乃木坂46 松村沙友理、真摯に向き合った10年間のアイドル人生 “らしさ”が詰まったラストステージを観て

乃木坂46松村沙友理、卒業ライブレポ

 第2部『松村沙友理 卒業コンサート』は彼女の10年間の軌跡を辿ると共に、一曲一曲にメンバーへの思いが滲むセットリストとなった。コンサートタイトルにも冠されている松村のソロ曲「さ~ゆ~Ready?」に始まり、「ガールズルール」「夏のFree&Easy」「ロマンスのスタート」と最初のブロックに選ばれたのは言わば王道のアイドルソング。彼女のパブリックイメージにある、元気いっぱいの松村の姿だ。

 今回のコンサートはセットリストやライブ演出に至るまでを松村自身が考案している。「可愛すぎて心配」な遠藤さくらがセンターを務める「ごめんねFingers crossed」に続き、白石麻衣の卒業後に松村を気遣い積極的に声をかけてくれた向井葉月が白石のポジションを担った「でこぴん」、プライベートで海外旅行に出かける仲である新内眞衣との「今、話したい誰かがいる」。〈だから僕たちは似た者同士/気の合う友達だと思ってる〉の歌詞が松村と新内の関係性をくっきりと映し出した同曲は、これからこの曲を聴くたびに2人を思い出すような見事な選曲。センターステージで涙を堪えきれなくなり抱き合う姿が、言葉以上に松村と新内の関係性を伝えていた。

 松村にはさゆりんご軍団に匹敵するほどの人気を誇るユニットがある。それが生田絵梨花とのからあげ姉妹だ。互いを尊重し合える関係性の松村と生田。「無表情」では3期生、4期生のメンバーが親衛隊としてコールを叫ぶ。小学生の頃から7年間、松村を推し続け乃木坂46に加入した矢久保美緒は、親衛隊隊長としてコールに参加。松村と生田の間で常にカメラに抜かれながら、『乃木坂工事中』(テレビ東京系)で失敗してしまったコールのリベンジを果たした。今回のコンサートが初披露となる笑顔弾ける「1・2・3」、さらに続くのは「やさしさとは」。乃木坂46の初期楽曲は1期生の卒業によりオリジナルメンバーで披露できる曲は極わずかになってきている。「やさしさとは」もその一曲。松村の腰に腕を回し、頬に伝う涙を拭ってあげる生田が、代々卒業生を見送ってきた1期生としての襷を受け継いでいるように思えた。

 そして、涙なしには見られなかったのが「急斜面」だ。同年代の白石麻衣、橋本奈々未と共に、乃木坂46の御三家の一人と呼ばれていた松村。その御三家として唯一のユニット曲が「急斜面」。橋本の卒業前に日本武道館で開催された『Merry Xmas Show 2016』で可愛い衣装を着て「アイドルになる」という夢を3人で叶えた「Threefold choice」、白石と松村で「7(なな)」「3(み)」とハンドサインを送った『8th year birthday live』の「ないものねだり」と、離れていても御三家の絆はずっと続いてきた。御三家最後の一人として「急斜面」を歌い抜くことを決めた松村。間奏ではサイリウムカラーである赤のスポットライトに松村が照らされ、そこに白石の青、橋本の緑がゆっくりと近づいていく。思い出すのはぴったりと身体を寄せ合っていたかつての3人。〈好きだ!〉と思いを叫び、満面の笑みを浮かべる松村に御三家の鮮やかな終幕を覚えた。

 1期生のみで歌われた「泣いたっていいじゃないか?」、松村と秋元真夏のダブルセンター曲「ひと夏の長さより…」はあの頃の夏の記憶が蘇る2曲。同時に、人気曲ながらコンサートではあまり披露されてこなかった楽曲であり、これらを続けて入れ込む辺りも松村のプロデューサーとしての手腕が光っている。本編ラストを飾ったのは「シンクロニシティ」。言うまでもなく、白石がセンターを務めた乃木坂46の代表曲であり、そのポジションに立つ松村からは10年間グループを牽引してきた風格を、そして「さゆまい」としての白石への愛情を強く感じさせた。

「私の10年はどうでしたでしょうか?」

 アンコールのスピーチでファンにそう問いかける松村。筆者が強く心を揺さぶられたのは、松村が過去から決して逃げなかったことだ。御三家、さらには衛藤美彩を含む「92年組」全員が卒業コンサートで歌い継いできた「サヨナラの意味」に続くのは「悲しみの忘れ方」。「つらいことも沢山あったけど、でもやっぱり辞めないで頑張ろうと思えた」「曲に思いを乗せたい」ーー松村が話すように彼女のアイドル人生は笑顔ばかりではなかった。それでも少しずつ前を向き、進んでいけたのは家族やスタッフ、メンバー、ファンの存在があったから。「悲しみの忘れ方」で涙を流す松村の腰に齋藤飛鳥が手を当て、生田が肩にそっと頬を寄せる。〈そばにいつだって誰かいる〉ことを、〈どんな雨もやがて晴れ間に変わる〉ことを、松村の10年間は伝えてもいる。

 アンコールラスト、2回目の「さ~ゆ~Ready?」でメンバー一人ひとりから両手いっぱいのバラの花を手渡された松村は「さゆりんご、完全燃焼しましたー!」「本当に、ありがとうござい……まっちゅん!」とファンに大きく手を振る。卒業後はソロのタレントとして、バラエティー/ドラマ/モデルなど、マルチに活動していく予定の松村。独創的なアイデアとプロデュース力、持ち前の明るさと行動力で乃木坂46の新たな扉を開いてきた松村は、この先も未知の景色を我々に見せてくれるはずだ。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

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