Newspeak、2カ月連続リリースを経た「Parachute Flare」で描いた光 合わせて聴きたいプレイリストも公開

Newspeak「Parachute Flare」レビュー&プレイリスト

 静かなピアノのリフレインに乗せて、どこか聖性を帯びたReiのボーカルが聞こえてくる。〈A parachute flare soaring up high/And I don’t think nobody else has seen it(空高へと昇っていくパラシュートフレア/おそらく僕以外それを目にした者はいない)〉。闇夜へ昇っていく一筋の光の軌跡。誰の目にも止まることのないそれはやがてまばゆい閃光を放ち、ゆっくりと堕ちていくーーあまりにも美しく、そしてどこか物悲しい、そんな映像的情景から始まる「Parachute Flare」の世界は、彼らがここまで2カ月連続リリースしてきた楽曲「Pyramid Shakes」「Another Clone」のいずれともまったく異なっている。

 6月に発表された都会的でスマートなファンクネスがセクシーなダンスナンバー「Pyramid Shakes」と、7月に発表された情熱的で攻撃的なシャウトとギターリフが鋭く尖るロックナンバー「Another Clone」を通して、Newspeakは自身の音楽的振れ幅を存分に見せつけてきた。もとよりメンバーそれぞれが異なるバックグラウンドとキャリアをもち、それぞれの経験と思想を持ち寄って生まれたのがこのバンドである。時と場合、より具体的にいえば楽曲のなかで誰のアイデアが主導権を持つかによって音楽性は変わるのだろう。これまでの作品を聴いても、音楽のスタイルのみでNewspeakを定義することは不可能だしナンセンスだと痛感する。というよりも、その音楽的カバレッジの広さ、言い換えれば音楽としての多様性とキャパシティの広さこそがNewspeakというロックバンドの現代的な佇まいの源泉であり、彼らのテーマそのものなのではないかと思うのだ。

 そもそも「Newspeak」(いうまでもなく、ジョージ・オーウェル『1984年』からの引用だ)と名乗っている以上、そのメッセージの根底にはディストピア的な世界観とそこに抗う人間の姿が横たわっているに違いないはずで、その意味では彼らの音楽は成り立ちからしてコンセプチュアルということもできるが、そんな彼らが4カ月連続リリースの先に産み落とすコンセプトEP『Complexity & Simplicity of Humanity (and Thatʼs Okay)』——直訳するなら「人類の複雑さと単純さ」——とはどんな作品なのか。今回の「Parachute Flare」で4分の3が明らかになったわけだが、ここまでの3曲のなかでも(優劣という意味ではないが)、「Parachute Flare」はとりわけ重要な楽曲であるという気がしている。

 〈The Pyramid Shakes/A landslide gives a joy ride〉——ピラミッドが揺れ、大地が動くなか、人々は円になってダンスを踊る。そんな光景を描き出す「Pyramid Shakes」が浮かび上がらせたのは、人間の原初的な快楽本能と退廃的な欲望だった。〈I wanna get out/Out of my/Out of my/Out of my head or blow my brain into particles〉ーー「頭の中から抜け出したい/さもなきゃ脳みそを吹き飛ばしてくれ」と懇願する「Another Clone」が浮かび上がらせていたのは、高度に情報化された世界で暴走する欲望と均質化されていく(それこそ「クローン」のように)人間の姿だった。「こんなはずじゃなかった」とも「本当はこうあるべきだ」とも彼らは言わない。その音楽性が多様で自由であるように、彼らはただ人間の裏と表、両方を見つめ、それを切り取ってきた。では「Parachute Flare」はどうか。

 RadioheadやColdplay、あるいは現代のアンチロックの急先鋒The 1975も彷彿とさせる静謐で極限的に美しいサウンドのなかで、Reiはこう歌う。〈Day by day people change/Day by day we lose time(日を追うごとに人は変わっていく/日を追うごとに人は時間を失っていく)、〈You’re not just another/We don’t have to shine all the time(君は簡単に取って変わられるような人間じゃない/いつも僕らは輝いていなければならないわけじゃないんだ)〉。そこに描かれるのは、欲望の誕生と暴走を物語ってきたこれまでの2曲の先で、夢に破れ、欲望を涸らした人間の姿だ。

 だが、ボロボロになり、〈don’t think we’re strong enough to keep dreaming(このまま夢を見続けられるほど僕らは強くない)〉と痛感している「君」に対し、Newspeakはこう語りかける。〈I remember your light(君の光を覚えているよ)〉ーー誰にも見向きされなかった閃光、一瞬闇を照らした「パラシュートフレア」の光を、Reiの歌はしっかりと見つめている。そして曲の最後で〈We’ll find a light again(僕らはまた光を見つけるだろう)〉とまで繰り返すのだ。それは慰めだろうか、それとも鼓舞だろうか。いずれにしても、この曲には明確なメッセージがある。少し大げさな表現をするなら、この「Parachute Flare」は人間の夢の営みを肯定しようとしているのではないかと思う。

 『Complexity & Simplicity of Humanity (and Thatʼs Okay)』。「人類の複雑さと単純さ」というEPのタイトルに括弧入りで付記された「and That’s Okay」という言葉の意味は大きい。複雑さと単純さが共存する、多様で矛盾をはらんだ存在としての人間を「それでいいんだ」と認めるために、Newspeakはこの連続リリースでひたすら人間を描き続けてきたのかもしれない。そして「Parachute Flare」に歌いこまれた肯定性は、そのコンセプトの根幹を成しているように思える。もう1曲、締めくくりとなる4つ目のピースで、彼らはどんな「結論」を用意しているのか、そしてその4曲目とともに全貌を表すEPはどんな作品として完成するのか。期待しながら待ちたい。

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