中島由貴に聞く、芸歴15年のキャリアが育んだ仕事に対するプロ意識「考え方や仕事に対する姿勢もお母さんから学んだこと」
「楽しいもの」と「腹が立つこと」がモチベーションに
ーー声優業を始めてから最初に感じた大きな壁や苦労って、今思い返すとどんなことがありましたか?
中島:関西出身なので、イントネーションの壁は高かったですね。イントネーションや方言を直すことにはめちゃくちゃ時間をかけたイメージがあって。小学生のときも演技レッスンがあったので、そのときは東京までレッスンに通っていたんですよ。だから周りが東京や関東の子たちなので、標準語なのは当たり前。自分だけ関西弁なので浮いちゃうし、ずっと指摘されるし、みたいなことをお母さんに相談したら「じゃあ直そう!」と超スパルタで、1年かけてがっつり直したんですけど、中学になってから演技から離れて緩みもあって、高校2年生で声優になったときには元に戻ってしまっていて。こんなに方言の壁って分厚いんだなと思いました。
ーー生まれてからずっとその言葉を使って生活してきたわけですからね。
中島:とはいえ、やっぱり方言も失いたくないじゃないですか。私は声優を始めるタイミングでお母さんと一緒に上京したんですけど、お母さんには方言を喋っておいてもらいたいし、でも仕事のためにイントネーションは矯正したい、なのにお母さんと喋ると戻っちゃうみたいな(笑)。今でも収録で「ちょっと訛ってるよ?」と言われることがあるんですけど、昔に比べるとだいぶマシになりました。
ーーこの仕事を続けていく中でつらい思いも経験していると思いますが、そこを乗り越えられたモチベーションにはどういうものがあったと思いますか?
中島:めちゃくちゃ落ち込んだときに、親や友達が些細な言葉で救ってくれることが多くて。地元の友達から突然「元気?」とか「大丈夫?」とかLINEが来るだけでも、落ち込んでいたものが解消される。そういう性格なので、モチベーションとしてはやっぱりいただいたお仕事を自分の全力を発揮していいものにしたいという思いかな。だから、落ち込んだとしてもやめたいとか逃げたいとは思わないですし。あとは、これはたまたまだと思うんですけど、歌ったり踊ったりすることに対してモチベーションが落ちた場合は、突然「このライブを観にいきませんか?」みたいに運良く誘われるんですよね。楽しそうに音楽を表現している姿を観たりすると、「あ、忘れてた! こういうのがやりたかったんだよね。落ち込んでる暇ないじゃん!」みたいに復活するので、基本的に作品への気持ち、プラス自分が表現したいことがモチベーションになっているかな。
ーーそういう意味では、精神的にタフなのかもしれませんね。小さい頃から、失敗したりしてもすぐ次に挽回してやろうみたいなタイプだったんですか?
中島:そうですね、負けず嫌いなので(笑)。「覚えておけよ!」みたいな気持ちがある意味モチベーションになったりもするので、楽しいものを観てモチベーションを上げるか、めちゃくちゃ腹が立つことがあってモチベーションを上げるか、そのどちらかですね。
キャラクターの性格を見て声を決める
ーー歌に関しても聞かせてください。歌うこと自体はもともと好きだったんですか?
中島:小さい頃から好きで、ボーカロイドの楽曲だったりアニソンだったりハロー!プロジェクトさんの曲をよくカラオケで歌っていたんですけど、それを友達には見せることはできても、お金を払っていただいてお客さんの前で歌うということをしてこなかったので、はじめは不安もありました。初めてそういうお仕事をいただいたときも「自分はこの歌い方で合っていますか? これが正しい歌い方なんでしょうか?」と悩みましたし。しかも、「キャラ声で歌うって何?」みたいな。
ーー普通に歌う歌手の方とは、そこからまず違いますものね。
中島:そうですね。キャラクターソングのお仕事をいただいたときに、まず「キャラで歌うってなんだろう? キャラ感を出すってなんだろう?」と思ってほかのキャラソンをたくさん聴いたんですけど、それでもレコーディングのときは「こういうキャラだから、こういう感情で歌うだろう」みたいなところまで頭が回らなくて。その曲の仮歌で歌っている方をそのまま真似して歌っちゃう感じだったので、それでレコーディングが長引いたりすることもありました。でも、練習あるのみかなと思って、カラオケに行って練習したり、おうちでも集中して聴いて歌うようにしていましたね。
ーーキャラ声の話が出ましたが、キャラクターの声は音響監督さんやスタッフさんと相談しながら作っていくんですか?
中島:自分は結構、キャラクターの性格を見て声を決めるというか。声をがっつり変えられるわけではないので、自分の素の声がありつつ、そこにキャラクターの性格を入れ込んで収録しているので、ディレクションしてくださる音響監督さんや周りの方の意見を入れつつ、自分っぽさも残しつつという感じでやっています。で、自分から出たものがちょっとイメージと違うと、声の高さや低さをその都度調整しています。
ーー『IDOL舞SHOW』ではどうでした?
中島:ゆい坊(金剛寺ゆい)に関しては、レコーディング前から「ちょっとアホっぽいよ」と言われていて(笑)。三日月眼の3人の中では元気担当で、妹感のあるキャラクターだと聞いていたので、高めの声を意識していたんですけど、『IDOL舞SHOW』ってキャラクターがたくさんいるじゃないですか。「声の高い子、いっぱいいるじゃん!」と途中で気づいたんですよ。で、ドラマCDの収録では私自身が普段ふざけちゃうところと、ゆい坊のおちゃめなところって似ているんじゃないかと台本を読んで思ったので、そのへんに気をつけて。妹感とちょっとアホっぽいところを出せたらいいなと。そんなニュアンスを当て込んであげたら、可愛くなるんじゃないかなと思って収録に臨みました。
ーー演技の過程でほかのキャラクターとやり取りを重ねることで、自身が演じるキャラクターも成長していくわけですよね。
中島:そうですね。これは『IDOL舞SHOW』だけでなくほかの作品でも一緒ですが、キャラクターによってほかの人との絡み方が全然違って、関わっていく中で成長していく子たちに対して自分も収録のたびに「あのときはこういうことがあったから、時系列的には今この位置だ」ということを考えながら向き合っています。でも、これがゲームの収録になると「これは前回収録しっときよりも前の話です」みたいなことも多いので、そういうときは元に戻したりしますが、基本的には時系列に沿って進んでいくことが多いので、自分も一緒に成長しているようになりますね。だから、キャラクターとともに歩んでいるというか。場合によっては、キャラクターが先に前を歩いていて、それを追いかけることもあるので、そういう面白い発見もあって楽しいですね。
ーーそれって分身ともまた違うわけですよね。
中島:ファンの方からキャラクターが私に近づいているとか、私がキャラクターに近づいていると言ってくださることもありますけど、そういうのって今までなかった共通点が見つかったからこそ、お互いが近づいているように見えているのかなというのは感じます。