高橋李依、ストレートな歌唱に込める“強固な意思” 磨き上げられた表現スキルでソロアーティストデビューへ

高橋李依、歌唱に込める“強固な意思”

 高橋李依が、ソロデビュー作となる1st EP『透明な付箋』を6月23日にリリースした。声優ユニット・イヤホンズとしては2015年にデビューしているが、そんな彼女がソロアーティストとして満を持して発表する本作について、本稿では音楽的な特徴や聴きどころを解説する。“実績十分な大型ルーキー”のデビュー作を、より楽しむための一助となれば幸いだ。

 本作最大の特徴は、収録されている全5曲がサウンド傾向および楽曲テイスト的に統一されている点だ。メロディアスなピアノと力強いベースサウンドを基に、さまざまな音色が絡み合ってくるスタイリッシュかつエディット感の強い都会的な音像、マイナーキー主体でスリリングに目まぐるしく展開する楽曲構成、細かく上下する“忙しい”歌メロなど、ボカロシーンで長く好まれ、YOASOBIのブレイク以降広く一般に浸透した“夜好性”とも呼ばれるサウンド感がベースになっている。

 声優アーティストが音楽作品を発表する際、一般的にはあまり音楽性を限定しないケースが多い。もちろん例外もあるが、基本的には声優ならではの豊富な声質変化や精密な滑舌コントロールなどを最大限に生かすべく、幅広いジャンルの楽曲が用意されるのが“普通”だ。たとえば、概ねロック系を歌っているアーティストであっても、5曲あれば1曲はデジタル系に寄せたり、別の1曲ではアコースティック系に寄せるなどして明確な変化をつけ、アーティスト本人の持つ表現力の幅広さを強調する作品作りが広く行われている。

 もちろん、高橋のデビュー作をそのようにする選択肢も当然あっただろうと思われる。イヤホンズとしての活動や、高橋がこれまでに発表してきた数々のキャラクターソングなどを通じて、ボーカリストとして幅広い表現力を備えていることはすでに証明済みだからだ。しかし、高橋チームはそれを選ばなかった。本作のように5曲すべてをほぼ同じテイストにそろえるケースは、声優シーンに限らずとも案外珍しい。そこにかなりの強固な意思が介在していたであろうことは、想像にかたくないところだ。

高橋李依「カメレオンシンドローム」Music Video

 実際にそれがどのような意思であったのかは音から類推するほかないが、「アニメ/声優シーンを飛び越えて広く一般に響くものを」という意図があった可能性は感じられる。先行配信曲の「U撃つ」がアニメ作品ではなく、MBS/TBSドラマイズム『ガールガンレディ』のタイアップ曲であった(特撮ではあるが)という事実も、そういう意味では示唆的であるようにも取れる。さらに、その理念を体現する上で「中途半端なものでは伝わらない」という判断が下され、あえて作品全体を一方向に寄せ切ったのだと考えれば、本作の“偏った”サウンド傾向にも納得がいくというものだ。

 ボーカル表現でもサウンド傾向と同様、基準となる設定値にある程度統一されている。声質としてはややボーイッシュ寄りで、滑舌など発音傾向はタイトめ。高橋本来の話し声に近いイメージが基準となっている雰囲気も感じられるが、音楽性に合わせてか、若干クール方面に振っている印象だ。

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