KIRINJI、バンド編成ラストライブで響かせた渾身のアンサンブル 手練れの音楽家たちによる“挑戦と進化”の集大成
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今回のライブでは、千ヶ崎が器用にベースを弾きこなしながら歌う「悪夢を見るチーズ」や、楠のリラックスしたボーカルが魅力の「ONNA DARAKE!」など、それぞれのメンバーが歌う場面が用意されていたのも印象的だった。観客にとっても嬉しい、バンド編成として最後のライブならではのサービスが感じられる。
KIRINJIの中期から後期は、ダンスミュージック的な音像を追求した楽曲が中心になっていき、ライブで盛り上がるのもそれらの曲なのだが、メロディの美しさが光る初期楽曲、例えば「恋の気配」や「だれかさんとだれかさんが」などの魅力を再発見できたのも今回の収穫だった。とりわけライブ中盤で演奏された「だれかさんとだれかさんが」のイントロの清涼感、吹き抜ける春風のような心地よさには圧倒されてしまった。こんなにいい曲だったのかと驚く、ライブならではの新鮮な体験だ。
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バンドは「LEMONADE」「shed blood!」「『あの娘は誰?』とか言わせたい」と演奏を続け、終盤へ向けて会場が再び盛り上がってきたところで、ラッパーの鎮座DOPENESSがゲストとして登場、彼をフィーチャーした「Almond Eyes」が演奏される。ラッパーならではの身体性の強さ、ステージに登場した途端に観客を思わず立ち上がらせてしまう吸引力に目を奪われた。鎮座DOPENESSは、ステージにスケートボードを持ち込んで滑ってみせるなど、茶目っ気のある演出で観客を楽しませる。
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本編の最後は「The Great Journey」「都市鉱山」「Pizza VS Hamburger」と、ライブで確実に盛り上がる人気曲を一気に演奏して終了。ライブバンドとしての一体感、グルーブのある演奏が堪能できるエンディングだった。興奮と同時に、これほどの演奏ができるバンドが終わってしまうのかと悲しい気持ちになってしまう。アンコールの拍手にうながされて再登場したバンドは、「進水式」「クレゾールの魔法」「クリスマスソングを何か」「時間がない」と4曲を演奏し、客席へ向けて深々と礼をするとステージを去った。これでバンド編成としてのKIRINJIは活動を終えたことになる。
体制変更後もKIRINJIの名義は変わらないようだが、聴き手はバンド編成を解消した後の活動に対してどのような想いを抱いているのだろうか。会場に来ていた方々の意見をうかがってみたが、どの答えもポジティブなものばかりだった。「これまでも、常に予想を超える作品を届けてきてくれた。今後にも期待感しかない」(Qさん)、「斬新な作品ができるはず」(Rさん)、「また素晴らしいものを作ってくれる」(RCさん)、「よりフレキシブルに活動できて、濃密な堀込高樹のエッセンスが味わえると思う」(Aさん)。
こうして話を聞いていると、キリンジ~KIRINJIは熱心な聴き手に支えられてきたと改めて思う。2021年は聴き手にどのような楽しみを届けてくれるのか。今後のKIRINJIに「期待感しかない」と、ファンの方の言葉を借りながら伝えたい気持ちだ。
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■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。
■セットリスト
『KIRINJI LIVE 2020』
Day 2(2020.12.10@NHK ホール))
1. 明日こそは/It's not over yet
2. 今日も誰かの誕生日
3. Mr. BOOGIEMAN
4. killer tune kills me (w/ YonYon)
5. タンデム・ラナウェイ
6. 恋の気配
7. 非ゼロ和ゲーム
8. 悪夢を見るチーズ
9. ONNA DARAKE!
10. だれかさんとだれかさんが
11. LEMONADE
12. shed blood! (w/ YonYon)
13. 「あの娘は誰?」とか言わせたい (w/ YonYon)
14. Almond Eyes (w/ 鎮座 DOPENESS, YonYon)
15. パレードはなぜ急ぐ
16. 嫉妬
17. The Great Journey (w/ 鎮座 DOPENESS) 18. 都市鉱山
19. Pizza VS Hamburger
Encore
20. 進水式
21. クレゾールの魔法
22. クリスマスソングを何か
23. 時間がない
■配信情報
『KIRINJI LIVE 2020』東京NHKホール
・視聴券:4,000円(税込)
・Tシャツ付き視聴券:6,500円(税込、配送料別)
<販売期間>
・12月9日公演:12月16日21時00分まで(アーカイブは23時59分まで)
・12月10日公演:12月17日21時00分まで(アーカイブは23時59分まで)
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