Twenty One Pilots、カラフルなポップアルバムに挑んだ理由 希望と絶望の狭間で揺れる“2021年の写し鏡”
そうやって歩みを進めながらアルバムが後半へと差し掛かると、この世界にも少しずつ馴染んできたのだろうか、主人公のどこかリラックスしたような表情が顔を出すようになっていく。まるでバーのハウスバンドが演奏する様子が目に浮かぶような「Never Take It」はヘヴィなギターリフとポップなコーラスを鮮やかに絡ませながら、軽快に社会の分断へと警鐘を鳴らすロックソングだ。続く「Mulberry Street」では、ビリー・ジョエルなどの1970~80年代ポップスからの影響を感じさせる色気たっぷりのグルービーな演奏をバックに、どこか居心地の悪い感覚を覚える自分たちの姿を甘く歌い上げる。ここからインディーポップ好き垂涎必至の超絶甘酸っぱいギターポップナンバー「Formidable」、そしてユーモラスなフォークソングの「Bounce Man」と、ただでさえハイブリッドな彼らの音楽性がさらに拡大していく。歌詞の内容もどこか今の現実を受け入れながら前に進もうとする姿が見えるようになり、時代やジャンルに縛られることなく自由に音楽を楽しむように、今の時代を軽やかにやり切って見せようとする主人公の姿が目に浮かぶ。
とはいえ、それでも追いかけてくる影を完全に振り払うことはできない。アルバム終盤の「No Chances」に至っては、ダークで壮大なサウンドの中で、執拗に我々を監視しながらどこかへ連れ帰ろうとする何者かの存在が歌われる。そして、時には現実に目を背けながら、時には現実を受け入れようとしながら日々を歩んできた主人公を描いてきた本作の物語は、まるで感情が決壊するギリギリのところを丁寧になぞるように歌われるエレクトロポップ「Redecorate」で終焉を迎える。辛い現実を目の当たりにして、それをしっかりと受け入れて前に進むべきか、それとも見て見ぬふりして現実逃避するか。その狭間で途方に暮れる人物の姿をじっくりと映しながら、暗転と共に幕を閉じる本作のエンディングは、これまでのTwenty One Pilotsの作品群において間違いなく最も美しい瞬間だ。本作はまさに、この希望と絶望の狭間で混乱しながら生きる時代をリアルに反映した、彼らだからこそ創り上げることのできた傑作である。
今のポップシーンを眺めると、自身が影響を受けたあらゆるジャンルをハイブリッドしたサウンドを鳴らすアーティストが続々と勢いを伸ばしており、特定のジャンルやスタイルにこだわりを持たないこと自体が一つのスタンダードになりつつある。かつては異質な存在だったTwenty One Pilotsのジャンルレスなスタイルに時代が追いついてきたといってもいいだろう。だが、ここまで書いてきた通り、彼らの魅力はそのスタイルだからこそ描けるリアルさにある。本作はこれまでの彼らの作品群の中でも特に間口の広い作品であり、これから彼らの音楽に触れるという人に対しても最適な一枚だ。
とはいえ、やはりTwenty One Pilotsの醍醐味は、縦横無尽にステージを駆け回りながら徹底的に観客を盛り上げるアグレッシブなライブパフォーマンスである。彼ら自身も「僕達がアルバムを作る時の目標の一つは、ツアーして、ショウができるようになることだよ。最終的には、このアルバムでツアーしたいからね」と語っている通り、本作の真価はコンサート会場でこそ発揮されるものである。いつか本作に収録された楽曲を生で体感する日が来ることを夢見ながら、今はこの混乱の中を踊りきろうではないか。
■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
Twitter : @neu_mura
■作品情報
Twenty One Pilots『Scaled And Icy』
2021年5月21日(水)発売 ¥2,200(税込)
ダウンロードはこちら
<トラックリスト>
01. Good Day / グッド・デイ
02. Choker / チョーカー
03. Shy Away / シャイ・アウェイ
04. The Outside / ジ・アウトサイド
05. Saturday / サタデイ
06. Never Take It / ネヴァー・テイク・イット
07. Mulberry Street / マルベリー・ストリート
08. Formidable / フォーミダブル
09. Bounce Man / バウンス・マン
10. No Chances / ノー・チャンセズ
11. Redecorate / リデコレート