BTS『BE (Deluxe Edition)』全曲レビュー:過去作のどれとも異なる、生活に自然に溶け込むエフォートレスなアルバム

 6曲目の「병(Dis−ease)」はオールドスクールヒップホップ調のナンバー。メインで作詞作曲に携わったJ-HOPEによれば、人がそれぞれ持っている心の中の「病(disease)」のようなもの、例えばJ-HOPE自身の場合は休みをそのまま楽しむことができず不安を感じてしまう(dis-easeには「安らぎがない」というような意味合いもある)職業病のようなものを込めた曲だという。病というキーワードではあるもののポジティブなメッセージが込められている曲で、병(病=ビョン)とビンをかけたり、「最高にイケてる」という意味のillと韓国語の일(イル=1番・あるいは仕事)をかけたりという言葉遊びも随所に見られる。また、〈One for the laugh, Two for the show〉は古い童謡のフレーズとして様々な曲に使われているフレーズ「One for the〜,Two for the〜」だが、SUGAのソロ名義作Agust D「Give It To Me」でも〈One for the money and two for the show/Fame, flash light, give it to me〉というフレーズが出てくる。

 7曲目はJIN・RM・JUNG KOOKのユニットによる「Stay」。元々はJUNG KOOKのミックステープに入れる予定で全て英語詞だったという。アップテンポなフューチャーハウスだが、どこか切ない雰囲気も感じられる。「Telepathy」と同様、ファンに会えない気持ちを綴った「ファンソング」とも言えるが、「(5Gを越えた)7Gでつながっている」という表現などはどこかユーモアもあり、ポジティブなイメージを持った曲だ。

 最後を飾るのは、BTSを米ビルボードHOT100ナンバーワンにした「Dynamite」。アルバムリリース会見でRMはコンサートができない今、いつも花火や華やかな演出で彩られるあの美しいフィナーレのような感覚を感じてほしかったと語っていたが、今までのタイトル曲は多くが「パフォーマンスの主体であるメンバー本人たちがパフォーマンスするための楽曲」のような作りだったのが、この曲が持つエネルギー、バイブスは聴く人が自然に体を動かしたり口ずさんだりするような性質のものというのが今までとは大きく異なる点のように感じられる。ともすると「自作ドル」という肩書きだったり、「ファンダム」以外からは時には押しつけがましいようにも感じられかねない社会的メッセージを発する存在という目線など、人気ゆえに様々な期待や理想を被せられがちだった時期を越え、グループの人気と比較すると楽曲そのものの大衆性には欠けるという評価をされがちだった壁を打ち破ることができたのは、メンバーが直接作詞作曲に関わったわけではない「外注」の曲だからこそメンバー達が心からリラックスして曲そのものを楽しんでパフォーマンスすることができ、それがリスナーにも伝わって「パフォーマンスそのもので人を楽しくポジティブな気持ちにさせる」という「アイドルの根源」を初めて表現した・できたからなのかもしれない。それは“アイドル”や“ボーイズグループ”という括りで見られることを本当の意味で心から受容し、外の世界に向かって解放されたかのような、自由に音楽やパフォーマンスを楽しんでいる姿に感じられるからではないだろうか。

 エンタメ世界へ初めて切り込んでいくためのswagや自らの傷を開いて見せるような告白、物語的かつコンセプチュアルに構築された青年期の懊悩する姿、あるいは今の時代を生きる若きセレブリティとしてのメッセンジャー的な立ち位置など、過去のBTSの活動は「環境/立場が人を変えてゆく」(J-HOPE)という通り、その時々の彼らの道のりをそのまま反映してきたような、いわばハーフドキュメンタリーのようなものだったが、今作はそのどれとも違っている。どちらかと言えば今の状況下で生きる彼ら自身のもっと自然体の姿、『Run BTS!』や『BTS BON VOYAGE』などの「パフォーマンスしている時以外の姿を見せたり、生活が垣間見えるようなコンテンツ」で見せている姿をそのまま楽曲を通して見せる、Vlogのようなもののように感じられる。そこに映される生活がリアルの一部ではあっても、よくできた魅力的なVlogほど背景には綿密な計算でカメラが置かれており、繊細な編集はされているものだということは視聴者の側は忘れてはいけないが、ひとの「暮らす」姿というのは特別なことをしていなくても、ただそれだけで見る側が自分たち以外の人の営みやぬくもりを感じ、ほっとしたり癒されたり、時にはなんだか力づけられたりするものでもある。そんな風に、聴く人の生活に自然に溶け込んで共にあるような、エフォートレスなアルバムになったのではないだろうか。

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
ブログ:「サンダーエイジ」
Twitter:@djutakata

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