『Room404』インタビュー

XY GENE×Gokou Kuyt対談 Z世代の二人が語り合う、共通する感性と異なる視点

 今年2月発売の1stアルバム『Daydreaming』が、Apple MusicのR&B/ソウルチャートでトップ10にランクインするなど、注目度上昇中のシンガー・XY GENEが、前作からわずか5カ月で新作EP『Room404』をリリースした。ファンク調の曲からチルなナンバーまでをコンパクトにまとめた今作は、前作以上に踊れて歌える彼の魅力を濃縮パック。楽曲のテンポはさまざまだが、どの曲でも踊るXY GENEの姿が浮かび上がってくる。今回のインタビューでは、その中でもポップでキラキラした質感が印象的な「ALL AROUND ME」にフィーチャリングされたGokou Kuytとの対談が実現した。XY GENEは19歳、Gokou Kuytは23歳。Z世代の二人はどのようなイメージから今回の楽曲を作り、今、どんなモノにハマっているのか。互いに好きなK-POP/K-HIPHOPの話題から、それぞれの理想のRoomまで、二人の趣味嗜好を紐解いてみた。(猪又孝)【ページ最後にプレゼント情報あり】

XY GENEとGokou Kuyt、それぞれの表現に感じるアイデンティティ

XY GENE

ーー今回のEP『Room404』はどのような作品をめざしたんですか?

XY GENE:今回は、404という不吉に感じる数字の部屋に自分がみんなを招待するっていうコンセプトで作ったんです。楽曲は今回も踊れる曲を意識しながら、前回よりもいろんなジャンルを採り入れました。タイトル曲はファンクな感じですけど、ヒップホップぽいトラックもあるし、メロウな曲もあるし、テンポ感も遅めから早めまで、キュッとまとめた感じのEPに仕上げたかったんです。

ーー404という数字は実在するモノから取ったんですか?

XY GENE:パッとひらめいたんです。ちょっと目を引く数字にしたくて404にしました。

ーー不吉に感じるような数字をタイトルにした背景には、怖いもの見たさ、みたいな好奇心をくすぐるような作品にしたかった思いもあるんですか?

XY GENE:そうなんです。マイケル・ジャクソンの「Smooth Criminal」のMVからインスピレーションが湧いて。最初に部屋に入ったときはアウェイな状態なんですけど、自分がそこで音楽をかけたら、みんな味方になっていく、みたいなことをやりたくて。

XY GENE - Room404【Official Music Video】

ーーゲストのラインナップはどのように考えたんですか?

XY GENE:今回は、一緒に曲を作ったときに着地点のイメージがつかめない方とやったら、どういう化学反応が起きるかな? って考えたんです。Gokouくんは、メロディックな曲のスタイルは自分と似てるんですけど、言葉選びはまったく違うから、それが合わさったらどうなるかな? って。week dudusくんはゴリゴリのラップっていうイメージなんですけど、それも自分と合わさったらどうなるかな? っていう。前作『Daydreaming』のときは仕上がりが想像できる人とか、こうなるだろうなっていうのを見越して選んだんですけど、今回は逆に冒険してみようと思ったんです。

ーーGokouさんが参加した「ALL AROUND ME」は、どのように制作が始まったんですか?

XY GENE:イベントで一緒になる機会が何回かあって。曲をいつかやりたいねって話してたんです。

Gokou Kuyt:いろんなイベントで会っていたんですけど、「今度、曲やりましょう」ってSNSのDMで改まって連絡してきてくれたんです。ただ、俺はいろんな人とバンバン作っていく感じじゃないから、最初のコンタクトのときは「じゃ、今度やろうか」みたいな感じで先延ばしというか、具体的な話まではしなかったんです。そのあと、Billy Laurentが中目黒のsolfaでやったイベント(今年2月20日開催『Children Story』)で、ゲストライブが俺とGENEだったんです。そのときに二人で話して本格的にやろうという話になりました。

ーー曲の骨組みはどうやって作ったんですか?

Gokou Kuyt:今回はGENEがある程度のモノを作って、あとは俺がラップを乗せるだけっていう方法でやりたいですって、GENEが提案してくれました。

XY GENE:Gokouくんとやるなら、お互いの守備範囲の真ん中でやりたいと思って。だったら俺がある程度カタチにして、ここにGokouくんが乗ったらどうなるか? っていうやり方でお願いしますと。

ーートラックを作ったplantplantworldは、どういう人物なんですか?

XY GENE:韓国のトラックメイカーです。Gokouくんは「iffy」(SiK-K、pH-1 & Jay Park)のRemixをやってるから、コリアンヒップホップのカルチャーの影響を受けてるだろうなと思ったし、自分も韓国に住んでいたことがあるからすごく影響を受けていて。そういうコリアンヒップホップのType Beatの中から選んだんです。

ーーリリックのテーマはどのように決めたんですか?

XY GENE:リリックも僕が自分のパートを全部作って歌ってからGokouに渡しました。今回の曲はラブソングで、フックで〈Pretty girls all around me〉と歌っていて。モテモテっぽい感じだけど、実はそうじゃなくて、いろんな女の子がいたとしてもやっぱり君だけだよ、みたいな。モテ男っぽい感じでチャラチャラしてるけど純粋みたいな主人公が書きたくて。でも、GokouくんはGokouくんなりに書いてみてくださいって伝えたんです。

XY GENE - ALL AROUND ME Feat. Gokou Kuyt 【Lyric Video】

Gokou Kuyt:自由にやってくださいっていう感じで曲が送られて来て。歌詞の英語のところはあんまりわからなかったから、その〈Pretty girls all around me〉っていうところのニュアンスだけ汲み取って書こうと思ったんです。だけど、俺はそんなモテるタイプではないから、どう書こうと悩んで。そのときに、自分は何も成し遂げてないんだけど、他人の曲を聴いて自分がかっこよくなった気になることってあるじゃないですか。今回はそんな感じで書こうかなと思いついて。俺はダンスはできないけど、GENEの曲はダンスをやってるからこそのグルーヴ感がある。自分もそういう人になったイメージで書いてみようと。だから俺の歌詞は、モテないけどかっこつけてるっていう感じなんです。金はないのにタクシーで移動してるとか。ちょっと背伸びしてて、でもダサいみたいな。そういう世界観で書きました。

ーースウィートなモノの例えがクレープだから庶民的ですしね(笑)。

Gokou Kuyt:そう。

ーーでも、このクレープというワードが効いていると思ったんです。このワードがキラキラしてて可愛らしい曲の雰囲気をさらに愛らしいものにしているなって。この言葉はすぐひらめいたんですか?

Gokou Kuyt:俺は街中とかを歩いていて、使えそうだなっていう言葉をメモしておくんです。で、曲を作るときは、まずフリースタイルでメロディだけ歌ってみて、そこからテーマと合う言葉を自分のメモから探してみるんです。たぶん今回もそこで「南口のクレープ屋」っていうのを見つけたんだと思います。

ーーGENEさんの楽曲はフィーリングを言葉にしていく歌詞が多いですが、そこに今回は、高円寺とかクレープとか固有名詞が出てくるから曲の風景もくっきり見えてくるんですよね。

XY GENE:もともとGokouくんのちゃんと物事を言っていく歌詞が好きだったんです。そういうリリックスタイルと自分の歌詞を合わせたいなと思っていて。今回もGokouくんのしっかりした言葉が入って、輪郭がくっきりして良かったです。

ーーあと、Gokouさんのリリックで、GENEくんの楽曲「Can't take back (feat. Lazzy , Kohjiya from MADz's)」から、〈Take back昨日みたいに〉というフレーズを引用しているところも遊び心がある。

XY GENE - Can’t take back (feat. Lazzy , Kohjiya from MADz’s) Official Music Video

Gokou Kuyt:あの曲はすげえ好きだったんです。語呂的にもすごくマッチしたし、入れたら面白いかなと思ったんですよね。

Gokou Kuyt

ーーそもそも2人の出会いは、いつなんですか?

XY GENE:Gokouくんは自分と同じ中学だったONLY Uと曲を作っていて。あとGokouくんのバックDJをやっているHIGH-TONEくんともいろんな場所で会っていたので、そういう繋がりからGokouくんの存在は知っていきました。ただ、ちゃんと話したのはさっき言った2月のイベントなんです。

Gokou Kuyt:うん。1対1で話したのはそのときが初めて。

ーーそのときにどんな話をしたか覚えていますか?

XY GENE:Gokouくんはトラックダウンのミキシングとかプラグインにめちゃくちゃ詳しいと聞いていて。1対1で話したときもそういう話ばっかりしてました。今、自分はミキシングを他の人にやってもらってるんですけど、自分でも上手くなりたいから勉強していて。自分も機材オタクな方ですけど、Gokouくんのミックスに関する知識量はすごいなってリスペクトしてます。

Gokou Kuyt:俺もそういう話をするのが好きだから楽しかったです。GENEは自分でトラックを作るし、ONLY Uをはじめ、いろんな人にビートをあげてるから、むしろ俺より音作りに関してすごいはずだと思っていました。俺も自分でトラックを作るんですけど、リリースしたのは一曲しかないから。だから、俺もそのときにいろいろ音作りについてGENEに質問してたんです。

ーーお互いの表現スタイルについては、どう思ってますか?

XY GENE:Gokouくんはモテない、お金ないっていうことをスパンと言うんです。それを言ってもちゃんとかっこいい曲になってて、そのギャップがいいなと。ラッパーって、俺はお金を持ってるぜ、ダイヤモンドのチェーンしてるぜみたいなことを言いがちですけど、Gokouくんはそっちじゃない。そこにアイデンティティを感じるし、好きなところです。

Gokou Kuyt - POP SWEET BITTER

Gokou Kuyt:俺になくてGENEにあるものはリズム感なんですよ。フックの作り方が全然違うと思っていて。今回一緒にやってみても「こんな感じで作ってくるんだ」って。このビートであの語感のメロディを作るのは自分には絶対無理だなって。ヒップホップのトラックにはいろんなパターンがあるけど、「やっぱりこのパターンでラップを乗せてきたか」っていうのが正直あるじゃないですか。

ーー型にはまったフロウというか。

Gokou Kuyt:そういうのがGENEにはないんですよ。今の20歳くらいのラッパーはみんなカッコイイんだけど、影響を受けた元ネタがモロ見えの人が多い。だけど、GENEにはそれをあまり感じない。もちろん何かから影響を受けてるんだろうけど、それをちゃんと噛み砕いてやってて、オリジナリティを感じるんですよね。

ーー二人で話してみて、「ここは相手と違うな」と思った部分はありますか?

XY GENE:Gokouくんはのめり込み度がすごいんだろうなと思います。ミキシングって自分と向き合わなきゃならない作業じゃないですか。友達と遊んでいて気付くモノというよりは自分の耳と闘うものだし、それができるのがすごいなって。たとえばONLY Uは“ラッパー”っていう感じだから一緒に遊んでいるときにインスピレーションを受けるみたいですけど、Gokouくんは人と遊んでる印象がなくて。

ーー一匹狼的な印象がある?

XY GENE:そうなんです。ラッパーはクルーでいたり、どのイベントに行っても自分の周りの人間がいるっていう人が多いですけど、Gokouくんは以前もスッとひとりでイベントに来たりとか、あるイベントではPAの勉強をするためにPAの方の隣に座っていたりして、めっちゃ勉強熱心だなって。

Gokou Kuyt:反対にGENEは気さくで、誰にも愛されるところがあるから羨ましいです。

XY GENE:俺はいじられキャラだから(笑)。それでみんなと話せてるっていうところもあるけど。

Gokou Kuyt:俺も別にひとりでいたくているわけじゃないから(笑)。でも、そういうふうになかなかなれないから。

ーー人見知りなんですか?

Gokou Kuyt:だいぶ人見知りです。知り合いに以前、お前は他人に興味がないんだよって言われたことがあって。自分にしか興味がないから、初めて会った人に話せないんだって言われて「確かにな。あまり興味なかったわ」と思って。それからはなるべく他人に興味を持つようにして。初めての人に会ったときとか、何を質問しようってめっちゃ考えるんです。けど、それで疲れてる(笑)。

ーー反対に、興味がある人の場合はどんどん喋れる?

Gokou Kuyt:そう。興味がある人とか尊敬してる人の前だと質問も結構できるんです。GENEと初めてちゃんと話したときもミックスとかトラックの話だったから、苦手意識を持たずに話せた。だから、仲良くなる人は、トラックを作ってたり、ミックスを自分でやってたりする人が多い気がします。

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