もはや“ブレイク女優”にとどまらない 上白石萌音、カバーアルバムからエッセイまで……歌や文章でも磨かれる表現
もはや“ブレイク女優”ではない。女優、歌手、文化人、マルチタレント……それらすべてを網羅する「上白石萌音」として、人気を不動のものにした。そのことを証明するように、昨年から続く怒涛のスケジュール。公式サイトやSNSは続々と更新され、ひとときも目を離すことができない。
1月期にはドラマ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)にてヒロインを演じ、昨年の「恋つづ現象」に続く「ボス恋旋風」を巻き起こした。現在は大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)にも出演中。2021年も折り返し地点だが、彼女の勢いはとどまることを知らない。
そんななか、多くのファンが心待ちにしてきたのが、6月23日にリリースされたカバーアルバム『あの歌‐1‐』『あの歌-2‐』である。歌手として、これまでシングル1枚、配信シングル7作、オリジナルアルバム4枚(『note book』を含む)をリリースしてきたが、彼女は名曲をカバーし歌い継ぐことも大切にしてきた。
2016年10月5日にリリースしたカバーアルバム『chouchou』では、上白石が歌手として注目を浴びるきっかけにもなった「なんでもないや」、「On My Own」など、映画にまつわる楽曲をカバー。昨年放送された『Sound Inn “S”』(BS-TBS)では、リモート収録にて松田聖子の名曲「瑠璃色の地球」を歌いあげた。混沌とした時代を優しく照らす美しい歌声に、多くの人が癒され、勇気をもらったことだろう。「心を込める」ーー彼女の歌声には、そんな表現がしっくりくる。
自身のルーツとなった楽曲や影響を受けた楽曲、リクエスト曲で構成された『あの歌‐1‐』『あの歌-2‐』。特設サイトでは、自らが選曲理由を語っている。昭和と平成のポップスを愛する彼女が、かねてより希望していたというカバーアルバムのリリース。「おこがましいのですが、自分を介して新しい曲やアーティストを聴くきっかけになってもらえたら嬉しい」と寄せた言葉のとおり、バラエティに富んだラインナップだ。
現在「君は薔薇より美しい」「ブラックペッパーのたっぷりきいた私の作ったオニオンスライス」「みずいろの雨」「世界中の誰よりきっと」の4曲が、リリースに先駆けデジタル配信されているほか、YouTubeにはダイジェスト映像が公開されている。じっくり聴き込みたいのはもちろんのこと、たとえばドライブで街をすり抜けながら、たとえばリモートワークに励みながらーー日常のさまざまなシーンに溶け込むような耳心地の良さを感じた。彼女の持ち味である透明感や瑞々しさに加え、新たな表現にも期待が高まる。
老若男女問わず、幅広い世代から愛されている上白石萌音。これらの楽曲に初めて出会うファンもいれば、原曲に馴染みがあるファンもいることだろう。余談だが、筆者にとっての「あの歌」は「キャンディ」だ。ラインナップに楽曲を見つけたときには「まさか」と驚き、嬉しかった。誰かにとっての「あの歌」が、彼女の声で新たな輝きを放ち、いつか誰かの「あの歌」になる。