清春が明かす、黒夢やソロイストとしての活動で磨き上げた美学「人間的な魅力のある、強い人だけが最終的には残る」

清春が磨き上げた美学

“続けること”はもう美徳とされない時代

『清春自叙伝 清春』
『清春自叙伝 清春』

──これまでの人生の中で、特に黒夢として活動を始めて以降はいろんな人との出会いもあったと思います。そういった人との出会いや付き合いが、清春さんに何をもたらしたと思いますか?

清春:大企業とか普通の中小企業でもいいんですけど、僕らはたくさんの人の中で働いている人たちよりもかなり楽だと思うんですよ。デビューしたのが25歳で、黒夢を結成したのが23歳。24歳ぐらいには自分たちの動員だけで自活できていたので、人に媚びる必要もなかった。レコード会社の人にも「お金が欲しいです。これから売ってください」という感覚もなかったですし、「もう大丈夫ですよ。あとはもっと有名にしてくださいね」というだけだった。嫌なことにも耐えようとかいろいろ立場を作っていかなくちゃというのもなかったので、同世代の人たちからするとかなり楽だったと思うんです。上司もいないから気にしながら生きることもなかったし、楽といえば楽ですけど、勉強する回数が少なかったといえば少ないし、でも違う部分でのプレッシャーはあったかもしれない。実際、数字が落ちたら「自分の魅力がないんだ」とか「時が過ぎているんだ」とか、そういうのはもちろん日々痛感する。だけどまぁそれにも慣れちゃいますからね。その中で自分が考えたことを具現化してくれる人、そのときどきで頼りにしている人はいたと思うし、ひとりではなかったと思います。

 ただ、黒夢が一番忙しいときに、亡くなったマネージャーが覚醒剤で一度捕まったことがあるんですけど、その数カ月は全部ひとりでやろうとしていたので、あのときはすごくきつかったですね。そんな中でも、当時のイベンターやレコード会社や舞台監督やカメラマンとか、アドバイスをくれる人もいて。そこで「この人は大事にしよう」とか「長く頑張ってくれたけど、ちょっと違うのかな」とか、見極めができるようになったかもしれない。その見極めも、まず信じてみようというところから入るので、例えばカメラマンなら「この子、いいな」と思ったらまず撮ってもらって、1回良ければ2回目もやってもらう。でも、ダメだなというのが2、3回続いたら、残念だけど……ということもあるかな。だから「この人ちょっと違ったなあ」というのは全然ありますよ。

──一方で、今は年齢やキャリア的にアドバイスをもらうよりも、アドバイスをすることも増えているのではないかと思います。

清春:仲の良い後輩はいろいろ聞いてきますね。でも、僕とはあまりにもパターンが異なる場合は素直に「わからない」と言います。特にアーティストって幼い気持ちを持ち続ける人たちなので、思ったようにできなくて悩んだり苦しんだりすることもあるかもしれないけど、残念ながらそれを選んだのは自分なんだよね。もし本気で嫌だったら辞めたほうがいいし、状況を変えないと好きな表現は守られないですよっていう。僕だったら自分でなんとかしなくちゃって思うんですよね。でも、そこで八方塞がりになっている人たちは「もう辞めるか辞めないかだと思いますよ」って言うのかな。「もういいじゃん、十分頑張ったじゃん」って(笑)。音楽を辞めて普通の人になるか、新しいことをやるか、あるいはその会社のマネージャーになるのか。本当に仲の良い子たちだったら、そこまで言ってあげますよ。続けることはもう美徳とされない時代ですしね。

 僕らの世代はラッキーだったと思うんです。リリースのときは必ず音楽雑誌の表紙にしてもらえて、テレビにも出られて市民権を得られた。でも、そういう人たちは本当に何組かしかいなくて。僕らはL'Arc~en~CielやGLAYと同じ年にデビューしているんですけど、そのひとつ下の世代になるともう厳しくて、ライブに人は入ったとしても市民権は同じようには得られなくなっている。売上枚数があって、動員があって、ライブ会場のキャパシティがデカくても、僕らの頃とは世の人が見る価値が違う。その価値というのは、例えばこの人の写真をどこかで使いたいというときに、いくら払ってもいいという価値なので、チケット代の金額や集客じゃないんですよ。もちろん、若い頃は集客の価値もあるんですけど、長くやってる後輩が困っているときってだいたい両方が無い場合が多い。そういうときは、はっきり「嫌なら辞めたほうがいい」と言います。「こういう方法もあるけど、たぶんこれだけだと大した変化はないから」とも言う。そうすると、「清春さんたちはどうやられているんですか?」って聞かれるけど、周りが思っているほど対策もないし、事務所も2人だけ、外で動いている人はいますけど、いつも不安ですよっていう。ただ、清春っていう響きを信じるしかないよねと。

──今のお話は音楽業界に限らず、普通に社会に出て仕事をしている人たち全般に共通するものがあると思いました。

清春:よく「お金はあとからついてくる」って言われるじゃないですか。でも、今はこういう時代なので、お金のことはいちいち気にしたほうがいいと思うんです。だけど、名前はやり方次第であとからついてくると思う。時代が変わってツールが変わって、テレビからYouTubeに変わった、雑誌からネットの記事に変わったとしても、そこに載る人は変わらない。僕らみたいな素材は変わっていないわけなので、ツールが変わったからといって世に出やすいみたいな安心をしてはダメなんですよね。テレビからYouTubeメインに変わったところで、歌やプレイは変わらないわけなので、何も便利にはなっていないと思うんですよ。

 僕が高校生の頃に岐阜から名古屋まで行って、欲しかったインディーズのアルバムを買えたという喜びに値するものって、今の音楽にあるのかな。憧れとか到達できたという一つひとつの経験が、昔と今とでは意味の違うものになっているような気がしていて。欲しい音楽もYouTubeで探せば聴けちゃうし、YouTubeで普通に見れることは情熱につながるのかなって、僕みたいな古い世代にはちょっとわからないんですよ。ただ、ひとつ言えるのは「お金を稼げて、やっとこの肉を食べられた」とか「欲しい洋服をやっと買えた」とか、まだそこには楽しみが残っているのかなという気がします。それが今の音楽にはない経験なので、カッコよくなれないんじゃないか、研ぎ澄まされないんじゃないかなって思ったりもするけど、若い子たちにはそれなりに違った研ぎ澄まし方があるんですかね。

 「何も便利にはなっていない」という話に戻りますけど、結局は黒電話でもスマホでも話している内容は同じじゃないですか。LINEとかインスタとかTwitterとか、コミュニケーションの手段は増えたけど、1対1での対話はひとつなので、何も変わっていない中で人間的な魅力のある、強い人だけが最終的には残ると、僕はまだ信じています。

■書籍情報
『清春自叙伝 清春』
¥ 2,750 (本体 2,500+税)
10月30日(金)発売
四六判 224ページ
978-4-401-64799-6

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