樋口楓が届けた、これまでの感謝とこれからの想い リアル会場にて臨んだワンマン公演

『樋口楓 Live 2021 “AIM”』レポート

 VTuber/バーチャルライバーグループ・にじさんじの1期生として配信活動を続けると同時にアーティストとしてはランティスと契約、昨年12月にメジャー1stアルバム『AIM』をリリースした樋口楓。彼女のワンマンライブ『樋口楓 Live 2021 “AIM”』がTACHIKAWA STAGE GARDENで開催された。

 このライブは彼女にとって、2019年1月の『Kaede Higuchi 1st LIVE “KANA-DERO”』以来2度目となるリアル会場を使ったワンマンライブ。『KANA-DERO』以降もVR環境でのライブや様々なフェス/イベントに多数出演し、にじさんじの音楽活動を引っ張ってきた彼女だが、現実の会場を使ったワンマンは実に2年ぶり(観客の安全を確保するため客席数を削減し、オンライン視聴との同時開催)。VTuberの音楽ライブにいち早く生バンドでの演奏スタイルを取り入れ、ファンメイドの楽曲でライブを成功させた『KANA-DERO』から時を経て、ふたたび彼女がリアル会場でのワンマンライブに臨むこととなった。

樋口楓

 まずはステージ中央に設置されたスクリーンにこれまでの活動から抜粋した様々な思い出がフラッシュバックするような映像が流れると、そのまま「アンサーソング」のMVにも登場した樋口楓の部屋が実写映像で映された。眠りから覚めるような声に続いて、目の前のステージに樋口楓が登場。アルバム『AIM』の収録曲「FRONTIER」でライブをはじめ、力強い歌声と激しいバンドの演奏で早速会場を盛り上げる。続いてファンメイド曲「MapleStep」では「クラップお願いします!」と観客を煽りつつ、左右に移動しながら両サイドの観客のもとへも向かうなど、開始早々会場を広く使う姿が印象的だった。

 ここで一旦MCを挟み、一面イメージカラーのオレンジとなった会場に向け「盛り上がってますかー?」「色んな人と話してたら緊張も解けてきて、いい感じでライブさせてもらってます!」と伝えると、ふたたびライブ向きの楽曲を連発。スカコア風の「TOBI-DERO!」、サビでミラーボールがキラキラと回ったファンメイドのファンクチューン「Red Star」、「みなさん、盛り上がってますかー? 今日は声は出せないと思うけど、腕上げてってねー!」と伝えてはじまった「踊れ!(踊れ!)歌え!(歌え!)騒げ!(騒げ!)」というコールを持つヘヴィロックナンバー「Sugar Shack」などを次々に披露。もともと、観客を自分のパフォーマンスにぐんぐん巻き込んで盛り上げるライブ巧者として知られる彼女だが、『AIM』の楽曲が加わったことで、グルーヴの種類がより多彩になった印象だ。

 また、ことさらにバーチャルであることを強調するのではなく、あくまでリアルのアーティストと同じようなセット/演出が用意されていたのも印象的だった。このライブでは全編を通して彼女とバンドメンバーが、次元を越えて何の垣根もなく一緒に演奏している雰囲気が大切にされており、バーチャルアーティスト以前に、リアルアーティストのライブを観ている感覚に限りなく近い。これはVTuberのライブでは珍しいことで、そこからは「バーチャルもリアルも違いはない」というメッセージが伝わってくるようだ。

樋口楓

 以降はバックに炎の演出が光る「Be Myself」や「ステレオアイデンティティ」といったアルバム収録においてロックな楽曲を連発。そして「『KANA-DERO』のあの瞬間をもう一度お届けします!」と伝え、メジャーデビュー前の人気曲「響鳴」を披露すると、「ファンメイド曲は私の根っこにあるものだから、それは絶対にやりたいですと伝えて歌わせていただきました!」と観客に伝え、大きな拍手が起こる。ファンメイドの楽曲を歌い続けることで、メジャーデビューにまで広がった彼女のアーティストキャリアを象徴するような瞬間だった。

 中盤には「ビデオメッセージが届いている」というフリから、自分自身による映像メッセージを使った3曲を披露。まずは2020年8月に開催された大型企画『にじさんじ甲子園〜2020・夏〜』の決勝戦「にじさんじ高校」と「VR関西圏立高校」の試合映像が流れ、「VR関西圏立高校」の監督を務めた樋口楓監督が映像で登場。夏の熱戦を振り返りながら選手たちに向けて改めてエールを送ると、ステージに樋口楓が登場して同野球部をテーマにした「Victory West!」を披露。続いてビデオメッセージ演出の2つ目として、同じく配信ネタのひとつ、カエデちゃんが登場。歌詞に対応した食べものやカエデちゃんをバックに、オールドファッションなロックンロール/R&B「たこ焼きロック」を披露した。

樋口楓

 そして3つ目のビデオメッセージは、今回のライブの構成とも密接に関係する、2020年5月1日の配信『20250501』に登場した「22歳の樋口楓」だ。この配信は、今とは異なる世界線で暮らす大学生になった(5年後の)樋口楓が、現在の世界線のリスナーとやりとりをするほか、17歳の樋口楓からの手紙を読み上げたりする内容で、ショートカットのやや大人びた樋口が、にじさんじに入らなかった世界線での等身大の想いや悩みを伝えて話題となった。

 そうした配信のダイジェストを経てはじまったのは、17歳の樋口楓がVTuberとして活動していくことの悩みや、それらを経て辿り着いた決意を歌ったアルバムのリード曲「アンサーソング」。ここでは演出や照明がひときわシンプルになり、バンドの演奏と歌声だけを際立たせることで、楽曲のメッセージをストレートに伝えるような雰囲気に変わっていった。

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