速水奨、黒田崇矢、緑川光、遊佐浩二……確かな経験とスキルによって培われた、ベテラン声優の歌声の魅力
磨き抜かれた大人のテクニックでファンを魅了
前述の緑川と共に、男性声優5人組ユニット=E.M.Uのメンバーとして人気を博した置鮎龍太郎もまた、数え切れないほどのキャラソンを歌っている声優のひとりだ。E.M.Uはメディアミックス作品『卒業M』の声優で結成されたユニットで、1995年〜2000年の活動の中で8枚のアルバムをリリース。ライブでは楽器演奏やダンスと共に歌を披露し、アイドル顔負けの多彩なパフォーマンスで人気を博した。置鮎はソロ活動も行い、シングル『Holy Love』のほか『DAY AFTER DAY』などアルバムも3枚リリースしている。また、『BLEACH』の朽木白哉や『テニスの王子様』シリーズの手塚国光といったキャラクターを演じ、両作のキャラソンも数多く歌っている。低音の効いたいわゆるイケボが魅力で、手塚のキャラソン「Infinity Sky」では、熱く真っ直ぐな歌声を聴かせる。歌声から放つ、絶対的な正義と存在感は偉大で巨大だ。
そして、『弱虫ペダル』で京都伏見高校の御堂筋翔、『TIGER & BUNNY』では敵役のルナティックなど、不気味な存在感を放ち好演、さらに『BLEACH』の市丸ギン、『黒執事』の劉(ラウ)、『鬼灯の冷徹』では遊び人の白澤と、一筋縄ではいかない役を演じさせたら天下一品の遊佐浩二もまた、数多くのキャラクターソングを歌っているひとり。特に有名なのは、佐藤健の出世作である『仮面ライダー電王』の後期主題歌「Climax Jump DEN-LINER form」だろう。遊佐が演じたウラタロスら出演声優4人が歌い、本家であるAAA DEN-O formが歌った同曲を超える、オリコンシングルチャート2位に輝いた。『薄桜鬼』では新選組十番組組長=原田左之助を演じ、『アニメ「薄桜鬼」キャラクターCD 幕末花風抄 原田左之助』をリリースしている。腹に一物ありながらそれをおくびにも出さず、敵なのか味方なのか、そんなミステリアスを放つ演技と歌声がファンを魅了している。
歌えるベテラン声優の需要は、現在も非常に高い。例えばメディアミックスシリーズ『ACTORS』や『百歌声爛 -男性声優編II-』など、彼らの美声を堪能することができる作品は数多く、『オジサマ専科』というシリーズもある。炭酸が弾けるソーダのような瑞々しさが若手の魅力だとすれば、ベテランの魅力は、熟成されたワインのような芳醇さだろう。長年の経験によって培われた柔軟な対応力と、磨き抜かれた大人のテクニック。若手とはまた異なる、魅惑のよろこびを感じることができる。
■榑林 史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。