大森靖子に聞く、“結婚”にまつわる自身の生き方とスタンス 「同じ理想を向いていたら絶対にぶつかることはない」
いつも最新が一番良い状態
ーーそして今回は、「KEKKON」ということで、大森さんが考える幸せな休日の過ごし方についても聞いてみようという流れです。
大森:こう見えて緑とか見るの割りと好きで。住みたいとはまったく思わないけど、たまにマイナスイオンを吸いに行くみたいなのはけっこうしたい。本当は旅行とかしたいけど。1日と午前中だけ空いていたら宿を取って、その旅先でMV撮影を入れちゃったり、仕事しちゃうタイプ。あんまり行ったことないところを調べて行って、歴史的な建造物や神社仏閣を写真に撮っておいて、いつかグッズや衣装のデザインにいかそうとか、曲を作ったり。結局、仕事のことばかり考えちゃうから休日感はないね。
ーー緑が好き、っていうのは意外ですね。
大森:東京って桜の木がわざとらしく植えられているな、って。すごい仰々しい感じじゃないですか。それこそ二次元っぽくてあんまりグッと来ない。
ーーあと、大森さんが好きな結婚ソングってなんですか?
大森:なんだろうね、Sugarの「ウエディング・ベル」はカバーしてますけど。
ーーモーニング娘。の「ハッピーサマーウェディング」はどうです?
大森:あれは結婚というかただの祭りですよね(笑)。結婚式楽しいな、みたいな。基本あの世代のモー娘。はただの祭りなので、だからいい。
ーー他にはどうでしょう?
大森:世代的にはやっぱり安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE?」なんですけどね。この曲が出た時、もうちょっと速い曲が出るかと思った。「このテンポで売れるのかな?」って思ったけど、バチクソ売れとるやんけ(笑)。
ーーあはは。ちなみに「CAN YOU CELEBRATE?」からの影響はあります? 全くなさそうだけど。
大森:ない(笑)。漫画だけど、安野モヨコの『ハッピー・マニア』は唯一結婚の作品で理解できる。
ーーあの安野モヨコ的な勢いが?
大森:うん。結婚式で一番仕上げる、というのが嫌で。自分はその人のためにお姫様であるわけじゃない。別に、王子様がいようがいなかろうがお姫様じゃないですか。なんで結婚式って、体を仕上げて純白のドレスを着て一番美しくいなきゃいけない、みたいな考え方なんだろう。「かわいくなって結婚式したいな」は理解できるけど、他にもっと美しくあるべきステージが人生にはいっぱいあるだろ、って。
ーー「KEKKON」が、ずっとライブのみで披露されていたことにかけて、大森さんが選ぶ自身のこれまでの忘れられないライブやパフォーマンスも教えてください。
大森:いつも最新が一番良い状態。単純に最近のことしか覚えていないのかも(笑)。でも、2013年のTIF(『TOKYO IDOL FESTIVAL』)とかけっこう覚えてる。あそこまでアウェーな場所に出ることもそうそうない。
ーーアウェーな場所で、一番かっさらい甲斐があったのは何でした?
大森:それこそやっぱり『夏の魔物』(2014年7月21日)。「このフェス、全部燃やし尽くしてやる」ぐらいに気合いはすごく入っていた。やっぱりステージに立つ時は、自分が一番最高であるべきで、「全員潰す」は思っていなきゃダメだから。でも、やっぱり最新のライブが一番いいな。
ーー「全員潰す」という姿勢だと、「世界に一つだけの花」的な価値観と争わなきゃいけない(笑)。
大森:そうそう。だって、一つだけだからこそ他はいらないんだもん(笑)。「誰でもいいの?」って。何の音楽でもいいなら、私じゃなくてもいいし。別にみんながそれぞれやってくれることは構わないけど、私の時間は私が一番。そんなの当たり前じゃないですか。「他のアーティストには心が動かなかったけど、なんか大森靖子だけは響いたな」って人が、絶対にいるはずと思ってやっているから。人に響かないと何の意味もない。何人かっさらえたかって、試合みたいな感覚はどうしてもある。
ーー9月18日の誕生日の後には、「姫のまま子育ても仕事も全部してやるんや」とInstagramに書いていましたね。
大森:「いろんなやり方があるよ」って提示したいだけかな。お姫様思考と、女性の性構造とか、それこそフェミニズムとか、一致してないのがおかしくて。自分が一番崇高であるからこそ、自分の生き様を描く、男女関係なく。それって普通のこと。私は今気持ちがお姫様モードで、当たり前のことをしているだけなのに「年いって浮いててかわいくもないのになんでアイドルやってるの?」って言われる。そういう人たちはそういう価値観で生きてるからしょうがないけど、なんてさみしいことなんだろう。自分は、アイドルとか自己顕示欲とかではなくて、自分の曲が一番大事。自分でプロデュースして新しく世界を切り開いていく、というところにすごく価値を持ってやっているけど、分かってもらえない。でも、古い価値基準が若い人の中で当たり前のようにまだあるし、むしろ外見至上主義みたいな感じで悪化している。
ーー「かわいい」の年齢的な限界って考えますか?
大森:ない。人間はかわいくなり続ける生き物だから、女子も男子も。経験値が増えるんだから。おばあちゃんじゃないと大きい宝石は似合わないし。
ーーそういう価値観の違いって、衝突が起きるじゃないですか。しんどくないですか?
大森:私が居座り続けて、人間は年を取っても美しくなり続けることを思い知らせてやる、って思っています。
ーー地雷メイクや量産型メイクについて、揶揄する風潮はどう思いますか?
大森:でも、そういうの、前もあったでしょ? 「森ガール」とか「スイーツ(笑)」とか。最近「量産みたいな服が欲しいんだよね」って会話を聞いて、量産って自分が求めるものなんだ、って。逆に前の方がもっと分断されていたかな、お互いのカルチャーを馬鹿にしあうみたいな(笑)。結局どっちもどっちってお互い分かっている。
ーーメインストリームのアイドルが歌う「かわいさ」って、古いというか、ジェンダーロールの中に押し込められている印象もあります。9月18日の『大森靖子生誕祭2020』で歌われた「絶対彼女」を聴いた時に、古い「かわいさ」へのカウンターとして「絶対彼女」は今も機能しているな、『絶対少女』がリリースされた2013年から大森さんの本質的な部分は変わってないな、って感じたんです。
大森:それを聞いて、自分の生きづらさを表現し始めるのが早かったんだな、って思った。当時は多様性とか言ってる人もいなかったし。今はそういうことを言ったら「許せない軍」も集まるし、その事柄に寄り添ってくれたりする。その流れがなかったな、って。
ーーダイバーシティが叫ばれるようにもなって、大森さんの表現するメッセージは今、理解されやすくなったと思います?
大森:本質的には、ちょっと。「そういうのを理解している自分」とか「LGBTとか俺そういうの大丈夫なんだよね」みたいなのは感じる(笑)。それって本当に理解なのかな?
ーー大森さんが望むような状況にはなっていない?
大森:全員変じゃないですか、だから面白い、っていう風にしていければいいのに、どこか他人事。「自分は違う。自分は普通だけど、そういうのがあるのも、まぁ分かる」みたいな距離を感じちゃう。その距離って埋まるのかな? コロナ禍で政治のことを話す人がけっこういたけど、違う党を応援している人がいても、「あなたはそうなんだね。私はこうだけど。違う意見だね」でいいのに、「お前は消えろ」「こんな奴がいるから平和じゃないんだ」とか死ぬほどぶつかってる。
ーーそうなると、今後の大森さんは、社会の成熟を待つ?
大森:自分にできることは音楽しかないから、政治、教育、テレビができないことを、こっちがやってあげますけど、っていうノリで頑張りたいとは思っている。エンタメ、カルチャーがさすがにここまで馬鹿にされたから。でも、やっぱり日本ってロールモデルとなる人物像がいて、そこに投影するという形が一番流行りやすいからな。人じゃなくて曲でそれができればいいのに。実像を崇拝するだけの器が育てばいいですけどね、国民に。
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■リリース情報
「KEKKON」
9月30日(水)デジタルリリース