『プレバト!!』総合演出が語る、Kis-My-Ft2起用の背景 アイドルの才能を発掘する場にも
「俳句の才能査定ランキング」が人気を博す『プレバト!!』(MBS/TBS系)。最近ではKis-My-Ft2・横尾渉の句が2021年度の中学国語教科書副教材(明治図書出版)に掲載されるなど、様々なアイドル・タレントの才能を発掘する場にもなっている。リアルサウンドでは総合演出の水野雅之氏にインタビューを行い、企画スタートの経緯やKis-My-Ft2や日向坂46を起用した背景、キャスティングの中で大切にしていることなどについて話を聞いた。(編集部)
(Kis-My-Ft2は)メンバー同士のライバル心がバチバチ
――まず、水野さんがテレビ業界に携わりたいと思ったきっかけから教えてください。
水野雅之(以下、水野):自分がきっかけで周囲に変化が起きるっていうことが元々すごく好きなんです。野球をやってた時も、自分が打席に立った時だけ相手チームの守備位置が変わると余計に気分が良くなって打っちゃうとか、大学時代も自分の研究発表のプレゼンでゼミの入会希望者が増えるとか。どちらかというと、自分の作品のために頑張るというよりは自分が頑張った成果を周囲がどう楽しんでくれるかに興味があって。20年前だと、そのフィールドが一番広いのは地上波じゃないですか。それがテレビ業界に入った動機ですね。
――2000年に入社、2006年に本社制作局に配属されて、2008年に全国ネットの制作へ。『プレバト!!』の放送開始は2012年からですよね。
水野:まず、木曜日の19時にダウンタウンの浜田(雅功)さんの番組が始まるっていう話があったんです。浜田さんとはその前からご一緒していたので、自分が演出したいって手を挙げたんですけど、当時の浜田さんって若い視聴者向けの22時台の番組が多かったから、主婦層がメインの19時台に何をするか、とても悩みました。とはいえ、浜田さんが得意とするスタジオゲストへの煽りは19時台の視聴者にも楽しんでもらえると思ってたので、じゃあどんなことでプレッシャーをかけてもらおうかなと試行錯誤する中で、僕が言われたくない悪口に行きつきました。「何言ってるかわかんない」「美的センスがない」「リズム感がない」の3つだったんですけど、それぞれ俳句、生け花、リズム感の査定になりました。リズム感の査定は今はやってませんけど、美的センスの査定が水彩画、消しゴムはんこ、色鉛筆などに広がりました。
――「言われたくない悪口」という意外な観点から思いついたんですね。
水野:そうですね。企画って自分の日常の些細なことから考えると上手くいきますし。なので「言われたくない悪口」にもう一つ日頃から思っていることを掛け合わせて企画にしました。
――何と掛け合わせたんですか?
水野:「才能のアリナシは、どうにもならない」っていうことです。これはカメラマンに聞いた話なんですけど、カメラマン志望の若者が来たら、その辺のペットボトルを1枚撮ってもらうだけで、才能のアリナシがわかるらしいんです。もちろん、修行したら上手になるんでしょうけど、それでも才能がある人には勝てないって言ってて。確かに僕の経験でも、ディレクターに「この順番で映像を繋いで」と指示して編集してもらうと、めちゃくちゃ面白い人と、どうもしっくりこない人っているんですよ。これは、0.何秒のテンポのズレなんですけど。つまり、才能のアリナシって1回やっても10回やっても査定結果は同じになるはず。ってことで「言われたくない悪口」×「才能アリナシ」を企画にしました。
――かなりシビアな企画ですね?
水野:何回出演しても結果は同じはずだから、本当はゲストが1回ずつしか出演できない企画だったんです。でも夏井(いつき)先生との出会いや、梅沢(富美男)さん、FUJIWARA・藤本(敏史)さんらが優秀句を生み出してくれる中で「文章の才能アリナシ」よりも、俳句が企画として立ってきた。だから番組の根幹を“才能”よりも“努力”にスライドさせて、特待生の制度を導入しました。厳密には“才能ナシ”の人が次の収録で“才能アリ”になるのって、変ですよね。もちろん、ここはめちゃくちゃ悩んだんですけど、番組オリジナルのスターが活躍したほうが絶対にいい流れが作れると思ってやってみたら、視聴者が受け入れてくれた。ここはとても大きなターニングポイントだったと思います。
――確かに企画の根幹を変えるってすごいことですね。
水野:ですよね。今の『プレバト!!』の才能アリ/ナシ/凡人って厳密には、よくできました/普通/もっと頑張りましょうの三段階ですもんね。でも、この変化によって名人・特待生だけじゃない“努力のヒーロー”もたくさん生まれたりしています。“才能ナシ”でダメ出しされまくってるKis-My-Ft2(以下、キスマイ)の二階堂(高嗣)さんが頑張って “才能アリ”を取ると、スタジオがとにかく盛り上がりますし。
――二階堂さん含め、キスマイのメンバーはどういう経緯で出演するようになったのでしょう。
水野:「才能ランキング」を始めた当初は、世帯視聴率は二桁に届かなかったんですけど、業界内では「面白いコーナーが始まってる」とか「俳句の先生の毒舌が面白いよ」っていう評判が広まってたんです。視聴率を細かく分析したら、視聴者の人数は少ないけど、見てくれている人の試聴時間は長いという結果が出た。ってことは中身は間違ってなくて、視聴者の数を増やせばいいってことだから、若い人に人気のキスマイから北山(宏光)さんに最初に出てもらったんです。そうしたら、予想以上に真面目に頑張ってくれた(笑)。言ってしまえば、アイドル活動に俳句や生け花の腕前なんて全く必要はないじゃないですか。それなのに、こんなに頑張ってくれるんだって。1位だったときは喜んでくれるし、最下位だった時には、ガチでへこんでる。千賀(健永)さんは才能ナシを取った時に「僕、もう呼ばれませんか」って裏で聞いてきたし。
――キスマイメンバーのなかで特に印象的だったエピソードはありますか。
水野:メンバー同士のライバル心がバチバチですよね。横尾(渉)さんが普天間の飛行機を句(「鰯雲蹴散らし一機普天間に」)にしたんですけど、それに刺激を受けた北山さんが、直後に社会派の俳句(「原爆忌あいつと青く飛んだ日々」)を詠んできました。裏で聞いたら「負けられないって思って」って言ってました。キスマイの中では、横尾さんや千賀さんの活躍が目立つけど、個人的に最も驚いてるのは北山さんの成長です。作風でいうと、まだ粗削りなのに時々光るものを出してくるのが北山さん。綺麗な景色をロマンチックに詠もうとする千賀さん、日頃から時事ネタをチェックして俳句に使えそうなフレーズを探してる横尾さん。素直な作風の宮田(俊哉)さんとドタバタしてる二階堂さん(笑)。作者を隠して提出されても、俳句を見ただけで誰の作品なのか絶対に当てられると思います。
――他にも印象的なエピソードはありますか。
水野:先日の春のタイトル戦で横尾さんが優勝したんですけど、それを他局のラジオで北山さんと玉森(裕太)さんと宮田さんが褒めたり、喜んだりしてくれていました。ああいうのを聞くと、ほんとに普段から俳句がメンバー間の話題になってるんだなって嬉しくなります。あと、東京ドームライブの最初の挨拶で「名人三級の横尾です!!」と叫んで、ファンも盛り上がってくれているのを見た時は、嬉しかったです。ほんとは「名人三段」だから言い間違えてたんですけど、こういうところも横尾さんっぽいですよね(笑)。
――改めて一覧を見ると、主な名人だけでもそうそうたるメンバーだなと思います。
水野:大御所や芸人さんに混じってキスマイがいてくれているのは大きいですよね。『プレバト!!』の名人や特待生って、ライバルだけどファミリーな感じがあります。『笑点』みたいな感じというか。このファミリー感が番組のオリジナルな強みだから、以前、他の番組でも俳句を扱うことが増えた時も、全然気していませんでした。っていうのも『プレバト!!』は俳句で見てもらえてるわけじゃなくて、俳句査定という企画に浜田さんや夏井先生や梅沢さん、キスマイというファミリー感があるから支持されている番組なんです。企画×ファミリー感がオリジナルだから、俳句だけやられても絶対に負けないんです。