シングル『WAY OUT』インタビュー
森久保祥太郎が語る、コロナ禍を経て伝えたいメッセージ 「価値観をアップデートして、新たなものをクリエイトしていく」
声優・森久保祥太郎が、ニューシングル『WAY OUT』をリリース。表題曲にはコロナ禍を経て森久保が感じたメッセージが込められており、今の状況を乗り切るには「価値観のアップデートが必要だ」と話す。森久保は、それを早くも実践し、『おれパラPRESENTS ORE!!SUMMER 2020』と11月14日に開催の配信ライブでは、オンラインだからこそのライブ表現を見せてくれるとのこと。森久保はコロナ禍で何を感じ、今何をしようとしているのか。「WAY OUT」を切り口に、胸の内に渦巻くものを語ってもらった。(榑林史章)
人のいない渋谷のスクランブル交差点にゾッとした
ーー「WAY OUT」は、森久保さんらしいラウドなサウンドと切れ味鋭いラップの楽曲です。こういう曲調と歌詞から、コロナ禍における沈んだ気持ちを鼓舞するような強さを感じました。
森久保祥太郎(以下、森久保):でも一番は、自分で自分を鼓舞しているかもしれないです。やっぱり僕自身、得も言われぬ感情があったから。この曲を作ったのが4月〜5月の緊急事態宣言が発出された時期なんですけど、仕事帰りの深夜にたまたま渋谷のスクランブル交差点を通ったら、人が本当に一人もいなくて。
ーーそういった時期もありました。
森久保:夜の渋谷に人がいないなんて、そんな光景は見たことがなかったから、ゾッとしちゃって。まるで異世界に来たような、自分一人だけがこの世界に取り残されたんじゃないかと思うくらい、すごいインパクトで。そこで、いろんな感情が渦巻いて。いつもならシングル内のバリエーションやライブ映えする曲調など、サウンド面からシングル曲を構想していくんですけど、今回はメッセージを伝えたいという気持ちのほうが大きくて。それで、ド派手に「イェイ!」と盛り上がれるアッパーチューンより、ドシッとメッセージを伝えられる曲のほうが良いなと思って。そういう意図を井上日徳さんに伝えて、曲と編曲はお任せして、僕は作詞に集中しました。
ーー作詞の作業はスムーズに進んだんですか?
森久保:それが、こんなことは初めてだったんですけど、レコーディング当日の朝まで1行も書けなくて。いつも遅くとも前日までには書き上がるんですけど、いろんな思いが渦巻いて何を言葉として残すのが正解なのか、まったく分からなくて。今までに体験したことのなかったこの感情を、どう形にすれば良いんだろうって。でも絶対にするべきだと思ったし。それでこの混沌とした感情を、ネタ帳にスケッチするように書いていったんですけど、ぜんぜん分からなくて。一旦寝て、改めてメモを見返したら、「WAY OUT」という言葉が目に飛び込んで来て、「これだ!」と。そこから一気に書けたという感じです。
ーー「WAY OUT」は「出口」という意味で、森久保さん自身の中で、出口や答えを求める気持ちがあったんでしょうか。
森久保:そうだと思います。いろんな要素と感情が渦巻いていたから、どこを切り口にして良いか分からなかったし、それこそ出口が見つからなくて。そういう八方塞がりの状況を冷静に見つめた時に、出口が欲しい、じゃあテーマは出口だなって。今回のシングルはカップリングの「World Line」と「Alright」を含め、僕は1曲も作曲していないんですけど、この3曲で、僕が2020年に抱えた混沌とした思いを表現しました。
ーー「WAY OUT」の1曲だけじゃ、表現したいメッセージが収まり切らなかったということですね。
森久保:そうです。「WAY OUT」は、待っていても出口は見つからないから、自分で自分の出口を見つけろと歌っていて。それは僕にとって何か考えたら、価値観をアップデートすることで。かつてあったものが無くなったことを憂うより、それまであった価値観をアップデートして、新たなものをクリエイトしていくことが、僕にとっての出口だと思いました。一方「World Line」は「世界線」という意味で、これはもう伸るか反るかみたいな内容で。結局それは自らで決断するもので、誰かがお膳立てしてくれるものではない。だから「俺はこっちの世界線に行くけど君はどうする?」みたいなものがテーマになっています。
ーー「WAY OUT」で森久保さんは自分の出口を見つけた。それを「World Line」で、「君はどうするんだ?」と問いかけている。どちらもラウドなサウンドで、ピリピリとした緊張感もあって。でも3曲目の「Alright」は、ミディアムのサウンドで混沌とした雰囲気がありながらも、「大丈夫だ」という意味のタイトルになっていて、そこにホッとさせてくれる安心感もあると思いました。
森久保:最初は、3曲目は自分で曲も書こうと思っていて。1曲目と2曲目がヘヴィなサウンドだから、3曲目はファンクネスでライブ映えする跳ねた曲にしたいと思って。「じゃあそれは僕が書きます!」と言って取りかかったんですけど、「WAY OUT」の作詞とか、いろいろなことと並行しながらやっていたから、気持ちが混沌としてしちゃって、ぜんぜんそういう気分にならなくて。正直、何も楽しい曲が浮かばなくて(苦笑)。結局これも締め切りまでに出来なくて、日徳さんに「Alright」というタイトルも含めてこういう感情を乗せた曲にしたいと、話をして作ってもらったんです。
ーーでも、ここまで制作に苦心したり、伝えたいメッセージが溢れてしまったことは、過去にも経験がありましたか?
森久保:3.11の東日本大震災の時がそうでした。同じ年の11月にシングルを出すことが決まっていて、あの時も世の中的にどうなっちゃうんだろうということになっていたから、どんな曲でどんなメッセージを発信すれば良いんだろうって、制作が始まった夏ぐらいから悩んでいましたね。その時は、実際に福島県で現地取材をする機会があって、そこで感じたことから作詞作曲して、「Mr.CLOWN」という曲が出来たんです。当時も、今感じたこの感情は絶対に形にして残さなきゃダメだという感情が先行して。今回もあの時とちょっと近い状態で、当時のことを思い出します。
ーー自分が思っている感情を作品にする際には、聴いてくれる側にどういう風に受け取ってほしいとか、その上でどういうアクションを起こしてほしいとか考えましたか?
森久保:それを一番考えたのが「Alright」ですね。僕の場合、作品作りに対して少し意固地なところがあって。楽曲はあくまでも僕の価値観や思いの提示で、その判断は、聴いた人がどうジャッジしてくれても良いというスタンスです。ライブはまた別で、目の前にいるお客さんに対して全力で、どう楽しんで帰ってもらうかということだけしか考えないんだけど、作品作りとなると、いつもそういう考えがあって。でも「Alright」だけは、やっぱり自分自身も「大丈夫だ」という言葉を求めていたから、自分で自分に言い聞かせている部分もあったと思うけど、僕の「大丈夫」の一言で救われる人がいるなら、そういう人に届いてほしいという思いで書きました。
ーー同じ「大丈夫だよ」という言葉でも、森久保さんの経験則から発せられるものは、とても説得力があるなと思いました。ファンは森久保さんの経験や歩み、どういうことをしてきた人間か知っているから、そこから生まれる言葉を信頼していると思います。
森久保:そうだったとしたらありがたいです。大丈夫という言葉は、ともすれば軽薄にも聞こえるんだけど、その一言でホッと出来る瞬間もあるのは確かで。言っていただいたように、僕もそこそこ良い大人だからいろいろ経験してきているし、安心してもらえる言葉が、何か表現出来ないかなって思ったんです。正直言って、僕が言う「Alright」の裏に何か根拠があるわけではないけど、僕の中には、上手く整理できない強い気持ちがあって、それが「大丈夫」という言葉だったんだと思う。この曲では、そういうメッセージを発信したいと思いました。