シキドロップ、ネット世代中心に人気拡大 “はみ出し者”に寄り添った音楽性を解明
今回のアルバムタイトルであり、リード曲にもなっている「イタンロマン」には、「異端」という言葉が含まれている。はみ出し者の存在は、これまでのシキドロップの中でも重要なテーマとして歌われてきたものだ。
「僕は小さい頃から上手く人に合わせられない子で、変だとからかわれたりして自分が大嫌いだったんですけど、そんな自分の感性や情熱のおかげで今こうして音楽や芸能に関われたんだなとは思っています。そう思うと人生それも悪くないなって笑えっちゃったりもして。自分を認めたり許してあげることで何だか笑顔になれたり気持ちよく空気が吸えたり、人生を豊かに生きるヒントってそういうところにあるのかな、と今は思っています」(平牧)
「異端じゃない人なんているのでしょうか。そんな歌です」(宇野)
「イタンロマン」は、「異端」という一見ネガティブにも思われる言葉に、「ロマン」という単語をかけあわせることで、軽やかな印象に変わるのも特徴的だ。リード曲「イタンロマン」の歌詞の中にも〈イタイ浪漫〉、〈インスタント浪漫〉という言葉が登場する。そのわずかな音の違いは、聴いていて心地が良いし、口ずさんでみてもきっと気持ちが良いだろう。
2曲目の「エラー彗星」も、生きづらさを抱える「君」に〈そこから君を連れ出すの〉と手を差し伸べる曲だ。散りばめられた〈銀河〉や〈夜空〉などのワードが、広く自由な宇宙を想起させる爽やかな仕上がりになっている。この曲は、すでに何度も動画でタッグを組んできたイラストレーター・sakiyamaによるアニメーションMVも公開されており、映像と共に楽しみたい1曲だ。
軽やかなカタルシスだけでなく、きっちり毒も仕込まれているのが『イタンロマン』のおもしろいところ。例えば、4曲目の「愛」は、タイトルだけ見ると温かな曲を想像したくなる。だが実際は、〈愛は無料アプリじゃない 欲しいなら僕らからペイして〉など、簡単に使い捨てられる「愛」という言葉に疑問を提示する、エッジの効いた曲になっている。
この「愛」のように、現代的なワードを組み込んで社会風刺するというシキドロップのスタイルは、『ケモノアガリ』の時から顕著だ。
「僕はニコニコ動画やYouTubeでずっと活動してきたので、ネットやその文化がないと困っちゃいます。ミーティングも全部オンラインで良いと思ってます。ただその事実を客観視した時に、人間味がなくて物凄く恐ろしいものだと思いました」(宇野)
「ツールに対して思うことは、物理的なところではなくて精神的な部分で「便利になるほど不便になっていく」ということです。マッチングアプリにしても、こんな簡単に出会いを探せるようになったのに、色々な価値観がインスタントになり過ぎて、いよいよ愛を探しづらくなっている。LINEやSNSにしても簡単に人と繋がれたり、ブロックできたり、地球の裏側まで言葉を飛ばせるのに、だからこそなのか、人との繋がりが軽薄になってる気がします」(平牧)
アルバムを締めくくるのは、ドラマチックなピアノバラードの「ふたりよがり」。ここにも言葉遊びが詰め込まれていて、曲の終わりにいくにつれて歌詞がひらがなになっていき、句読点をどこに打つかによって意味が変わるつくりになっているので、ぜひ歌詞カードを見ながらじっくり聴いてみてほしい。また、〈きみがすきでした〉や〈きみにであえてよかった〉というフレーズからは、「君」がまだここにいるようにも、もういないようにも取れて、出会いと別れの両方が感じられる、切ない手触りの曲に仕上がっている。
このアルバムについて、2人は聴く人に、どのようなものとして届けたいと感じているのだろうか。
「自分の同じ考えを持つ人や仲間を探すために使ってもらえると嬉しいです」(宇野)
「音的にノれるというか楽しい曲が多いので今回は部屋で爆音で流しながら呑み踊って欲しいです(笑)。近所迷惑にならない程度で!! 今まではバラードだったりダークな雰囲気の物が多かったので、今回はこのポップさやキャッチーな感じをぜひ楽しんで欲しいです。コロナでこんなカオスな世界になってしまったからこそ、“自分だけの正解”というものを改めて見つめ直すきっかけにもなっていけたら嬉しいです。どんな決断にも、そこにはヘイトではなく愛があって欲しい」(平牧)
『イタンロマン』は3部作の完結編だが、別れを想起させる「ふたりよがり」から、別れを描いた『シキハメグル』へ再び繋がっていくような仕掛けがほどこされた「環結」作品でもある。物語は一旦「自認」までたどり着いたけれど、人生は物語のように「めでたしめでたし」では終わらない。また新たな挫折や喪失が待ち受けているかもしれないし、別れの先にあるのは新たな出会いかもしれない。それはシキドロップの2人の今まで、そしてこれからの旅路のようでもある。
最後に、3部作が「環結」した今、シキドロップのこれからの展望について聞いた。
「まずはライブができる状況になったら『ケモノアガリ』『イタンロマン』の感想を生で聞きたいです。僕らは今旅の途中なので、この質問に対する答えは見つかってませんが、見つかった時は皆様、ご笑納ください」(宇野)
「本当に今は沢山の「さよなら」「お別れ」に溢れ返ってしまうこともありますね。その部分に寄り添えるような、少しでも傷口を静かに出来るような作品作りをやっていきたいです。あとはこのコロナ禍で「人生は旅だな」と、部屋でぼんやり考えることもあって、まだうまく言えないんですがそういったコンセプトで作品作りもしてみたいです」(平牧)
■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。Twitter(@erio0129)
■リリース情報
3rdミニアルバム
『イタンロマン』
2021年2月17日
<収録曲>
1.イタンロマン
2.エラー彗星
3.新世界
4.愛
5.前夜祭
6.バベル東京
7.ふたりよがり
2ndミニアルバム
『ケモノアガリ』
2020年4月3日
1.行進する怪物
2.神様は死んだ
3.先生の言うとおり
4.蘇生のススメ
5.ケモノアガリ
6.涙タイムカプセル
7.心
1stミニアルバム
『シキハメグル』
2019年3月21日
<収録曲>
1.キミへ
2.おぼろ桜
3.ホタル花火
4.さくら紅葉
5.なごり霙
6.シキハメグル
7.P.S.
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