デュア・リパ、『ブリット・アワード2021』2冠達成の凄み パフォーマンスとスピーチから振り返る

 現地時間の5月11日、イギリスにおける最も栄誉ある音楽のアワードである『ブリット・アワード2021』が開催された。1977年に始まり、今回で第41回目を迎えた歴史あるこのアワードは、かのグラミー賞同様に権威ある賞として、イギリス国内だけではなく世界中の音楽ファンからの注目を集める存在でもある。だが、今回のブリット・アワードはこれまでとは異なる部分で大きな話題となっていた。

 なんと今回のイベントは、約4,000人ものゲストオーディエンスを集めた上で「マスク未着用及びソーシャル・ディスタンス不要」という条件のもと、同会場での表彰、そしてライブパフォーマンスを含めた内容で実施されたのである。これは会場となったロンドン・O2アリーナにおいて約14カ月ぶりとなる光景であり、いよいよパンデミックから立ち上がろうとするイギリスの現況を象徴するイベントとなっているのだ(詳細は省くが、今回のアワードはイギリス政府における研究プログラムの一つとして位置付けられており、安全性の検証や会場内の衛生管理を徹底し、参加者全員が検査を受けた上で実施に至っている*1)。

 イギリス政府においてデジタル文化大臣を務めるキャロライン・ダインネージ氏はブリット・アワードについて次のように語った。

「音楽はパンデミックの期間において安らぎや繋がりを生む大きな原動力となってきました。今夜、私たちは再びこの業界を一つにまとめ、ファンの皆様がライブパフォーマンスを楽しめる未来を見据えたいと思います」(Music has been a great source of comfort and connection during the pandemic. Tonight we'll bring the industry back together... and look ahead to the return of fans to live performances.) *2

 だからこそ、今年のブリット・アワードの主役を務める人物として、デュア・リパ以上に相応しい人物はいないだろう。

 ちょうど昨年の今頃となる2020年3月にリリースされた『Future Nostalgia』は、「未来」と「ノスタルジア」というタイトルに冠せられた2つの言葉が示す通り、70年代~80年代のファンク/ディスコ・ポップから90年代を彩ったテクノ/ハウスまで、過去のダンスミュージックに深いリスペクト(≒ノスタルジア)を捧げた音楽性でありながら、あくまで今のポップシーンを踏まえてアップデート(≒未来)したダンスミュージックを提示した作品であり、まさにパンデミック期間で自宅待機を余儀なくされる人々にポジティブな原動力を与えた一枚となっていた。

 作品のリリース以降も、星野源の参加が話題となった同作のリミックスアルバム『Club Future Nostalgia』や、マイリー・サイラスやダ・ベイビーといった人気アーティストとのコラボレーション楽曲などを追加した特別盤『Future Nostalgia (The Moonlight Edition)』、そして膨大な視聴者数を叩き出した配信ライブ『Studio 2054』など、その動きが途絶える瞬間は全くなく、パンデミックの期間中、常にデュアの音楽が世界中の人々を踊らせていたのである。まさにこの一年を象徴するアーティストとなったのだ。

 そして、デュア・リパはブリット・アワードの会場内における最初のライブパフォーマンスを披露するアーティストとして登場した。とはいえ、まずは一本の映像が流れ始める。

 イギリスを象徴する景色の一つである地下鉄の駅構内。ほとんど人がいないホームを歩きながら、どこか過去を懐かしむように「Love Again」を歌い上げるデュアの姿が映し出される。しかし、車両へ入ると空気は一変し、ユニオンジャックを大胆に纏ったデザインのコート姿に切り替わったデュアが車両内に戻ってきた人々(パフォーマー)と共に力強く「Physical」を披露。そして同楽曲の〈あなたが隣にいるのに、寝る必要なんて無いでしょう?(Who needs to go to sleep when I got you next to me?)〉という決め台詞と共に、映像から実際の会場へと場面転換し、本当のライブパフォーマンスが始まったのである。デュアはこの約1分間で「過去」から「未来」への変化を見事に演出したのだ。会場の盛り上がりは一瞬で沸点に到達し、悲鳴と歓声、そして大合唱で埋め尽くされる。久しく見ることのなかったその光景に、この時点で思わず感動してしまう。

Dua Lipa - Future Nostalgia Medley (Live at the BRIT Awards 2021)

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