ジョン・レノンと現代のミュージシャンを結ぶものとは? 孤独、愛、怒り…新ベスト盤に収められた2020年にこそ必要なメッセージ

ジョン・レノンと現代のミュージシャンを結ぶもの

今も変わらない、差別や暴走する権力への怒りと抵抗

 2020年5月、ジョージ・フロイド氏が警官に殺害された事件への怒りによって再燃した人種差別問題。Black Lives Matterというスローガンを掲げるこのムーブメントは、今なお世界で人種差別が存在していることへの怒りであり、ビリー・アイリッシュ、ビヨンセ、レディー・ガガ、ダベイビーなど多くのミュージシャンはこのムーブメントと共振し、メッセージを発信したり、その想いを込めた楽曲を制作することで、人種差別へ反抗するよう訴えかけている。長期にわたって米ビルボードチャート1位を独占し、今年を代表するヒット曲の一つとなったダベイビーの「ROCKSTAR」にも、このムーブメントに共振したバージョンが作られている。

DaBaby - ROCKSTAR (Live From The BET Awards/2020) ft. Roddy Ricch

 話は遡って1970年、フェミニストであり黒人解放運動団体であるブラックパンサー党の党員でもあった活動家のアンジェラ・デイヴィスが、裁判所の襲撃に使用された武器を用意したという嫌疑で逮捕され、刑務所で一年間過ごすことを余儀なくされる。のちに無罪を勝ち取るのだが、ジョン・レノンは1971年に「アンジェラ」という楽曲で、彼女へのメッセージを送ると同時に、解放を訴えかけていた。

Angela (Remastered 2010)

 この楽曲からは、明らかに前述の現代のミュージシャンたちへと繋がると同時に、Black Lives Matterの時代においても変わらずに、人種差別反対へのメッセージを感じ取ることが出来る。だが、この曲が約50年前の楽曲であることを踏まえると、別の感情が湧いてくる。それは、「結局、今も同じではないか」という怒りだ。50年前の楽曲に込められた人種差別反対のメッセージが、今もなおリアルなものとなって届く。だからこそ今、この曲を聴くことに強い意味があると感じている。

 若い世代が抱く怒りはこれだけではない。気候変動問題をまるで虚言であるかのように扱い放置し、人種差別問題を放置するどころか加速させ、ジェンダー差別問題についても理解を示さず、フェイクニュースで埋め尽くす世界。その一方で一部の人たちを優遇して、自分たちの未来なんて見てくれない保守的な政治家達に対しては、強い不信感を抱いている。

 現代を代表するロックバンドであるThe 1975もその一組であり、ブレグジットも経験した彼らは、今年リリースしたアルバム『Notes on a Conditional Form』において、グレタ・トゥーンベリの気候変動問題への演説を収録した「The 1975」では〈It is time to rebel.(今こそ反逆の時)〉と締め、続く「People」で若い世代を痛めつける連中を痛烈に批判した。

The 1975 - People

 そして状況こそ違えど、やはりこの怒りも50年前から変わらないものだった。タイトル自体がもはやスローガンとも言える、「真実が欲しい」において、一拍一拍を力強く打ち鳴らす重いビートが牽引するトラックの中で、ジョン・レノンは保守的な権力者をありったけの言葉で批判しながら、「いいから真実を教えろ」と訴える。今や何が真実で何が嘘なのか、誰もが混乱しながら互いを罵倒している現代において、これほど有効で突き刺さるメッセージもないだろう。「People」に深く共感を覚えながら怒りを抱く自分にとっても、この曲はひときわリアルに感じることが出来た。

GIMME SOME TRUTH. ULTIMATE MIX. LYRIC VIDEO

 ジョン・レノンの音楽は、今の自分にとっても、普遍的かつリアルなものに感じた。だが、今回最も強く感じたのは、「(各楽曲のリリースから)ずいぶんと経ってるというのに、何も変わっていない」という、現状への怒りと悲しみである。今聴いても、ジョンの有効かつ刺激的なメッセージの数々に打ちのめされてしまった。

 そもそも、今回のベストアルバムに付けられたタイトル『ギミ・サム・トゥルース.』という言葉こそ、現代を生きる上で数え切れないほど実感するものだ。実は、10年前にリリースされた生誕70周年を記念するボックスセットにも同じタイトルが用いられているのだが、様々なタイトル候補がある中で、改めて同じ言葉が使われるということは、やはり「何も変わっていない」ということなのかもしれない。

 『ギミ・サム・トゥルース.』は、単なるノスタルジアの消費ではなく、「今、2020年に必要なメッセージが込められている」ことを示す作品であり、それは現代に活躍する様々なミュージシャンと通じ、共振するものである。いつか、そのメッセージが今度こそ古く感じられる日が来ることを待ち望み、行動を続けながら、本作に収められた楽曲と改めて向き合っていきたい。

合わせて読みたい

・ジョン・レノンから現代を生きる人々へーー価値観の転換期である今、『ギミ・サム・トゥルース.』が示す指針
・ジョン・レノンの音楽は、なぜ日本のアーティストたちに歌われるのか? 言葉を超えて伝わる純粋なまでのメッセージ性

■ノイ村
普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
note
Twitter : @neu_mura

■リリース情報
ジョン・レノン生誕80周年記念
ニュー・ベスト・アルバム『ギミ・サム・トゥルース.』
ご試聴はこちら

■展覧会情報
『DOUBLE FANTASY -John & Yoko(ダブル・ファンタジー ­ジョン&ヨーコ)』
会期:2020年10月9日(金)〜2021年1月11日(月・祝)
休館日:2020年12月31日(木)/ 2021年1月1日(金)
場所:ソニーミュージック六本木ミュージアム(東京都港区六本木 5-6-20)
主催:株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント / 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
チケットに詳細はこちら
オフィシャルサイト

ジョン・レノン
劇場上映版『イマジン』(©2018 YOKO ONO LENNON All Rights Reserved)

■映画情報
ジョン・レノン生誕80周年記念上映
劇場上映版『イマジン』

<10月8日(木)前夜祭ドルビーアトモス限定上映>
TOHOシネマズ(日比谷、六本木、日本橋,ららぽーと富士見、ららぽーと船橋、赤池、梅田)

<10月9日(金)より生誕80周年記念上映>
TOHOシネマズ日比谷他、全国順次公開ドルビーアトモス上映

出演:ジョン・レノン、オノ・ヨーコ、ジョージ・ハリスン他
監督・制作:ジョン・レノン、オノ・ヨーコ
2018年(オリジナル1972年)/イギリス/86分
配給:Eastworld Entertainment / カルチャヴィル

©2018 YOKO ONO LENNON All Rights Reserved

劇場上映版『イマジン』公式サイト

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