連載「EXILE MUSIC HISTORY」第3回:DJ KIRA

EXILE MAKIDAI 連載「EXILE MUSIC HISTORY」第3回:DJ KIRAと語り合う、ダンサーのためのトラックメイキング

ダンストラックにはボーカルを使わないで表現する難しさや楽しさがある

KIRA

MAKIDAI:KIRAの思う、当時のダンストラックの作り方やメソッドはありました?

KIRA:大切なのは、みんなが踊りたいニュアンスをいかに楽曲に落とし込めるかです。でも、求められるレベルが非常に高いんですよ。HIROさんは最初に曲を聴いたあとに、ちょっとアドバイスしてくれるだけなんです。それを持って帰って、また聴いてもらってと繰り返すと、3回目くらいからようやく具体的な話になってくる。「KIRAは3回やらせると、だんだんよくなってくる」と本人にも言われました。1回目もそこそこ良いかなと思って出すのですが、やっぱりHIROさんの要求ははるかに上だったんだと分かるんですよね。

MAKIDAI:なるほど。

KIRA:そういうことを初期の頃からやっていたから、段々と慣れてくる。すると流れが出てきて「KIRAだったらわかるから、こういうやつお願い」とか「イントロが鳥肌が立つ感じ 」とか、オーダーもどんどん省略されていくんです(笑)。今では、かなりざっくりとした言葉でもだいぶわかるようになりました。

MAKIDAI:『EXILE LIVE TOUR 2013“EXILE PRIDE』のリハーサルにKIRAが来てくれて、パフォーマーたちのダンスを見て、それを踏まえてダンストラックにしてくれたこともありましたね。D.O.I.さんとの対談でも話しましたが、あの曲は凄かったです。(参考:サウンドエンジニア D.O.I.と振り返る、EXILEサウンドの進化

KIRA:あの曲は先に僕がありものの音源や自分の音源を混ぜた叩き台を作っておいて、それをダンスに合わせて調整したものだったのですが、それでもトラックはものすごい数でした。D.O.I.さんも多分あれを超えるトラック数(690以上)はやっていないと、会う度にそれを話しています(笑)。歌は入っていないけれど、歌を超えるような情報量のあるトラックの作りでしたね。

MAKIDAI:あの時もみんな、イメージで伝えていたじゃないですか。ブレイカーのアンセム曲「アパッチ」っぽいのとか(笑)。

KIRA:ダンサーの人が音のイメージを言葉で伝えるのは難しいと思うんですよ。だからこちらも汲み取る力を持っていないとダメですね。いつも申し訳ないとは思いつつ、何回も同じことを聞いてしまいます。

MAKIDAI:絶対にそうなってしまうものというか、むしろそのイメージのやりとりの中で生まれるものですから。あとKIRAの言葉ですごく印象的なのは「ボーカルは、喉という最高の楽器で演奏するもの」という表現なんですよ。

KIRA:それはトラックメイカーならではの目線かもしれません。逆に、ダンストラックにはボーカルを使わないで表現する難しさや楽しさがあります。ボーカルが入ると、それだけで楽曲に個性が出せるけれど、あえて使わずにどうやって人の心に残る曲を作れるのかは、いつも考えています。

MAKIDAI:ダンスのスタイルに合った音もありますし、そのイメージも1つじゃないんですよね。音楽だけ、ダンスだけというより「この人のダンスはこういう感じだから、こういう曲」とか。

KIRA:そこが一番重要なところです。だから普通にトラックだけを作る人だと、自分が言わんとすることの意味がよくわからないと思うんです。ダンサーのキャラクターを活かしてトラックをミックスするのは、やっぱり難しい。

いろいろなことの進化がどんどん早くなっていっている

MAKIDAI:Jr.EXILE世代に入ってからは、トラップやフットワーキングがあったりと音楽のジャンルや要素が増えていると思うんです。でもダンスの種類によって使う曲が変わるので、僕は「トレンド」という言葉だけで捉えられない表現だという気がしていて。KIRAの中では、まだ具現化するダンサーがいないけど、こういう音で踊って欲しいというのはありますか。

KIRA:メインストリームでトラップとかが流行っても、必ずしもダンサーが踊るために曲が発展するとは限らないので、ダンス用のトラックはトレンドを抑えつつも踊るのに適したものに最適化していく必要があるのかなと。僕はそこに一番力を注いでいます。たとえばEDMの要素を入れようと思ったら、上モノはピカピカなんだけれど、ビートはダンサーのためにちょっと変わったものにしてみたり、逆にビートはトラップなんだけど上モノは全然トラップじゃなかったりとか。そういう曲を試しに作って、プレゼンしてみたりもします。ショウタイムの音源のオーダーが来たときなどに、そういうのを聴かせて反応を見ていますね。

MAKIDAI:例えば、あるジャンルのものを一度分解して、違うジャンルのものと組み合わせたり?

KIRA:そうですね。もっと言えば、“ダンサーマナーに変換する”というのは常にやっています。そこで面白く感じてもらえたら嬉しいです。ダンサーはちょっとニッチな音楽を欲していますからね。

MAKIDAI:踊りたい曲のイメージはあっても、ぴったりくる音源自体がなかったりすることはよくありますね。あとKIRAが「ミステイクも活かす方法を見出す」と言っていたのも覚えてる。ちょっとしたミスをむしろ“アリ”な方向に持っていくという発想は、すごくDJ的だと思います。

KIRA:例えば少しキーが合っていないのもヒップホップ的にはアリなので、それをわざと演出したりしていますね。ルーズな感覚をかっこいいモノとして捉えるのは、2000年代に入ってヨレのあるビートが流行ってきた時も、やっぱり感じました。そのかっこよさはストリートから来ている感覚だという意識があるので、制作のときはきれいになりすぎないように気を付けています。

MAKIDAI:不思議ですよね。聴感上でちょっとズレていても気持ち良かったりする。この特性によって、たとえばラッパーは一人ひとり音を取るタイミングが違ったりすると思うんですよ。ところで最近、オススメのアーティストはいます?

KIRA:そもそも誰か1人のアーティストを追うという習性が、自分にはあまりないんです。アーティスト名を意識せずに曲として、耳で全部ジャッジしちゃうので。この曲をよく聴くというのはあるけど「この人を追う」というのはしてきてないのかもしれないです。でも一応、発売されているものは片っ端から全部聴く、みたいな事は続けていますね。

MAKIDAI:なるほど。自分も結構な数の音楽を聴いていますが、KIRAの家に行くと「こんな音楽も掘ってるんだ!」と毎回、驚かされます。そういう意味で、最近追っているシーンなどはありますか。

KIRA:それはありますね。最近は普段、静かな曲を聴いてます。日本人も関西とかにメロウで面白いアーティストがいますね。あとはタイポップやブラジルのチャート、南アフリカとかも掘ったりしています。結構、南の方のチャートを聴いてると、アメリカでメインストリームになった曲を再解釈してブラジル流とか南アフリカ流にしているんですよ。そこに日本で海外のトレンドをどう解釈して具現化していくべきかのヒントが隠されているんじゃないかと。

MAKIDAI:色々なところにアンテナを張りながら、それをアウトプットに変換しているんですね。

KIRA:そうです、音楽を探す旅。アメリカとかヨーロッパチャートだけじゃない感じで聴いてみるのは、ÜSAの影響もありますね。「DANCE EARTH」のプロジェクトでは、世界中の曲を取り入れようとしていました。

MAKIDAI:たしかにÜSAは世界各国、色々なところに行って、音楽も聴いてきましたからね。それを彼流にアウトプットする時はKIRAに相談していたんですね。あと、先ほどのブラジルや南アフリカの話でいうと、アメリカのメインストリームの曲をローカライズする際には、その国々の特徴的な楽器が使用されるケースが少なくないと思うんですよ。ヒップホップにしても、日本では琴っぽい音色をあえて使用するアーティストもいますが、KIRAも胡弓を演奏していたとか。

KIRA:当時、その音源だけ無かったから、自分で弾くしかなくて。僕も自分が胡弓弾くとは思ってなかったです(笑)。

MAKIDAI:ピアノも弾くし、鍵盤も胡弓も。

KIRA:ギターも中学ぐらいからやっていますね。そんなに上手に弾けるわけじゃないけど。

MAKIDAI:トークボックスもトライしてたよね。

KIRA:ボコーダー系とか、トークボックスも練習して。それにしても楽器や技術の進歩で曲の作り方も、20年前と比べると雲泥の差になってきていますよね。すごく変わったなと思います。この1、2年でもどんどん変わっていったし、さらに1年後はもっと変わるはずだと予想しています。

MAKIDAI:いろいろなことの進化がどんどん早くなっていっている感じはある。音楽の作り方にしても、コンピューターにどれだけの容量があって、早くデータを処理できるかによって成立することも増えました。でもやっぱり、どれだけ制作環境が変わって新しいものを取り入れても、「レコードを掘って、好奇心を持つ」という部分も変わらずに抱き続けているのが、僕にとってのKIRAのイメージなんですよね。

KIRA:怖いですよ。昔は3分くらいの曲でも作るのに時間がかかって、書き出しにも何時間とかかかって。バイク便が来てCDを持っていってもらって、皆がチェックして「ここを修正してほしい」なんて連絡が来た。この手間が今だったら数分でできてします。でも、その分さらにスピードアップが求められちゃう。

MAKIDAI:なるほど。

KIRA:だから「どれだけ効率的にやるか」を考える様になりました。昔は「これ以上できない」という限界を皆が分かっていたけど、今は限界がわかりにくい。そういう部分での変化が、ちょっとした技術的な進歩よりも大きい影響があるね。

MAKIDAI:例えばHIROさんの限られた言葉から、どれだけイメージを膨らませて音源化できるかという部分は変わらないわけでしょう。つまり、情報となる鍵は少ないけれど、出さなければいけない答えの総量は大きくなっている、速さも求められる。これは難しい問題ですね……。面白さもたくさんあるけれど。

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