Twenty One Pilots、カラフルなポップアルバムに挑んだ理由 希望と絶望の狭間で揺れる“2021年の写し鏡”
現代の音楽シーンにおいて、Twenty One Pilotsは極めて珍しい存在と言っても良いだろう。チャートの大半をラッパーやポップシンガーが占める中で、そもそも数少ない「ロックバンド」である彼らはゴシップで話題を振りまいたり、過激な表現やフレーズで関心を集めることもなく、トレンドに合わせて音楽性を変えることも少なく、他の著名なアーティストとコラボレーションをすることもない。にも関わらず、彼らの楽曲がリリースされれば、常に数千万回レベルの再生回数を叩き出し、しっかりとチャートで成績を残し、フェスティバルでは重要なポジションを任される。2人編成というミニマムな編成の彼らは、まさに必要最低限の武器のみを携えてメインストリームの最前線で戦い続けている。
5月21日にリリースされた『Scaled And Icy』は、彼らにとって前作『Trench』(2018年)以来、約3年ぶり、通算6枚目となる待望の新作スタジオアルバムだ。自身にとって最大のヒット作となった『Blurryface』(2015年)を経ての作品となった『Trench』は、ヒットの反動を受けてか「Jumpsuit」などの激しくダークな楽曲が多い作風となっていた。一方で今回の新作ではさらにその反動を受けてだろうか、ポップなカラーで彩られたドラゴンのジャケットが象徴するように、一転してアップビートで軽やかな作風となっている。それどころか、本作は2009年の結成以来、彼らのディスコグラフィーにおいて最も明るい作品であると言っても過言ではない。
その背景には前作の反動以上に、この世界を取り巻く状況も挙げられるかもしれない。本作はパンデミック期間が始まったばかりの2020年4月にリリースされた楽曲「Level of Concern」と同様に、隔離期間中にメンバーのタイラー・ジョセフとジョシュ・ダンがそれぞれ自分の住居からリモートでプロジェクトを共有しながら制作された作品である。このようなパンデミックの影響はやはりサウンドにおいても表れるわけだが、どうしても暗い気持ちになってしまいがちなこの時代に、あえて彼らは本作のサウンドの方向性をポジティブなものにすることに決めた。本作のリリースに際して実施された記者会見にて、タイラーは次のように語っている。
「世界的に、僕達がパンデミックで大変な状況下にいるのを実感してるから、この現実を映し出すようなサウンドを作りたくなかったんだよね。それに対抗するような、正反対の曲を作らずにはいられなかったっていう感じだよ。だからこのアルバムはすごく想像力に溢れてて、カラフルで、希望に満ちてる。これが、僕自身が過去一年を乗り切る助けになったんだ。だから、他の人達の助けにもなったら良いなと思ってる」
その結果は、アルバムを再生すればすぐに分かるだろう。本作の1曲目を飾るのはその名も「Good Day」と名付けられた、さながらエルトン・ジョンの名曲群を彷彿とさせるような、軽やかに弾むピアノと華やかなコーラスが気持ちを高ぶらせる至高のポップソングである。続く「Choker」も焦燥感のあるブレイクビーツと、どこかドリーミーなサウンドのコントラストが楽しい一曲だ。一方で、本作は決してTwenty One Pilotsらしさが失われた作品ではない。まるで2000年代ポップパンクと1980年代のニューウェイブが衝突しながら疾走するかのような「Shy Away」は、彼ららしいエモーショナルなメロディと力強く牽引するドラムのビートが織りなすダイナミックなサウンドが炸裂する名曲であり、今後のライブでは間違いなくハイライトを飾ることになるだろう。
では、本作はパンデミックの中でも前向きに生きようというメッセージに溢れた楽観的な一枚なのかというと、決してそうではない。これまでの作品で彼らが描いてきた生きづらさや不安、怒りといった、生きる上で避けることのできないネガティブなテーマは、パンデミックを経て、より一層に暗い影となって楽曲に表れている。前述の「Good Day」の歌詞に登場する主人公の姿に目を向けると、仕事も家族も失い、かつての仲間からも訴えられてしまった人物がギリギリの状態で「まだ大丈夫だ」と自分に言い聞かせるという内容であることが分かる。また、グルービーなダンスナンバーである「The Outside」は退屈なメインストリームの音楽シーンをシニカルに批判する楽曲であり、今作中最も陽気な楽曲である「Saturday」は自粛生活によって外出をしなくなり、すっかり曜日感覚を失い、衣類にも全く気を遣わなくなってしまった人々のためのディスコポップだ。
だが、この不安を自覚しながら踊り続けるような危うさこそがTwenty One Pilotsの魅力だ。現実を取り巻くあらゆるネガティブな物事を無視して能天気にパーティをするなんて(特に今の時代には)不可能だし、うんざりする物事は山程ある。だが、それでも何とか魅力的な音楽を聴きながら、皮肉の一つや二つ吐くことはあるだろうけれども、それでも前に進んでみる。そんな姿勢に対する共感こそが、彼らの絶大な支持へと繋がっているのだ。