌の振り幅がハンパじゃない。

ーーそこは大きな聴きどころですよね。

真一:はい。僕はバンドで歌っているケイスケしか知らなかったんですけど、カバー作を通してまたぜんぜん別の色気が発見できた感じがします。いしだあゆみさんの「ブルー・ライト・ヨコハマ」もすごく味があって、いざ録ったら想像を遥かに超えてきたというか。「橙」や「炭酸水」みたいな、LACCO TOWERの歌謡曲テイスト寄りの作品に近くなるのかなと思ったら、そうでもなかったじゃない?

松川:キー設定を何回も考えたのがよかったのかもね。半音ずつ下げたり上げたりを繰り返して、いい響きのポイントを入念に探したじゃん。「ブルー・ライト・ヨコハマ」には、年齢を重ねたからこそ出る声の味があるんだと思います。

松川ジェット「ブルーライト・ヨコハマ」/MatsukawaJET「Buruu Raito Yokohama」

ーーケイスケさんが特に歌えてよかったと思う曲は?

松川:NOKKOさんの「人魚」、中島みゆきさんの「悪女」ですかね。自分の曲っぽく歌えた点で。バンドアレンジとは違って音圧が強すぎないので、歌が埋もれる感じを考えたりせず、気持ちよく1対1の構図でサウンドと向き合えたのが楽しかったです。どうやっておいしく歌を響かせていこうか、みたいな。この2曲は声の擦れ方まで意識して歌えました。先日、MUCCの逹瑯さんとラジオでご一緒させていただいたんですけど、中島みゆきさんの曲で「悪女」がいちばん好きらしくて、そこで音楽的な話ができたのも嬉しかったですね。今まではLACCO TOWERの新曲について語ることがほとんどだったんで、過去の名曲から共通点を引き当ててお話するのもいいものだなと思って。そういう意味でも、カバーに挑戦してみてよかったです。

松川ジェット「人魚」/MatsukawaJET「Ningyo」

松川ジェット「悪女」/MatsukawaJET「Akujo」

LACCO TOWERとは違うスタイルのアレンジも魅力に

ーー真一さんのアレンジ面に関してはどうですか?

松川:全曲を通して“コイツこんなことできるんや!”みたいな衝撃がありました。ボーカルと同じく、バンドだとわからなかった部分ですよね。音を抜き差しする上手さとか、打ち込みのアレンジとか、音楽家として多彩なんだなっていう。今さらかもしれんけど(笑)。竹内まりやさんの「駅」なんか、LACCO TOWERではまず聴けない質感だと思います。

真一:「駅」はわりと初めのほうにできて、これがひとつの指針になった気がするんですよね。ケイスケに聴いてもらったとき、「すごくいい!」と言ってくれたんで。僕としては1人でアレンジを仕上げたのが初めてだし、不安でドキドキだったんですけど、そこで自信がついた感じがします。

松川ジェット「駅」/MatsukawaJET「Eki」

ーーピチカート・ファイヴの「東京は夜の七時」はいちばん意外性のあるセレクトでした。

松川:ですよね。最も予想外の仕上がりになった曲でもあるかな。原曲を聴いていても“どうしようか?”と悩んじゃう感じで。ボーカルを録る2週間くらい前まで、アレンジの方向性をああでもないこうでもないと試行錯誤した末、ギリギリのタイミングで開き直れた気がします。野宮真貴さん独特の歌い回しも苦労しましたけど、終わってみればいい塩梅にまとまったんじゃないでしょうか。

真一:<TRIAD>レーベルの先輩の曲にもトライしたかったんですよね。歌謡曲のトーンが強いアルバムの中で異彩を放つ感じになったので、渋谷系と形容されるこの曲は入れてよかったなと思います。当時の時代背景や憧れの対象みたいなものがパシッと伝わりますから。

松川:小学生の頃に聴いてた曲だけど、あらためてMVを見直してもすごいんですよね。あの時代にこんなアプローチをしていたんだ、みたいな。誰もやっていなかったことをやっているのがわかる。

松川ジェット「東京は夜の七時」/MatsukawaJET「The Night Is Still Young」

ーー楽曲以外の部分では、イラストのアートワークも印象深いです。

松川:ジャケットはあまり時代を感じさせない、新しいようで古いような、古いようで新しいようなものにしたかったんですよね。原曲のアンニュイさが伝わるようにもしました。たとえば、中島みゆきさんの「悪女」に漂う、祭りのあとみたいなテイスト。何かしらの出来事が終わったときのちょっとブレイクしている情景。悲しみから始まって、少し良いところまで持っていこうとするんだけど、持っていけずに終わっちゃう。80年代の曲に多いこの空気がすごく好きなんです。

松川ジェット

ーーアーティスト写真はLACCO TOWERの『変現自在』(2019年発表のアルバム)のジャケットを彷彿とさせる色使いだなと思いました。

松川:特に意識してないんですけどね。でも、せっかく松川ジェットとして新しいプロジェクトを始めるので、いろいろなものを取り入れてどんどん変わっていきたいんですよ。その気持ちを表現したかったのはあります。2人の衣装もこれまでのスーツスタイルから一新して、今日着ているようなカジュアルな恰好にしたり。アー写もポップなカラーリングのイラストにしたりね。言ってみれば、“変現自在”でありたい想いは自然と入ってるんです。

真一:2人を足した感じのアー写になるって聞いてたんですけど、ヒゲの部分しか俺の要素は残ってないです(笑)。ま、それはいいとして。アレンジでも初めて打ち込みを使っていたり、自由度が広がったところも注目してほしいです。

松川:ジャケ写もアー写もekakinokoさんに描いてもらいました。我々と縁のある群馬つながりのイラストレーターの方で、いつもすごくお世話になってます。

ーーしかし、LACCO TOWERでメジャーデビューした6年前には想像できなかったですよね。こういうカバーアルバムを作ることになるなんて。

松川:夢にも思わないですよ(笑)。まさか、真一と再メジャーデビューするとは……! 面白いもんですよね、本当に。今までにないような声のアプローチもできた感じなので、LACCO TOWERを知っている方にはそのあたりを楽しんでほしいですね。そうじゃない人には曲から入ってもらって、バンドのことも知ってくれたら嬉しいです。

真一:いちばん聴いてほしいのは、歌とメロディと歌詞ですね。そこを踏まえてアレンジをしたつもりなので。名曲を少しでも先の未来につなぐ、そんな手助けができたら最高だなと思います。

ーー今後もカバーをやっていく予定はありますか?

松川:たとえば、次は『彼氏の出来事』とかもいいよね。

真一:そうだね。あとは、松川ジェットのYouTubeチャンネルも新たに立ち上げたので。

松川:録ったものをどんどん出すスタンスでカバーをアップしていく予定です。そちらもチェックしてみてください。

ーーLACCO TOWERを誰かがカバーしてくれるとしたら、どの曲をやってほしかったりします?

松川:たまにTwitterで「カバーしました」的なリプライをいただくことがあるんですけど、みんな一様に「難しい」って言うんですよね(笑)。

真一:最近の曲だと「若者」かな。ぜひ、若者にカバーしてもらいたいです!

LACCO TOWER「若者」
『彼女の出来事』

■リリース情報
松川ジェット
Major Debut Cover Album『彼女の出来事』
発売日:2021年7月28日(水)
価格:¥3,300(税込)

<収録曲>
1.  真赤な太陽
  作詞:吉岡治/作曲:原信夫
2.  人魚
  作詞:NOKKO/作曲:筒美京平
3.  少女 A
  作詞:売野雅勇/作曲:芹澤廣明
4.  ブルーライト・ヨコハマ
  作詞:橋本淳/作曲:筒美京平
5.  イミテイション・ゴールド
  作詞:阿木燿子/作曲:宇崎竜童
6.  東京は夜の七時
  作詞・作曲:小西康陽
7.  駅
  作詞・作曲:竹内まりや
8.  人形の家
  作詞:なかにし礼/作曲:川口真
9.  悪女
  作詞・作曲:中島みゆき
10. ラヴ・イズ・オーヴァー
  作詞・作曲:伊藤薫

◎主要配信サイトリンク:https://va.lnk.to/matsuje_kanojo
■松川ジェット オフィシャルサイト:https://matsukawa-jet.bitfan.id/
■Twitter公式アカウント:https://twitter.com/matsukawa_jet
■YouTube公式チャンネル:
https://www.youtube.com/channel/UCwNyGsWqVWruc8iYbc_tpEQ
■日本コロムビアHP:https://columbia.jp/matsukawa-jet/

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