Newspeak、コロナ禍を受けて打ち出した「Blinding Lights」にあるステイトメント 合わせて聴きたいプレイリストも公開
新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、「自分たちにできることは?」と自問自答した結果、4カ月連続でシングルを配信することを決めたNewspeak。6月12日の「Pyramid Shakes」を皮切りに、7月に「Another Clone」、8月に「Parachute Flare」と紡いできた一連の流れは、いよいよここに届いた「Blinding Lights」で締めとなる。そして、最終的にはこれらの4曲プラスアルファの『Complexity & Simplicity of Humanity(and That’s Okay)』と題したEPを配信リリースする。そこで全貌が明らかになる前に、あらためて既発3曲の軌跡を辿るとともに「Blinding Lights」について考察していく。
1曲目の「Pyramid Shakes」は、静と動のコントラストやグラデーション、ときにそういった言葉では割り切れない力業による、ダイナミックな展開力という持ち味を削ぎ落し、とりわけベースラインを立たせることで生まれるダンスへの没入感に軸足を置いた、Newspeakのキャリア全体を見渡しても珍しいタイプのシンプルな曲。冒頭の〈The pyramid shakes / A landslide gives a joy ride (ピラミッドは揺れる / 地滑りがジョイライドを生み出す)〉という歌詞の、崩れゆくピラミッドをコロナ禍にあてはめると、それより前の生活様式や、多くの人々が正誤すら考えたことがなく、違和感を覚えたとしても言い出せなかった価値観といった、“当たり前”とされてきた何かを指しているかのよう。そんな崩壊するピラミッドを見ながら、〈We keep dancing in circles(僕らは円に踊り続ける)〉。その祝祭が、刹那になるのか未来に繋がるのかは、我々の選択次第だと訴えかけているのではないだろうか。
続く「Another Clone」は、「Pyramid Shakes」以上に、これまでのNewspeakのイメージを塗り替える新機軸の曲であると同時に、もっともプリミティブで衝動的な“これぞロック”な曲に。パワフルの粋を極めた8ビート、時空を切り裂くような鋭角的ギターリフ。しかしそれだけでは終わらない、60年代のヘヴィーなサイケデリックロックを思わせるフレーズや音色も散りばめた、奔放なミクスチャーセンスが光る。そんなサウンドや、理性を打ち消しカテゴライズを嫌う歌詞、第二次世界大戦後にジョージ・オーウェルが執筆・出版した小説『1984』で描いた、人々の思考を制限するための仮想言語から引用したNewspeakというバンド名や、第一世界大戦中に発するどの勢力からも占有されない土地“No Man’s Land”に由来する、2ndアルバムのタイトル『No Man’s Empire』という言葉などを重ね合わせると、ある芸術運動が浮かんできた。第一次世界大戦中に起こった、戦争がもたらす虚無感とともに理性やそれまでの秩序を否定する、“意味のない芸術・ダダイズム”だ。さらに、ダダイズムの影響を受けた1970年代のパンクとこの曲が一本の線で繋がった。「Another Clone」とは、己の中に住み着いたイメージや他者からの評価や圧力を壊し、新たな世界を切り開く意志であるように感じた。
しかし、ダダイズムは先に述べたように、そこに意味のない芸術である。「Another Clone」は、その代表的な表現手法ともリンクする得体のしれないコラージュを施した今回の企画のアートワークのように、感情を吐露した先はどうなるのかわからないまま、次の曲「Parachute Flare」に移る。脳内やフィジカルを揺さぶった前2曲での激動を経て、疲れ果てたままに荒れた大地に倒れ込んだ眠りからの目覚めに射す光の美しさと、拭いきれない心のダークネスを映し出しながら、じわじわと心が熱を帯びていく様を描いたようなサウンドスケープ。そしてReiは〈Day by day people change / Day by day we lose time (日を追うごとに人は変わっていく/ 日を追うごとに人は時間を失っていく)〉、〈We don’t have to shine all the time (いつも僕らは輝いていなければならないわけじゃないんだ)〉、〈We’ll find a light again(僕らは光をまた見つけるだろう)〉と歌う。その歌声は、抑圧という檻の鉄格子を自力でこじ開け、なんとかここまで辿り着き、真の自由を手に入れるための最後の戦いに向かう、ポジティブな覚悟のように思えた。
そして今回の「Blinding Lights」に続くわけだが、この曲が想像以上におもしろい。伸びやかなベース音を下敷きに、足取りの軽いストリングスのフレーズと4つ打ちのキックと甘いメロディーの三味を丁寧に描くことで聴き手を引きつけ、サビで溜めていたエネルギーが爆発。曲をポップたらしめる常套手段を堂々と用いて多幸感を演出し、これまでの鬱屈した感情や迷いを振り切ってネクストフェーズへと向かう。そんな希望的な曲とくれば、期待通りのハッピーエンドだが、そこまで底抜けに晴れ晴れした曲でもないところが実に興味深い。2度目のサビのあとに訪れる、魔力的なサイケデリック音楽の影がちらつくフレーズ、どこか破滅的なラストのアンサンブル。そこにある彼らの意図を想像すると、Newspeakとして初めて“コロナ禍のなか自分たちができること”というステイトメントのうえに作品を作ったコンセプチュアルな企画ということもあり、コンセプトアルバムの金字塔と言われる、The Beatlesが1967年にリリースした『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』のラストを飾る、「A Day In The Life」が浮かび上がってきた。浄化作用と恐怖感が並走するような何とも煮え切らないサウンドだからこそ満たされる、“あの感じ”だ。
『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』は、前衛的な姿勢や音楽性とポップは相反しないことを広く世に知らしめたと評価されるほどに、大衆性の概念を大きく塗り替えた。「Blinding Lights」のリファレンスにThe Beatlesがあったかどうかは定かではない。しかしながら、世の中で正義とされてきたものの呪縛と向き合い、自らが積み重ねてきたイメージにも疑問を持ち、間もなくリリースとなるEP『Complexity & Simplicity of Humanity(and That’s Okay)』にあるように、複雑な思考と直感的な行動を繰り返しながら前進し続けるNewspeaksが、The Beatlesから直接的に受けた影響は小さくないように思う。
そして〈I’ll miss everything I dreamed / But can we still carry on?(夢に見てきたこと全てを恋しく思うだろうけど / 僕らはまだ先に進めるかい?)〉という終盤の言葉。ここに出揃った4曲のシングルは、コンセプチュアルな成立度は高いながらも、Newspeakはまだ、コロナ禍を受けて打ち出したステイトメントのもとに走り出した冒険の途中なのかもしれない。そうなると、続くEPで何かが完結するのか、この話にはまだ先があるのか、俄然楽しみになってきた。