WGB=和楽器バンドはなぜ正体を隠していた? 月9ドラマ『イチケイのカラス』主題歌制作の真相を聞いた
“和楽器バンド”という制限が緩和されてきた
――タイトルの「Starlight」も含め、歌詞はどのように書かれていったんでしょうか。
町屋:坂間千鶴が入間みちおに徐々に寄り添い、シンク(同調、共感)していく……というのはかなり慎重に描写しました。そこをピークとして、徐々にそこに向かってストーリーが展開するという作り方をしましたね。タイトルに関しては、当初は機械的で冷徹な感じだった坂間千鶴の心を闇だとして、それに対し、入間みちおの星のような輝きを光としてイメージを構築していったので、実は曲や歌詞よりもタイトルを一番最初に決めたんです。
――町屋さんが作った「Starlight」の音源を最初に聴いた時、鈴華さんはどんな印象でしたか?
鈴華:いい曲ができたけど、和楽器バンドらしさを無理に出さない方がいいなって曲調やアレンジを聴いて思いました。冒頭のイントロからグロッケンの美しい音色が入って、低い音程から歌が寄り添うように始まっています。いい曲をより良く表現したいだけで、楽曲をより生かすためにはどうしよう、という発想からでした。
――打ち込みのサウンドがベースになっているのも、今までの楽曲のイメージとは違いますよね。
町屋:僕はバンドありきではなく、音楽ありきでもなく、あくまで作品ありきで、この楽曲だと思っていて。あとはそれに従って頭の中のサウンドを組み立てていくだけなんですが、和楽器が持っている音色って、そもそも世界観が非常に強いんです。そういう意味で、これまでは目立つようなチューニングやフレーズの入れ方をしていた部分が、目立たなくなっているというのはあります。ただ、和楽器の音色自体はふんだんに使っているので、これも和楽器バンドの新しい切り口だと思っています。今のベストを尽くした新しい自分たちのサウンドです。
――鈴華さんへのボーカルディレクションはどのように?
町屋:今回はピッチをいつもより少し下げて、言葉を伝えるために、なるべくストレートな歌唱をお願いしました。歌唱の技術や技巧を使うと、どうしても歌詞よりもそっちに耳を奪われがちなので、なるべくスキルを封じて言葉を伝えるという、歌唱の原点回帰というテーマで取り組んでもらいましたね。今までは、和楽器らしさの象徴として歌唱技術や技巧という要素がありましたけど、今回はそういう点においても新しい挑戦ができたと思っています。
――確かに、詩吟の歌い方を全面的に取り入れたこれまでの歌唱法とは違いますね。
鈴華:節調を使ってないんです。コブシと言った方が分かりやすいかもしれないですけど、詩吟では節調と言われているもので、それを入れた歌い方は、逆にこの楽曲を壊してしまうと思ったんです。実際に歌ってみても、イントロ部分は楽器陣がお休みなので、打ち込みの音源の中で本当に寄り添うようにそっと歌えるんですよ。
――また、ドラマで流れているのは90秒サイズ(1コーラス)ですが、そこから2コーラス目へと続く展開やトータル的な音作りでこだわった点はありますか?
町屋:リズムフィール(ビート感)を倍にして始まることで、しっかりと世界観を定着させ、歌詞と共に自然とリズムフィールが半分になり、楽曲の後半では軽快になっていく、というのが、登場人物の心境の変化ともリンクするポイントになっていて。なので、1番と2番のどちらを切り取っても、その回のストーリーにハマる仕組みになっています。
――フルコーラスだからこそ楽しめるバンドとしての新しい部分やポイントは?
鈴華:あえてこのバンドではやっていなかったんですけど、Dメロの後の間奏で、初めてキーボード(ピアノ)を弾いています。間奏に入る冒頭は、キーボードと箏、その後にキーボードとギターで早弾きをやっていて。あれはギターが弾きやすい旋律なので、ピアノだと超絶技巧になるんですけど(笑)。そういうギターとの掛け合いも面白いし、今までにないエッセンスがあります。
町屋:キーボードとギターのユニゾンや掛け合いは、音が軽快に跳ねるという部分では重要なプロセスであり、必要な表現でもありました。結果、それが自分たちにとっても新しい挑戦になりました。
――さらに「Starlight」との対比という意味で、放映中のTVアニメ『MARS RED』のオープニングテーマ曲として書き下ろした「生命のアリア」は、冒頭から和楽器が前面に出ていて、音量レベルが高いという印象でした。両曲の特性の違いについてはどう捉えていらっしゃいますか?
町屋:この曲もやっぱり作品ありきで、音楽を添えるという作り方をしているんですが、「生命のアリア」に関しては、実はそんなに極端に和楽器の音量レベルを上げているわけではなく、これも和楽器が際立つようなチューニングやアンサンブルをしているだけなんです。この2つの曲を比べてみて共通するのは、やはり作品の世界観に合っているかどうかという点なんですね。なので、僕としては作品に目を通して自然に作っただけなんですよね(笑)。
――なるほど。では、ドラマで「Starlight」が流れた時の感想はいかがでしたか?
鈴華:ドラマの話が良すぎて、そっちに集中していたので、曲が流れていることに一瞬気づいてなくて(笑)。「面白かったな」っていうのが自分の中で一番残ったので、その感想に至ったということは、結果、作品の一部として成功できたのかな、と思いました。
――WGBとして「Starlight」を制作したことで、新しい扉が開けたような感覚はありますか?
町屋:アプローチとしては新しい切り口を見出せたなと思っています。
鈴華:「和楽器バンドってこうじゃなきゃダメ」という制限が緩和されたんじゃないかなって。歌い方にしても、詩吟の節調をすごく早いテンポで使うのがウケるかも、というので、今まではあえて多く入れてきてたんですね。でもそろそろ、それをやらなくても受け入れてもらえるというか、その曲を生かすための歌い方を選択して歌っていけるところまできたのかなって。これからは曲を生かす歌い方を好きなように表現していきたいし、「どっちもできるんだよ」というところで音楽を楽しみたいなと思っています。
――そんな「Starlight」を経て、新たに挑戦したいことは?
鈴華:ジャンルの隔たりをなくして楽曲の制限を取り払いたいし、今回だけではまだ取り払いきれないと思うので、そういった活動は続けていきたいです。例えばラップの方とのコラボレーションとか。あと個人的には、いろんなジャンルで、その国の言葉で歌う曲、というのもやってきたいなと。そういう可能性は広げていけたらいいなと思いますね。
――バンドとして目指すもの、長期的な展望はありますか?
町屋:例えば今回のように、音楽がドラマという作品を彩ることができたりすることで、誰かが感動してくれたら、それが音楽の良さだと思うんです。なので、これからも、より良い作品を作り続けて、リスナーの方に届けていくっていうことですね。当たり前のことですけど、これっていつまで経っても忘れてはいけないと思うんです。
鈴華:この8人で音楽を紡いでいくことを止めないことが大事だなって。和楽器バンドって、自分がずっとやってきた剣舞や詩舞、詩吟というものと、クラシックやJ-POPといった、やりたいことと出来ることを全部一つにしたというのが始まりなんですね。この8人でしかできないものがあって、それはすごく尊いもので。だから、生きている限り、この活動を継続させながら、そこに関わってくるチャンスをしっかり掴んで、このバンドで音楽を表現していくことが、実は大きなテーマだよねって、みんなでよく話してます。
■ドラマ情報
フジテレビ系“月9”ドラマ『イチケイのカラス』
キャスト&スタッフ
入間みちお: 竹野内 豊
坂間千鶴: 黒木 華
石倉文太: 新田 真剣佑
井出伊織: 山崎 育三郎
浜谷澪: 桜井 ユキ
一ノ瀬糸子: 水谷 果穂
川添博司: 中村 梅雀
城島怜治: 升 毅
日高亜紀: 草刈 民代
駒沢義男: 小日向 文世
[原作]
浅見理都
「イチケイのカラス」(講談社モーニングKC刊)
[脚本]
浜田秀哉
(『絶対零度』シリーズ、『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』他)
[音楽]
服部隆之
[主題歌]
Starlight / WGB(和楽器バンド)
[プロデュース]
後藤博幸
(『SUITS/スーツ』シリーズ、『ほんとにあった怖い話』シリーズ他)
有賀 聡
(ケイファクトリー)(『カンナさーん!』、『初めて恋をした日に読む話』他)
橋爪駿輝
(『嫌われる勇気』、『ペンション・恋は桃色』他)
[編成企画]
高田雄貴
(『刑事ゆがみ』、『黄昏流星群』他)
[演出]
田中 亮
(『コンフィデンスマンJP』、『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』他)
星野和成
(『チーム・バチスタ』、『SUITS/スーツ2』他)
森脇智延
(『SUITS/スーツ』シリーズ、『ほんとにあった怖い話』シリーズ他)
並木道子
(『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『モトカレマニア』他)
[制作協力]
ケイファクトリー
[制作・著作]
フジテレビ第一制作室
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和楽器バンド 公式サイト:https://wagakkiband.com/
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