My Hair is Bad『Youth baseball』で示したロックバンドの戦い方 シンプルな映像で際立つ“剥き出しのサウンド”の迫力

 バンドは全21曲を演奏。MCでメンバーも言っていたように、My Hair is Badには夏を思い返す曲が多い。フェスも花火大会も中止、夏らしいことがまともにできなかった今年の心残りを胸に、“あの頃の夏”に想いを馳せた人も少なくなかったのではないだろうか。なかでも興味深かったのは、今の彼らだからこその初期曲の鳴り方。例えば、「白熱灯、焼ける朝」は2014年リリースのアルバム『narimi』に収録されている曲だが、直前に「戦争を知らない大人たち」が演奏されたことも相まって、今の彼らが演奏すると、懐の大きな歌に聴こえる。まるでちっぽけな個人の心と広い宇宙が交信するような感じだ。そのように、既存曲の響き方が変わり始めた今だからこそ、ライブ初披露の新曲「白春夢」(12月23日リリースのCDシングル『life』に収録)が新鮮味のある曲だったことにも合点が行く。外出自粛期間中の生きた心地がしない感覚を歌った曲だ。

 全体から感じられたのは、曲を慈しむ、自らの演奏と改めて向き合う温度感だ。このライブの配信が発表された当時のコメントを見ると、まさに今の彼らがそういうものを求めていたことが窺える。

 2020年春の昼間、久しぶりにMy Hair is Badの映像を観ました。夢中になって全国ツアーを回っている自分たちの姿はどこか別人のように見えて、ここぞの勝負、大一番、ひりつく緊張感の中で削れる自分たちを凄く冷静に眺めていました。そしてハッキリと「この人たちもっとかっこよくなれるのにな!」と思いました。改めてどんな歌を、どんな表情で、どんな場所で、どうやって演奏したいのかを考えています。(引用:「Youth baseball」特設サイト

 コロナ以前のMy Hair is Badは年中ツアーを回っているようなバンドだったため、もはやライブがルーティンになっていたのかもしれない。当たり前が当たり前ではなくなったときに生まれた渇望は、短命の衝動ではなく、より濃度の高いライブをするための、より深く潜り込むための集中力に結実した。今のMy Hair is Badは、ライブバンドとしての新しい燃焼のしかたを掴み始めている気がする。そんな予感を感じさせるライブだった。

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

My Hair is Bad 公式HP

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