石井恵梨子のチャート一刀両断!
TOMORROW X TOGETHER、破竹の勢いでチャート首位に 不安定な時代の“夢”を描く、ティーンエイジャーの新たな希望
参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2021-02-01/
近年はこの書き出しも多いですが、K-POPの勢いが目立つ今週のチャートです。1位がTOMORROW X TOGETHER(以下、TXT)の『STILL DREAMING』、2位がEXOのメンバー BAEKHYUN(ベクヒョン)の『BAEKHYUN』。3位にはリトグリことLittle Glee Monsterの初ベストが3.6万枚で入ってきましたが、上位2作は数字の差が歴然。『BAEKHYUN』は約4.8万枚、TXTの『STILL DREAMING』はなんと約8.7万枚ですよ!
すでに確たるファンベースのあるEXOはともかく、注目すべきは2019年3月にデビューしたTXTの躍進ぶり。BTS所属事務所の若手ホープ、サウンドもBTS制作チームががっちり支えているとはいえ、ものすごい勢いで新規ファンを獲得しています。前々作のミニアルバム『THE DREAM CHAPTER: ETERNITY』が初週2.9万枚、前ミニアルバム『minisode 1:Blue Hour』が3.2万枚だったことを思えば、今回の8.7万枚は、いよいよブレイクと言って差し支えのない数字。いつまでもBTSの弟分とは呼ばせない、というムードさえ感じます。
事実、ストリート色の強いヒップホップ・ダンスグループとしてデビューしたBTS(初期は全員が黒の衣装、カラーギャングっぽさもありました)とは相違点がかなりあります。あくまでメロディを押し出した歌もの/ポップスであること。さらには、アルバムジャケットでメンバーがニットとかカーディガンを着ているように、グループの設定が、いい意味で普通なんですよね。
もちろん全員イケメンですが、“アイドルは揃いの衣装”の不文律がないし、“夢を与えるキラキラのスター”という設定も感じられない。ド派手なシンセが炸裂することもあまりない『STILL DREAMING』の楽曲群は、どちらかといえばメランコリー、もしくは憂鬱を前提に書かれたメロディのように感じられます。
アルバムはイントロを経て「Force」からスタート。いかにも力強いタイトルですが、日本語盤の歌詞は〈僕らの明日はまだ見ぬ光/挫けることもあるけど〉とかなり謙虚モードです。〈飛び出そう〉と鼓舞した直後〈いつか見失ってしまう前に〉と続くのも印象的。ポップスが「大丈夫、夢は必ず叶う」と歌わなきゃいけない義務はないのですが、そういう前時代的なセオリーからこの作品ははっきり逃れている。おそらくTXTの歌にあるのは、最初から不安しかない世代の戸惑い、ではないかと思われます。