オリヴィア・ロドリゴ、『ハイスクール・ミュージカル』での名演が成功のカギに アーティスト活動との共通点&ギャップに迫る
オリヴィア・ロドリゴを語る上で、『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』(Disney+、以下『HSMTM』)の存在を避けて通ることは出来ないだろう。2006年に放送されたテレビ映画と同じイースト高校を舞台にしたドラマシリーズとして2019年11月より米・Disney+で配信が開始、今年5月からはシーズン2の配信もスタートした本作において、オリヴィアは主人公であるニニ役を演じ、一部劇中歌の作詞作曲も担当している。近年のポップシーンを代表する楽曲となった「drivers license」も、歌詞中に仕掛けられたオリヴィアと共演俳優の実際の恋愛を示唆していたことでファンを中心に火がついたことを踏まえると、オリヴィアの成功は『HSMTM』の上に成り立っていると言っても過言ではない。
そんな『HSMTM』における最も象徴的な楽曲といえば、シーズン1のエピソード4で披露された「All I Want」だろう。この時点でニニと交際関係にあった恋人・EJとの別れを決意し、ジョシュア・バセット演じる元恋人リッキーへの想いを確かめる場面のために書かれた本楽曲は、当時16歳のオリヴィア自身が歌唱のみならず作詞作曲も担当したポップバラードで、全米シングルチャートにもランクインし話題となった。
注目すべきは、上記の設定を忠実に踏まえた上で、ドラマを見ていない人にとっても1つの優れたポップソングとして楽しめるよう仕立てたオリヴィアのソングライティング能力の高さだ。最初のヴァース、そして次のヴァースではそれぞれEJ、リッキーを彷彿とさせる男性への想いと、2人とも魅力的であると同時に問題も抱えていることを率直に語っている。2人の男性を前に迷いを抱く主人公は、コーラスで力強く「私は永遠の愛が欲しいだけ」と歌い上げ、自分の理想が高すぎるのか、あるいは欲張りなのだろうかと自問する。だが、ニニはこの問題を前に「結局のところ私は独りきり それでいいと思えることだけを今は望んでる」と結論付け、相手に合わせたり、擦り寄ったりすることなく、あくまで徹底的に自己肯定した上で幕を閉じる。
つまり「All I Want」はドラマの展開を彷彿とさせる、恋愛に悩む姿を描いた共感性の高い楽曲であると同時に、楽曲単体としても自分自身を肯定するエンパワーメントに溢れた力強い曲でもあるのだ。むしろ、ドラマの設定を楽曲のフレーバーとして活かすことで歌詞のリアリティの強度や普遍性が増し、それはオリヴィア自身の経験をベースにした「drivers license」以降の作風にも活かされていると言える。だからこそ、本楽曲はドラマのファンはもちろん、ドラマを見ていないであろうポップリスナーからも支持を集めることに成功したのである。あくまでニニ役として演じきるパフォーマンススキル、物語を踏まえた楽曲を書き上げる作家としての能力、そしてそれらを踏まえながら自身の考えを織り交ぜることで普遍的なポップソングに仕立ててしまう才能など、オリヴィアの原点が「All I Want」に詰まっているとも言えるだろう。
そして、現在中盤までストーリーが進行中のシーズン2においても、魅力的なオリジナル楽曲が次々と生まれている。今回のシーズンは、友人、そして恋愛関係となったリッキーを残し、俳優を目指してデンバーの学校へと進学したニニを中心に描かれているが、例えば「Granted」という楽曲では、新たな生活に全く馴染めず、リッキーとの関係もすれ違いが生じていく状況への苦悩と葛藤を切なくも激しいトラックに乗せて歌い上げている。制作を担当しているのは過去の『HSMTM』楽曲も手掛けてきた外部の作家だが、オリヴィアの歌唱における表現力はシーズン1から明らかに進化している。「drivers license」などでも印象的だった、ただ歌い上げるのではなく空気を織り交ぜた柔らかい質感の声色を使いこなし、ささやかなファルセットも交えながら歌うことでもどかしい感情も表現、ニニの葛藤を見事に表現した一曲となっている。