高橋李依、ストレートな歌唱に込める“強固な意思” 磨き上げられた表現スキルでソロアーティストデビューへ

高橋李依、歌唱に込める“強固な意思”

 ピッチコントロールに関しては時に機械的だとすら感じる部分もあり、楽曲によってニュアンスを使い分けている印象だ。たとえば「U撃つ」のサビなど、高速パッセージの部分では特に音符の1音1音をしっかりと狙いすまして正確に射抜いていくイメージ。中でも顕著なのは「ハウメニィ」のサビで、ファルセットを交えながら音程が激しく上下するパートでは、ブレスを入れる隙がほとんどなさそうなメロディラインとも相まって、その妙味を存分に堪能することができる。さらに、音程のみならず明瞭な発音も同時にこなしているところがポイントで、声優ならではのスキルを端的に感じられる部分であるとも言えよう。

高橋李依「U撃つ」Music Video

 また、高橋はもともとあまりビブラートを使わないタイプではあるが、「ひとつがいマグネティック」の冒頭で聴けるゆったりしたロングトーンなどはほぼストレート。しかしこれに関しては機械的なイメージはなく、ブレス感を強調した歌い方とともに“人間味”として響かせている印象を受ける。

 少し特殊な表現方法としては、「不健康社会」や「ハウメニィ」で聴けるラップ的なフロウが挙げられる。完全なラップというよりは“メロディをラップ的に崩している”あるいは“ラップをメロディアスに歌っている”といった塩梅ではあるが、ところどころでセリフ回しのように歌われる箇所などは、これまた声優らしさが端的に感じられるポイントだ。

 この『透明な付箋』という作品は、楽曲の方向性や歌声のテイストがある程度限定された中でも、多彩なボーカル表現を楽しめる点が肝であると言って差し支えないだろう。繰り返しになるが、声優シンガーの魅力を引き出す上で様々な音楽ジャンルを用意するのではなく、その逆の方法論を採用した判断には喝采を送りたい。もちろん、制作スタッフに「そのやり方でも成立する」と確信させた要因は、間違いなく高橋本人の力量そのものであろう。

 ソロアーティスト・高橋李依が今後も同系統のサウンド感を軸にしていくのか、少しずつ新しい要素を加えながらグラデーションを描いていくのか、はたまたまったく違った方向性の作品でちゃぶ台をひっくり返し続けていくのかは、現時点ではもちろん不明だ。どれが“正解”なのかは神のみぞ知るところだが、そこにどんなプロの判断が下されるのかについては、大いに注目していきたい。

■ナカニシキュウ
ライター/カメラマン/ギタリスト/作曲家。2007年よりポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」でデザイナー兼カメラマンとして約10年間勤務したのち、フリーランスに。座右の銘は「そのうちなんとかなるだろう」。

■リリース情報
高橋李依 1st EP『透明な付箋』
2021年6月23日(水)リリース
・初回限定盤(CD+DVD):¥3,850税込
 ※三方背スリーブケース仕様
・通常盤(CD only):¥1,980税込

<CD収録曲(全5曲)>
1: カメレオンシンドローム 
作詞:渡邊亜希子 作曲:佐藤厚仁 編曲:田中隼人
2: U撃つ <MBS/TBSドラマイズム「ガールガンレディ」オープニング主題歌>
作詞:やぎぬまかな 作曲:戸嶋友祐 編曲:上口浩平
3: 不健康社会   
作詞:mitoha 作曲:永井葉子 編曲:TOPICS.LAB
4: ひとつがいマグネティック   
作詞:やぎぬまかな 作曲:本多友紀 編曲:宗本康兵
5: ハウメニィ
作詞・作曲・編曲:煮ル果実
<DVD収録内容>
ジャケット撮影やレコーディングの裏側を記したドキュメンタリー映像を収録

高橋李依 オフィシャルHP

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