My Hair is Badが歌う、心の動きを綴った物語性 『life』『love』で花開いた“作家としての個性”と“聴き手に響く言葉”

My Hair is Bad、心の動きを綴った物語性

 おそらく今の椎木には、“届けたい”という気持ちが以前よりも強くあるのではないだろうか。先に挙げた押韻然り、「グッド・バッド・バイ」(『love』2曲目)などに見られる“名詞の羅列による情景の喚起”然り、椎木の作家性を特徴づける手法には、発語時の滑らかさ、音楽が喚起する映像イメージを優先したものが多い。ゆえに、意味的な繋がりのない言葉が唐突に登場する曲も多く、その突飛さがこのバンドならではの面白さに繋がっていた。

 その個性を削がないまま、今は意味性を、もっと言うと物語性をより重視した言葉選びが行われている。それが「あるべき言葉があるべき場所に配置されている」「洗練されている」といった印象に繋がっているのだ。その予兆は『hadaka e.p.』(2018年11月)~『boys』(2019年6月)あたりからあったが、My Hair is Badにおける歌の在り方が根本的に変わり始めているのかもしれない。“生傷を曝け出す”から、“心の動きを物語として歌う”に。〈僕ら最高速でいつだって/走れるわけじゃ/ないんだって/いつかは/止まってしまう日が来る/それでも僕は良しとして/靴紐を固く結ぶ/前を見たあの日〉(「アフターアワー」)から、〈たった1秒でも 長く歳をとって/春からまた春になるまでを 繰り返して〉(「味方」)に。

My Hair is Bad - 味方

 そういう意味で、「予感」(『love』3曲目)は現時点での到達点といえる曲だろう。海で見惚れる君の横顔に、“今ある2人の関係性が終わる”という意味での〈卒業〉というワードと、扱っているモチーフ自体はこのバンドにとって真新しいものではない。しかし〈オリンピック中止のニュースすら/聞こえないくらい恋してた〉から始まるドラマは濃密で、曲が終わったとき、短編映画を1本観終えたような重厚な後味、満足感が残る。そこに次の段階のMy Hair is Badを感じる。

 『Youth baseball』のレポート(参照:My Hair is Bad『Youth baseball』で示したロックバンドの戦い方 シンプルな映像で際立つ“剥き出しのサウンド”の迫力)に“ライブバンドとしての新しい燃焼のしかたを掴み始めている気がする”と書いたが、曲作りにおいても、まさにそういうタイミングなのだろう。『life』『love』収録曲群から読み取れるのは、作家としての個性を突き詰め、それを自らの武器として活かしながら、よりリスナーに響く曲を志向する椎木知仁の姿。そして、今回は歌詞を中心に語ったが、バンドのサウンドやアレンジ、メロディも、3ピースバンドとしての持ち味を失わないままスケールアップしている。調味料を足すのではなく、素材本来の旨味を抽出することによって、料理のグレードアップを図っているようなイメージだ。“内に踏み込む”と“外に開ける”を同時に実現させようと奮闘したのか、それとも自然にこうなったのかは分からないが、いずれにせよ、“劇的変化”より“正統進化”と呼ぶ方がしっくりくるのは確かだ。My Hair is BadがMy Hair is Badのまま、羽ばたく未来が想像できる。

My Hair is Bad - CD Single「life」/ Digital Single「love」全曲トレーラー

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

■リリース情報
My Hair is Bad
2020年12月23日(水)リリース

CDシングル『life』¥1,100+税
1. 白春夢
2. 心はずっと
3. 子供になろう

配信シングル『love』
1. 味方
2. グッド·バッド·バイ
3. 予感

■関連リンク
My Hair is Bad Official HP
My Hair is Bad Official Twitter(@MyHairisBad)
My Hair is Bad UNIVERSAL MUSIC HP

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