My Hair is Badが歌う、心の動きを綴った物語性 『life』『love』で花開いた“作家としての個性”と“聴き手に響く言葉”
先日、ライブ映像作品『Youth baseball』を配信したMy Hair is Bad。あのライブで初披露された新曲「白春夢」のことが1カ月経った今でも忘れられない。12月23日に同時リリースされるCDシングル『life』、配信シングル『love』のうち、『life』の1曲目に収録されている曲だ。
そもそもドラムのビートから始まる曲がMy Hair is Badには少ないため、出だしから新鮮味があった。そこにギターのアルペジオが重なって生まれる澄んだ空気。それは“静謐な”とも言えそうだし、“緊張感のある”とも言えそうだった。〈いつまでも続くみたいだった/もう春と言われるならそうだった〉と歌い出しにあるように、外出自粛期間中の心情にフォーカスした曲。椎木知仁(Gt/Vo)はその時代ならではのワードも自然と取り入れるタイプのソングライターで、例えば過去には〈ツムツム〉(「ワーカーインザダークネス」)や〈既読〉(「惜春」)といった単語が歌詞に登場したことがあった。とはいえ、ここまで2020年的な言葉選びがされている曲は、今年他のバンドが発表した曲を見渡しても、なかなか稀なケースだろう。
Aメロの語尾を過去形(~だった)、過去進行形(~ていた)で揃えて語感を整えたり、〈deja vuをしゃぶる〉のように押韻でリズミカルに聴かせる手法は、椎木の得意とするものだ。〈ステイホームでホームレス〉と、逆の意味を持つ語を続けて配置しても文章が成り立っている箇所は特に面白い。“空になったトマト缶をゆすぐ”という日常の何気ない1シーンをピックアップしつつ、生きた心地がしなくなっていく様をそこに重ね、さらに終盤の〈都庁が真っ赤に染まっていた〉というフレーズで、赤色を登場させた意味、トマト缶である必要性を回収。言葉の運びがあまりに秀逸だ。
また、全体的に、言葉が分かりやすくなっている印象だ。比較例として、2016年5月リリースの「戦争を知らない大人たち」を挙げたい。「白春夢」同様、いわゆるラブソングではなく、(社会に対する)“個”としての自分自身ととことん向き合っているタイプの曲。言葉をぽつりぽつりと零すAメロ、ボーカルがロングトーンするBメロと、曲の構成も共通している(「白春夢」は一度だけCメロが登場するが)。
両者の違いが最も分かりやすいのがBメロ。「戦争を知らない大人たち」では、〈Good night…〉という抽象的なワードが繰り返し歌われていて、リスナーに解釈を委ねている感じがある。対して、「白春夢」のBメロで歌われているのは、〈ずっと住み慣れた部屋の中なのに早く帰りたい〉という多くの人の共感を伴うフレーズや、〈ないものを探すよりそばにあるものを大切にしたい〉という一人称の意思。また、曲タイトルの意味を説明しているようなラスト1行〈夢から覚めても まだ夢の中で見てた 白春夢〉も興味深い。今までのMy Hair is Badならば、ここまで説明することはなかったかもしれない。