『The Race』インタビュー
AK-69、“レース”で勝ち続けてきた人生哲学 日本のヒップホップの未来に向けた思いも語る
AK-69が6月9日(=“The day of AK-69”)にニューアルバム『The Race』をリリース。前作『LIVE : live』からわずか10カ月のインターバルで届けられた本作には、¥ellow Bucks、ANARCHY、ちゃんみな、RIEHATA、Bleecker Chrome、SALUが参加。“人生のレースを疾走する車=AK-69”をモチーフにした、強靭なヒップホップアルバムに仕上がっている。
マイクを握って25年、日本のヒップホップを牽引し、絶対的成功者として君臨し続けるAK-69。〈格が違うんだて 叩き上げたこのエンジン〉(「Racin’ feat. ちゃんみな」)といった堂々たるラインが響くアルバム『The Race』を軸に、ラッパーとしてのスタンス、トップを走り続けることの覚悟や人生哲学について語ってもらった。(森朋之)
コロナ禍で全員が止まったからこそ、いろいろ見直すことができた
ーーまずは2020年の活動について聞かせてください。ライブ、イベントを思うように組めず、活動が大きく制限された年でしたが、振り返ってみてどうですか?
AK-69:クラブで何度かライブする機会はあったんですけど、確かにライブはほとんどできなかったですね。ただ、やらなくちゃいけないことは山積みだったんですよ。たとえばファンクラブのホスピタリティを見直したり、チームの弱点を洗い出して、体制を立て直したり。悲観している状態というか、「やべえ、どうしよう」という一瞬もなくて、ずっと動き続けていたので、逆にもっと忙しくなった感じですね。
ーーコロナ禍で活動が止まったことにより、問題点が露わになった?
AK-69:そうですね。見えていそうで見えていなかったことがはっきりしたし、AK-69の活動もフラットに捉えられるようになって。他のアーティストが動いてるときに、自分だけで止まることはできないじゃないですか。全員が止まったからこそ、いろいろ見直すことができたし、AK-69のプロジェクトにとっては有効な期間だったと思います。まあ、オリンピックが終われば(コロナ禍は)少しずつあけると思うので、そのときに思い切り旗を振って走れるかどうか、ですよね。そのためには、この期間に何をしていたかが重要で。実際、悲観的になって何もできなかった人もいますから。
ーー昨年8月に行われた配信ライブ『LIVE:live from Nagoya』も話題を集めました。名古屋城をバックにしたパフォーマンス、他では絶対に観られないなと。
AK-69:「イカれてる」って言われましたけどね(笑)。ただ、ファンはそういうものを待っていたと思うんですよ。ライブができなくなって、いろんなアーティストが横並びで配信ライブを始めましたけど、「俺たちのAKが、こんなすげえことをやってくれた」と誇らしい気持ちになってくれたんじゃないかなと。綺麗事じゃなく、目の前の稼ぎは大事だし、活動を続けるうえで切り離せないですけど、「ここは魅せないといけない」というタイミングがあるんですよ。事務所独立後の日本武道館もそうですけど、「ここは玉砕覚悟でやろう」という局面を何回も味わってきたし、それが見えない結果を生み出してきて。名古屋城の配信ライブも、そういうことですね。まあ、赤字でしたけど(笑)。
ーーあれほど大きい規模の配信ライブ、観たことないですからね。
AK-69:ツアーをやれば、少なくても5000万は残るんですよ。そんな中でライブをやって「赤字って何だよ?」って話だし、ビジネス的にはこの1年、大きくヘコんでいて。ただ、長い目で見れば、「このあと、絶対にお客さんが返してくれるはず」と思っているし、まったく気にしてないですね。
自信がなければ“俺のエンジンは別格だ”とは歌えない
ーーなるほど。そして6月9日にはニューアルバム『The Race』が発売されます。前作『LIVE : live』からわずか10カ月でのリリースですね。
AK-69:1年を切るスパンでアルバムを出すのって、今までの活動の中でも初めてなんですよ。「ライブが見られないなか、お客さんは何を楽しみにしてるのか」をみんなで話し合ってここに辿り着いたんですけど、自分たちとしてはそこまで詰めたつもりもなくて、順当な感じなんですけどね。絞り出した感覚もなかったし。
ーー制作時期はいつ頃だったんですか?
AK-69:3月、4月の2カ月間ですね。レーベルからは「6月9日のリリースを狙っていて、こういうスケジュールなんですけど、本当に大丈夫ですか?」と念を押されたみたいで。ウチの会社の部長が「もちろん覚悟してますと言ってやりましたよ」って報告してきたから、「いや、覚悟するのも作るのも俺なんだけど」って言いました(笑)。実際、2カ月でアルバムを作るって、けっこう狂ってるんですよ。UVERworldのTAKUYA∞にも「よく(曲のアイデアが)出てきますね」ってビックリされたんですけど、出てくるんですよね(笑)。もちろんギリギリまでやってましたけどね。
ーー制作へのモチベーションが高かった?
AK-69:そうかもしれないです。今回のアルバムは曲調的にも、かなり新しいんですよ。みんなが持っているであろうAK-69のイメージの曲は、ANARCHYをフィーチャーした2曲目(「Pit Road feat. ANARCHY」)くらい。他の曲はこれまでとは違うアプローチだし、ファンも「お!」ってなるんじゃないかなと。それが今回の制作のキモだったんです。“作っていて自分たちが楽しい”というのが基準だったし、実際、今までっぽい曲は、捨てました。やっていて面白かったり、新鮮さを感じられる曲しかやっていないというか。計算とかではなくて、楽しいかどうかということなんだけど、エンタメにとってはすごく大事なことだと思うんですよ。聴いた人が「いい」と言っても、俺たちが「つまんねえ」と感じてたらしょうがないので。今回のアルバムはずっとワクワクしながら作れたし、こんなに初期衝動を感じながら制作できたのは久しぶりでしたね。『THE RED MAGIC』(2011年)のときがそうだったんですけど、制作の感覚はかなり近かったんじゃないかな。いつの間にか組み上がっていたというか、振り返ったときに、「この曲、どうやって作ったんだ」みたいな感じもありました。
ーーそれくらい集中していた、と。ラップを前面に押し出しているのも印象的でした。
AK-69:今回はそうなりましたね。「サビはメロディを歌って、ヴァースではラップ」というのは、17歳でマイクを握ったときからやっていて。ヒップホップが浸透していない時期に自分の曲が急速に広がったのは、メロディを扱えることが大きかったと思うんですよ。でも、前作あたりからラップのスキルが際立っている曲のほうが聴かれてるんですよね。前のアルバムに入っていた「Bussin' feat. ¥ellow Bucks」がヒットしたのも、そういうことだろうなと。『The Race』でも、自然にラップがメインの曲が増えましたね。“客演の感じでやりたい”という話もしていたんですよ。人の曲で客演するときって、いい意味で力の抜けた感じで制作することが多いんですよ。今回のアルバムは、そういう感覚で作ったところもありますね。
ーーラップを強く押し出せるのは、AKさんにとっても望むところですよね。
AK-69:そうですね。時代が良くなったというか、ついに日本のシーンも、ラップ、ヒップホップに対応できるようになってきたのかなと。ユニバーサルのスタッフとのアルバムの会議でも、「ゴリゴリでいってください」って言われたんですよ(笑)。メジャーレーベルの人たちは時代の流れを察知しているし、何がウケているのか、良くも悪くもすごくリサーチしていて。そういう人たちが俺に向かって「ゴリゴリで」って言うんだから、まあ、時代ですよね(笑)。もちろん、ストリーミングの再生数なんかでも実証済みなんでしょうけどね。
ーー“人生のレースを疾走する車=AK-69”というテーマについては?
AK-69:アルバムを作り始めてからこの世界観を思いついて、テーマがはっきりしてきましたね。さっきも言いましたけど、コロナ禍になっていろいろなものが淘汰されるなか、今自信に満ち溢れているし、自分たちでそこまで持ってきたという自負もあって。強気なタイトルですけど、自信がなければ“俺のエンジンは別格だ”みたいなことは歌えないですよ。俺に並んで走っているアーティストもいるし、それは喜ばしいことだけど、並んでいるように見えても、“おまえ、周回遅れだから”というのも事実で。売れてから15年経ってますからね。いろんな局面を見ているし、ずっとトップを走っているのも周知の事実。そういう気持ちがそのまま歌詞になっていますね。ただ、敵は他のアーティストじゃないんですよ。アルバムの最後に「Victory Lap feat. SALU」という曲があって。勝った者がサーキットを一周する儀式の歌なんですけど、ここで歌ってるのは“自分との戦いだ”ということなんです。“俺は別格だから”と言いつつーーそれも本当なんですけどーー誰かに勝ちたいわけではなく、自分を信じてここまできたという感じですね。
RIEHATA、Bleecker Chrome…新たな才能との刺激的なコラボ
ーーフィーチャリングされているアーティストは、¥ellow Bucks、ANARCHY、ちゃんみな、RIEHATA、Bleecker Chrome、SALU。日本のヒップホップを代表するメンバーですね。
AK-69:ちゃんみな、ANARCHY、SALUは一流のヒップホップアーティストだし、¥ellow Bucksもそこに仲間入りしつつあって。いいメンツだと思います。
ーー「Thirsty feat. RIEHATA」も衝撃でした。世界的ダンサー、コレオグラファーとして知られるRIEHATAのラップがとにかくすごくて。
AK-69:すごい才能ですよね。SALUが彼女をフィーチャーした曲(「GIFTED feat. RIEHATA」)を聴いて、ビックリしたし、感動したんですよ。ダンスで世界的に有名なのはもちろん知ってましたけど、そんなの忘れるくらい、とにかく歌がめっちゃいい。それを本人に伝えたら、「自信がなくて」と言っていたけど、そんなこと言ったら、他のシンガーみんな泣いちゃうよ(笑)。
ーー(笑)。シンガーではなく、ラッパーとして起用したのは?
AK-69:『D.LEAGUE』(2020年8月に発足したプロダンスリーグ)のイベントでラップをしているのを見て、それもホントに良くて。「ほとんどやったことない」って言ってたから、ぜひ俺の曲でやってほしいなと。彼女のラップが入ったCDが全国流通されるのは今回が初めてですね。マジで才能の塊だし、「ずるい」と思うレベルですよ。
ーー「Next to you feat. Bleecker Chrome」にフィーチャーされているBleecker Chromeについては?
AK-69:まだ二十歳前後のユニットなんですけど、彼らもすごい才能ですね。年齢も違うし、普通だったら一緒に音楽をやるチャンスはそれほどないはずなんだけど、人の紹介で自然に知り合って。スタジオでトラックを聴かせてたら、「歌っていいですか?」って言い出して、いきなりすごいクオリティのメロディを出してきたんですよ。「何だこいつら?!」って驚いたし、ぜひアルバムでも一緒にやりたいと思って。「Next to you」のセッションでも、ほぼ一発であのテイクを出してきましたからね。
ーー気持ちいいメロディですよね。
AK-69:夏のドライブで聴けるような感じにしたくて。ボクシングの井岡一翔が「AKさんの曲は、試合の前じゃないと聴けない。スイッチが入っちゃうから」って言うんだけど(笑)、「Next to you」はいい意味で聴き流せるんじゃないかな。
ーー若い世代のラッパーやトラックメイカー、今後もどんどん出てきそうですよね。
AK-69:そう思いますね。Bleecker Chromeの藤田織也とかは5歳くらいからヒップホップを聴いてて、12歳くらいで渡米しているんですよ。幼少期からヒップホップ、ブラックミュージックを聴いているのはデカいし、日本のアーティストもようやく、海外で戦えるようになるかもしれないですね。まあ、それは日本全体の課題なんですけどね。鎖国状態というか、この国のなかだけで成り立ってきたんですけど、そういう時代も終わってほしいと思ってるので。