大森靖子が語る、“考える”ことの重要性 新曲「シンガーソングライター」に込められた真意

大森靖子が語る、“考える”重要性

 〈お前に刺さる歌なんかは / 絶対かきたくないんだ〉。そんな歌詞に驚かされたのが、大森靖子の新曲「シンガーソングライター」だ。〈STOP THE MUSIC〉と繰り返し歌う真意は何なのか? 5月に大森靖子がリアルサウンドに「『コロナ以降』のカルチャーに望む、価値観のアップデート」を寄稿してから約2カ月。今、彼女が目指すアップデートについて聞いた。(宗像明将)

新しいことをしないで、同じものを作り続けて死んでいくのだけは御免

ーー新型コロナは人と人の直接的な接触、ひいてはコミュニケーションを阻みます。ファンと触れあってきた大森さんにとって、大きな変化を余儀なくされたのではないでしょうか?

大森靖子(以下、大森):うーん、もともとそこまでエンタメ性の高い活動をしてこなかったというか。「友達の輪を広げよう」みたいなコミュニケーションではなくて、「一番言えない部分を晒しあおう」みたいなコミュニケーションをしてきたので。緊急事態宣言の前までネットをやめていたんですけど、逆に始めて、見てる人を誰も疎外しない関係性を作っていきたいなって。ライブミュージシャンなので、どんなに日常で嫌なことがあっても、それがライブをやるエネルギーになっていたけど、それができなくなったので、自分の生きるリズムとしてやりづらさはあります。

ーー大森さんのTwitterに来るDMの内容に変化はありましたか?

大森:いや、変わらないですよ。ネガティブな話でも基本的にみんな語り口が明るい。私の曲は何があっても語り口を明るくしようとしていて。現実から逃げずに、向きあったうえで生きることを前提に話すのが大事だと思っていて。それをみんなもやっているので、大変そうな人も「大変な俺ウケる」みたいな感じで。自分のファンの人はちゃんとマナーを守っているから、私もまったく病まない。「お互いがんばろう」みたいな、会社の飲み会みたいなノリでやっていける(笑)。

ーー大森さんがリアルサウンドに寄稿した「『コロナ以降』のカルチャーに望む、価値観のアップデート」(5月23日公開)で書いていた「価値観のアップデート」とは、改めて言うとどんなことでしょう?

大森:状況によってできることがかなり変わっていくから、アップデートし続けないといけないよ、って。状況を見て考えて、手を打ち続けることをやめてはいけないと言いたくて。「これはできない」で終わっちゃったらダメじゃないですか、文化だから。そもそも社会に適合していないからやっているわけで、私は「補償しろ」とか言ってる場合じゃない。社会に組みこまれていい人間の自覚がないから、こっちはこっちでやらせてもらって、ひとりひとりに対してできることをアプローチしていく。そこでガタガタ言ってらんない、というのが自分の立ち位置で。

ーー「価値観のアップデート」を、現在まで大森さん自身はどう実践しましたか?

大森:30歳を過ぎて新しいことをしないで、同じものを作り続けて死んでいくのだけは御免で。つんく♂さんって、モーニング娘。をやり始めたのは29歳ぐらいなんですよ。あの頃のJ-POPって、リズム歌唱的なものが日本にちゃんと入ってきていて、桑田(佳祐)さんとか宇多田(ヒカル)さんみたいな、誰にも真似できないクリエイターはやっていたけど、教えることは誰もしていないなかで、つんく♂さんがそれを早くやった。それによってリズムが取れる日本人ボーカルが増えていったところがあると思う。それを見ていると、自分がやってきたこともそんなに小さいことではないという自信があるから、それをもっと教えていけたらと動いていて。それと自分がステージに立つことを絶対に両立させたい。


ーー大森さんが若い子たちに教えているものとは何ですか?

大森:物事をとらえる本質。なかなか伝わらない、難しい。全部文章に書いてるのに「説明しろ」って言われるのは、決定的なコミュ力の欠落ですよね。私はコミュ力はなかったと思ってたんだけど、たぶんあったんだろうな。漢文だって、がんばって一字一字読みとけば、歴史上の人物が何を言っていたかわかる。私の文章だって、なぜその接続詞や単語を選んだのか、一個一個解読していけばそこに真実はすべてある。一単語しか読まずに「真実を言ってください」って言われても、「いや書いてるし」って。

ーー「『コロナ以降』のカルチャーに望む、価値観のアップデート」については何か聞かれましたか?

大森:聞かれていないです。スクショの切り抜きはリツイートをガンガンされるけど、記事は読まれない。

ーーあの記事の終盤で「現状では何も変わらないと思います」と書いていましたが、フランスのミシェル・ウエルベックという作家が「私たちは閉じこめられた後、新しい世界で目覚めるのではない。世界は同じだし、少し悪い世界だ」というようなことを書いていたのを思いだしました。大森さんから見て、世界は変わりましたか?

大森:変わらないと思う。だって、誰かが死んで何かに気づいても、一週間で元に戻ったし。震災のときも、「変わっていこうね」ってあんなに言っていた人たちが一番元に戻っている。もう何も変わってないじゃん、って。

ーーこのタイミングで一番変わってほしかったものって、大森さん的には何だったんですか?

大森:人が生きているいびつさと向きあって、ちゃんと認めあうこと。「自分は何も悪いことをしていない」と思ったって、絶対に誰かを嫌な気持ちにさせている。生きるなかでそれが一度もない人間は絶対にいない。だからこそ気遣いとか配慮を身につけて大人になっていくんですけど、加虐性が前提にないとそれすらできない。人間じゃないものみたいになることを理想として社会で生きていこうとすることって、すごい虚無だなと思っちゃう。そこから何も生まれないし、つまらない。コロナだって、自分がうつして人の命を落とさせるかもしれない。でも、そんなのはウイルスに限らない。それでも人と関わる意味、外に出なきゃいけない意味と向きあって、今までも踏みだしていたはずなのに。

ーー自粛期間にスタートした「おやすみ弾語り」は100回を数えました。最後は新曲の「シンガーソングライター」でしたが、メタ的なタイトルになったのはなぜでしょうか?

大森:シンガーソングライターって、「何かっこつけてんだよ」みたいなのがあるじゃないですか、「ハイパーメディアクリエイター」みたいな(笑)。たとえば営業マンは、ちゃんと目を見て話して、お互い準備してきたものを交わして、言葉にならないことだったら一生懸命考えるのが普通。それなのに、顔を隠して雰囲気を醸しだして、雰囲気芸でえぐるのとか、「なんなんだよ」って思っちゃう(笑)。「刺さる」とか、そんな誰にでも刺されたらグッチャグチャに刺されて死んじまうぞ、って。刺すのなんか簡単で、「刺したら売れるから刺してんだろ」ってちょっと思っちゃうところがあって。

ーーでも、「大森さんの歌詞が刺さってるのに、私?」というファンもいると思うんですよね。

大森:なんで刺さってるのかを考えてほしい。そうすると自分と向きあえる。「好き」とか「嫌い」とか「アンチ」とか「神」とか、みんな自分の話しかしていないのに、誰かの話をしているふりをして、それを「共感」で結びつける。たとえば、ここで私が誰かを「嫌いだ」って言っても、「そいつがめちゃくちゃいい奴で、私のことをめちゃくちゃ好きでも、私は嫌いなんだ」という私の話なんですよ。結局それで傷つくのって自分なんですよ。「なんでこいつを好きになれないんだ」というのは、「こういう自分を変えられないんだ」という生きづらさを背負っていることだから、自分の話であって。だから「神様」って思っているのも、自分自身だよって。「大森靖子が神」と思うなら、その歌詞を読みとけば、そこが自分自身の神秘的な部分であり、捨てちゃいけない部分なんです。私は全員が持ちうる感情しか歌っていないから、「神」と思うなら、そう感じる自分を大事にすればいいじゃん、という話をしているだけで。

ーーそうなると、「シンガーソングライター」の〈お前に刺さる歌なんかは / 絶対かきたくないんだ〉という歌詞はどういう経緯で生まれてきたのでしょうか?

大森:ZOCを始めてから、「裏切られました」みたいなことをめちゃくちゃ言われていたんですよ。その人の「大森靖子像」みたいなものがあって、「若い子と一緒にルッキズムを振りかざしてる」みたいに見えちゃったんでしょうね。私の曲は、毎回違う視点で同じ真意を言っているから、自分の好きな視点を曲として受けとってもらえれば、それで良くて。その仕組みを伝えないのがシンガーソングライターの役割みたいになっちゃっているから、「そうじゃないよね、作品だよね」って。

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