2021.05.25 18:00

デュア・リパ、『ブリット・アワード2021』2冠達成の凄み　パフォーマンスとスピーチから振り返る

文＝ノイ村

　しかし、デュアの凄みはここからである。今回のパフォーマンスは映像同様にステージに配置された地下鉄の車両を模したセットを中心としたものだが、披露する楽曲は『Future Nostalgia』収録の楽曲（「Love Again」、「Physical」、「Pretty Please」、「Hallucinate」、「Don't Start Now」、「Future Nostalgia」）のハイライトをシームレスに繋いだメドレーとなっており、楽曲の転換に応じてセットの構成や位置、そしてカメラの動きやライティング、パフォーマーの配置や構図を目まぐるしく切り替えていく。その結果、「Pretty Please」ではまるでナイトクラブのダンスフロアのような密室感のある光景となっていたのが、いつの間にか「Don’t Start Now」では背面及び床面に配置された巨大LEDを活かした壮大なスケールのパフォーマンスへと変貌しているのだ。とてもリアルタイムの生放送で実現しているとは思えないほど大胆に目の前の景色を変えていくこの内容は、まさに前述の配信ライブ『Studio 2054』と通ずるものであり、あの状況だったからこそ磨き上げることが出来たデュアの映像構築力が、今回のパフォーマンスにおいても遺憾なく発揮されているのである。このパフォーマンスは今回のブリット・アワードにおける最大のハイライトの一つとなり、僅か5分という時間で、デュアは見事にパンデミックを経て進化したライブパフォーマンスを実際の観客に届けることに成功したのだ。

デュア・リパ、『ブリット・アワード2021』2冠達成の凄み　パフォーマンスとスピーチから振り返るの画像1-1

デュア・リパ、『ブリット・アワード2021』2冠達成の凄み　パフォーマンスとスピーチから振り返るの画像1-2

　パフォーマンスの勢いをそのままに、今回のブリット・アワードでデュア・リパはノミネートされていた3部門中、見事に2部門を授賞している。一つは2018年以来の授賞となる「British Female Solo Artist（ブリティッシュ女性ソロ・アーティスト）」、そしてもう一つは、アワードにおける最も権威ある賞となるアルバム部門、「British Album of the Year（ブリティッシュ・アルバム賞）」である。もちろん、それ自体が極めて喜ばしいことではあるが、重要なのはそこで語る言葉だ。

　「British Female Solo Artist」でのスピーチにおいて、2018年の同賞授賞時のスピーチを振り返りながら、デュアは「2018年にこの賞を授賞した時、私はこのステージでもっと女性の姿を見たいと言いました。あれから3年が経って、それがこうして実際に実現しているということ、そしてその流れの一員となれていることを誇りに思います」と語った（2018年の同アワードにおいて女性の授賞者は13部門中2部門となっていたが、今回は11部門中8部門となっている）。

　そして、関係者やファン、家族への感謝の言葉を贈りながら、続けて「もし他の人とこの賞を分かち合えるなら」という言葉（今年のブリット・アワードのトロフィーは「授賞者が別の誰かを祝うことが出来るように」というメッセージを込めて、2つに分けられるようになっていた*3）と共に、デュアはイギリスの著名な看護師であるエリザベス・アニオンウー氏の名前を挙げた。

　デュアはエリザベス氏について「人種差別と戦い、（医療の）現場の最前線で働く労働者を守り続けてきました」とその人生を称え、続けて「このような人々に拍手を贈るのはとても素敵なことです。ですが、私たちはその人々にちゃんとお金を払うべきです」と語り、「だからこそ、私たちがすべきことは、皆で大きな、盛大な拍手を送り、（イギリスの元首相である）ボリス・ジョンソン氏に、私たちは皆、（医療の）現場の最前線で働く人々が公平な賃金を受け取ることが出来るよう支持しているのだというメッセージを伝えることだと思います」とスピーチを締め括った。会場はスタンディングオベーションでデュアを支持し、翌日のメディアではその発言が記事の見出しとなった。

Dua Lipa wins Female Solo Artist | The BRIT Awards 2021

　『Future Nostalgia』に象徴されるように、デュア・リパはこれまでの歴史を築いてきた先人達への深いリスペクトを持った上で、決して懐古主義に溺れることなく、現状に満足するわけでもなく、あくまで未来を見据え、表現力を進化させながら、今、もっとも必要なメッセージを提示する。今年のブリット・アワードでの衣装やパフォーマンス、そしてスピーチの内容は、「パンデミック以降」へと向かおうとするアワードの主役として、その役割をあまりにも完璧に全うしたものであり、デュアの魅力や、支持される理由が凝縮された瞬間だったと言えるだろう。そして、それは未来に向かって再び進化していくのだ。