『君を救えるなら僕は何にでもなる』インタビュー
黒崎真音が明かす、未曾有の事態に直面したアニソンシンガーの胸中 「歩みを止めるわけにはいかない」
黒崎真音が、11月18日にニューシングル『君を救えるなら僕は何にでもなる』をリリースした。同シングルの表題曲は現在放送中のテレビアニメ『禍つヴァールハイト -ZUERST-』のオープニングテーマにして、8分間にわたって目まぐるしく展開し続けるプログレッシブなヘヴィメタルナンバー。自他ともに認めるメタルヘッズである“黒崎ならでは”にして、黒崎楽曲の中でも異色の1曲に仕上がっている。
今年でアーティストデビュー10周年を迎えた黒崎。彼女は今、アニバーサリーイヤー、ニューシングル、そして新型コロナウイルス禍といかに向き合っているのか。今回のインタビューで彼女は、その胸に去来する期待と不安、そのすべてを包み隠さず語ってくれた。(成松哲)
この10年を振り返ってみると「意外!」のひと言
ーーまずはデビュー10周年、おめでとうございます!
黒崎真音(以下、黒崎):ありがとうございます!
ーーこの10年間は早かった? それとも長かった?
黒崎:あっという間でしたね。黒崎真音として活動しているのと並行してMOTSUさんとSATさんとALTIMAというユニットを組んで活動していたりもしていたので、すごく濃密でした。毎月のようにライブがあったし、1クールごとにタイアップをいただいた時期もあったので、立ち止まっている瞬間がなかった気がします。
ーー逆に10年前の黒崎さんは、今の黒崎真音像って思い描いていました?
黒崎:全然(笑)。「これをこうして、あれはああしよう」と計画的に活動するタイプというよりは、とにかく目の前のことに懸命に取り組むタイプなので、今もそうだし、デビューのときから、この10年、先々のことはあまり考えてなかったですね。
ーーでは、あらためて振り返ってみて、10年前の黒崎真音という人は、今の黒崎真音をどう評しそう?
黒崎:もともと息長く活動するのが目標だったので「あっ、実現できてるじゃん」って思うのかなあ……。でもデビュー当時、10年もシンガーとして生き残っていける自信があったかというと、そうではなかったので、今の私はこの10年を振り返ってみると「意外!」のひと言ですね(笑)。
ーー意外ながらも10年間、アニソンシーンのド真ん中に立ち続けられた理由って分析できます?
黒崎:もうただただ周りの方のおかげだったんじゃないかな、と思っています。あと、私はデビューの時期にすごく恵まれていて。アニソンシンガーになりたくてアニソンシンガーになるっていう人がまだ少なかった頃だったので、今もそうなんですけど、常にみなさんが気にしてくださっているし、期待してくださっているから続けられているんでしょうね。
ーーアニソンシンガー志望のアニソンシンガーのパイオニアということは道なき道を切り拓いていかなきゃいけないし、スタッフやファンの期待に応えるのもなかなか大変な気もするんですけど……。
黒崎:マイペースにしか活動できないタイプだからなのか、あんまりそれがプレッシャーにはならなかったですね(笑)。ずっとマイペースでやらせてもらっています。
ーーただ今年の春以降って社会状況が状況だけに、なかなかマイペースには活動できていないですよね?
黒崎:確かに新型コロナが世界的に流行してしまったことは由々しき問題なんですけど、いちアーティストである黒崎真音としては実はちょっとホッとできたというか……。
ーーホッとできた?
黒崎:さっきもお話したとおり、この10年ずっと活動を続けていたので、自粛期間は逆に一度立ち止まっていろいろなことを考える時間に当てられた。そのことに少し安堵できたりもしたんです。
ーー「せっかくの10周年なのに……」といった思いはなかった?
黒崎:新型コロナが流行る前は「10周年だし、ライブをやりたい」みたいなことを考えていたんですけど、状況がこうなってからは、安全性が確保されていない中、ライブをするのはどうなのか? という思いのほうが強くなりました。ファンの方を心配させるのも違うし、ファンの方のことが心配でもありましたし。
ーーとはいえ、今年最初のリリースアイテムが、今回のシングル『君を救えるなら僕は何にでもなる』っていうのは、さすが10周年というか……。
黒崎:あはははは(笑)。巡り巡って不思議な表題曲が届きました。
ーーあっ「届いた」って感じなんですか。シンフォニックなヘヴィメタルって黒崎さんが最も得意でお好きなジャンルの印象があったから、ディレクションとまでは言わずとも、ご自身で積極的にセレクトしたのかと思っていました。
黒崎:やっぱりアニメソングってアニソンシンガーが選べるものじゃないですから。だからいつもどおりといえば、いつもどおり。「こういう曲だよ」って届いていた感じなんです(笑)。ただ、変わった曲になるという話は事前に聞いていたので、デモを聴いたときには「あっ、なるほどな」って思いました。
ーーそれも10年のキャリアのなせる業というか。イントロとアウトロはストリングス隊と黒崎さんのオペラやクワイアのコーラスだけで構成されているし、ベース、ギター、ドラム、鍵盤が入ってヘヴィメタルテイストに曲想が変わってからも1コーラス目のあとに2コーラス目があって、という構成にはなっていない。
黒崎:Aメロ、Bメロ、Cメロ、Dメロ、Eメロって感じで展開していくんですよね。
ーー最後に一度だけサビが繰り返されるけど、基本的にはメロディは進んだきり循環しない構造になっています。しかも8分超えという大曲でもある。ところがデモを聴いたときの黒崎さんはすごくフラットだったっぽいというか……。
黒崎:そうかもしれないです。アニメソングはなんでもアリなのがいいところでもあるので、あまり不思議に思わなかった気がします。確かに「そもそも私が歌うパートはどこだ?」ってなるくらい複雑な構成ではあったんですけど(笑)、どこかで「あっ、今回はこういう感じなんだ」と受け入れていた気がします。ただ、歌詞を書くのは大変でした。