中納良恵×折坂悠太「待ち空」対談 コラボで体験したこれまでにない感覚、二人が思う“理想の歌”

中納良恵×折坂悠太「待ち空」対談

感覚だけど感情ではない 共通する“歌”に対するスタンス

ーー「待ち空」は折坂さんの歌から始まるのがインパクトありますね。

折坂:パート分けは、結構話し合ったんですけど。

中納:私は職人じゃないから、折坂さんがいい感じで歌えるキーを勝手に想像して作ってしまったから、ちょっと戸惑わせた。

折坂:いやいや、僕が、デモを返した時にパソコンのソフトで間違えてキーを半音下げていて。

中納:返ってきた音源を聞いて半音下げてたからめっちゃそれで練習してたという(笑)。

折坂:そういうヘマをやってるんですけど(笑)、でもさっき職人じゃないとおっしゃってたけど私も本当にそうで、感覚なんですよね。お互いに感覚ですり合わせる。感覚なんだけど、感情じゃない。この歌詞はこうだから、こう歌って欲しいんだよね、みたいな感じではなくて、ただ「どのキーでやりますか?」みたいな、実務的というか。だけどそれは感覚を持って擦り合わせているから。そういう作り方を中納さんがしているところを見て、そこにも勝手にシンパシーを感じて。「やっぱりそうだよね」って。歌は、感情的になりやすいと、たぶん二人とも思ってる。それが歌だと思うんですけど、感情に走りやすい部分をもう少し違う感覚で、作る時は作っていく。勝手に「ああ、そうなんだ、これでいいんだ」と思えました。

中納:そういう風に受け止めてくださって、ありがとうございます。美空ひばりさんが「悲しい酒」か何かを歌う時に、右目だけで泣くという話を聞いたことがあって。芝居なのか本当に泣いているのかはわからないですけど、すごく高いレベルでコントロールされてると思うんですよ。泣いても声のピッチとか技術的なところはブレない。でもエンターテインメントとして片目だけで泣くという、その奥深さにやられてしまい。だいぶ前ですけど、あれを見ると、ステージで泣いたらあかんと思うんですよ。歌は泣きながら歌ったらダメだと、すごく思ってて。自分もEGO-WRAPPIN'のライブの時に、泣きそうになる瞬間がいっぱいあるんですけど、泣いたらあかんと。お客さんは、そんなん見たいわけじゃない。自分の感情を見に来たわけじゃない。むしろ聴いてくれる人たちの感情を引き出すために、こっちは向かっていかないといけないから。

折坂:そのスタンスって、わかっていても保つのは難しい。自分で曲を書いて自分で歌っているから、自分のこととして発信してしまいがちなんですけど、どこかに「歌」という大きなものがあって、その歌は、お客さんがいて自分がいて、共有するもの。両者の間に浮かんでいる大きいものを皆で見る。そういう感覚を、中納さんの歌や、EGO-WRAPPIN'にも感じるんですよね。それは私の持つ「理想の歌」像みたいなものに近くて。だから今回、中納さんが曲を作る時も、こう思うから共感してほしいみたいな感じではなくて、「こんなのできた」って持って来てくれて、それを二人で見ながら相談して、それに対して何ができるか自分の力を膨らませていくというか。それがすごく心地よかったし、今まで中納さんの歌に惹かれて来たのは、そういうところだったんじゃないかな。初めて曲を聞かせてもらった時に、それがポーンと立ち上がったので、ああこうやってやればいいんだ、ってわかって。

ーーレコーディングはどんな感じだったんですか。

折坂:最初に聴いた時に、どっちのパートもあって、だんだん絡み合っていくイメージはあって。

中納:そうですね。キーの問題とかもあるし、合う感じで絡みあえたらいいなと。リハーサルの時に、こうしようああしよう、こっち歌おうみたいなことは何度かやりとりして。でも録音は1日だけでしたね。あまりやりすぎるのも良くないし。で、録ったら「これ! これ! よしっ!」て。全部が奇跡的というか。時間もない中で来てもらって、限られた時間の中で一緒にやるわけですから、全部がうまいこといってるなあと。いい歌い出しだし、ホント幸せでした。

折坂:自分の音源ではやったことのない、エレキギターを自分で弾いたりとか。ラジオの音も入ってるんですけど、自分の作品ではやったことがなくて。サウンド面では、そういう新しい試みを持っていったところがありました。歌に関しては、自然といったかなと思うんですけど、サウンド面に関しては自分でも、どうすればこういう印象になって、こういう完成形になるみたいなイメージがなかったので、ドキドキしました。初めてスタジオでプレイバックを聴いた時は、「大丈夫ですか?」って(笑)。中納さんが「大丈夫」っていってくれたから、「よしっ!」てなったんですけど(笑)。

中納:うちのドラムの菅沼(雄太)くんが、折坂さんのギターがすごく好きって言ってて。私も一緒にサウンドメイキングしてもらいたいなって思ったのでお願いしました。最近エレキギターを始めたと聞いてたので、「ぜひ!」って。歌う人のギターとかピアノとかって独特じゃないですか。それもちょっと期待して。折坂さんはどう思うかわからないけど、EGO-WRAPPIN'の森(雅樹)くんのギターと、ちょっと通じるところがあるなあと思って。こういうのが私は好きなんだなと思った。

折坂:大変光栄です。

中納:ギターの音もそうですけど、フレーズの持っていき方とか、森くんも独特だから。寄り添いたい人なんですよね。歌に寄り添うギターを、折坂さんもたぶん弾かれてる。鋭利なところもあるし、ちょっとトロッとしたところもあるし。

ーー曲のこと以外でも最近聴いたものとか色々お話しされたかと思いますが。

折坂:ちょっとだけしましたね。最近聴いてるのを1枚ずつ紹介したり。

中納:リハの時ね。折坂さんのInstagramも見せてもらってるんですけど、いろんなバンドをあげていて。そういうのもいいですよね。

折坂:中納さんもいろいろ聴かれてるなあと思った。歌うたいでやって来た人って、自分の信じてる確固たるものがあるイメージなんですけど、中納さんはその辺りが柔軟だなと思っていて。『あまい』を聴いても、新旧問わずいろんなものを聴かれてこうなったんだろうな、と。それでいて、歌うたいとしての確固たる何か、節回しみたいなのは強くあるし。その辺も自分が目指しているところに近くて。サウンドとかそういう面も、いろいろ貪欲に今あるもの、新しく出て来たものをちゃんと聴いておきたいというのもあって、普遍的な歌の部分で担保したいというのも変わらずにある。全体を通して、やっぱり尊敬できるなと思う。

中納:何でも聴くんで。聴くの、楽しいし。

折坂:私はこうだから、これしかできないからこれで行く、というふうじゃなくて、やりながら一緒に「どうしよう、どうしよう」って迷ってくれたし。正解を出す、ということではなくて、1から探してる感じが、素敵だなと。でも最初から「こんな感じだよね」「そうだよね」みたいなやりとりをしていたので、「待ち空」は「こんな風になるとは!?」みたいな感じよりは、想像してるものに近かったというか。それも自然にではなくて、考えて考えて出していった結果、「そうですよね」って。

ーー中納さんはEGO-WRAPPIN'とソロと、どのように分けて考えているんでしょう。

中納:ピアノで弾き語って歌って作る音がソロだし、EGO-WRAPPIN'は森くんと二人で、ギターに合わせて歌うという感じなんで、私の中では全く別ものというか。互いのロマンチックさも世界観も違うし。だから、ソロはソロでさーっと行けるんですけど、「そっち、ちゃうよ、こっちやで」って言ってくれる人がいないんで、わからなくなることも多い(笑)。でもまあいいかという感じで推し進めて。あと、EGO-WRAPPIN'は音数の多い中でやってるから、歌をもっと聴きたいなというのが自分の中でも増えて来て。歌の強さというか、そういうものをもっと出したいという気持ちが強くなってる。折坂さんも歌の強さがすごいから、コラボすることでどういう化学反応が起きるかなと、歌いながら思ってました。

折坂:『あまい』を通して聴いて、骨格の真ん中に歌があって、そこに音が添っていく感じがして。同じ、リズムがあって歌があって、というのでも全然考え方が違う。すごいなと思って聴いてました。

中納:コロナもあって、あんまり「イエーイ!」という気持ちになれなかったのもあるし、でもシンガーソングライターって内省的なものだと思うから、そういう表現の旅にも出たかった。バンドになると、パズルというかテトリスみたいな感覚だけど、ソロってどれだけマーブルっていうか、どれだけ混ざり合うかっていうのがあるから。嵌めるというより混ぜたかった。自分の歌があって、ピアノが入ってくる……わかりますよね?

折坂:はい。マーブル感。マーブルだから、打ち込みが入って来ても生楽器も、同列なんですよ。何かが飛び抜けてくるという感じより、そこにあるべき音が混ざって来ている。

中納:折坂さんのライブもそうですね。みんなが歌に向かっている感じがすごいいいと思った。乗っかってる感じじゃないというか。すごく楽しく見れました。

ーー『あまい』というアルバムタイトルにはどんな意味が?

中納:深い意味は常にないんですけど(笑)。甘い水に誘われて虫が集まってくる、そういうイメージが漠然とあって。甘い曲もあるし。あとは、「スウィートなんとか」とか考えてたんですけど、ちょっとカッコつけてるなあと思って、ひらがなで。ひらがな、折坂さんの影響受けてるかもです。3文字、多いですよね。「あさま」とか。

折坂:ああ、「たむけ」とか。

中納:あとは、音楽は深いから、自分の詰めの甘さとか脇の甘さみたいな(笑)、そういうのも含みつつ、いろんな「あまい」です。これができて、ひとつ締めがあったけど、またここから始まったというか。折坂さんに入っていただいて、いいスタートを切れそうです。

■関連情報
『Yoshie Nakano Film Live -sweetrip-』
7月2日(金)21:00~7月4日(日)まで期間限定でYouTubeに全編フル公開
https://www.youtube.com/c/EGOWRAPPIN_OFFICIAL

中納良恵『あまい』
中納良恵『あまい』

■アルバム情報
『あまい』
2021年6月30日(水)発売

・初回生産限定盤(CD+DVD)¥4,730(税込)
DVD:Yoshie Nakano Film Live -sweetrip-
※動画がスマホなどで再生できるQRコード付
良恵のあま〜いフォトカード10枚

・通常盤(CD)¥3,300(税込) 

<CD収録曲>
1. オムライス
2. オリオン座
3. Dear My Dear
4. SA SO U
5. 同じ穴のムジナ
6. 待ち空 feat. 折坂悠太
7. あなたを
8. ポリフォニー
9. 真ん中
10. おへそ

<DVD>
Yoshie Nakano Film Live -sweetrip-
Dear My Dear
SA SO U
あなたを 

オリオン座
おへそ

「あまい」特設サイト
https://nakanoyoshie-amai.com/

「あまい」ストリーミング・ダウンロード
https://TF.lnk.to/al_amai

■ツアー情報
『中納良恵 live tour “あまい”』
9月1日(水)名古屋市芸術創造センター
9月3日(金)広島クラブクアトロ
9月8日(水)LINE CUBE SHIBUYA
9月14日(火)NHK大阪ホール
9月24日(金)札幌 道新ホール
10月2日(土)福岡 電気ビルみらいホール

オフィシャルサイトにて先行チケット受付中
https://nakanoyoshie.com

中納良恵 オフィシャルサイト
https://nakanoyoshie.com

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる