山下達郎、初の“高音質”ライブ映像配信で届けた極上の時間 貴重なパフォーマンスの数々を振り返る

 続いては『氣志團万博』のライブ映像。氣志團主宰のフェスに合わせ(?)、“ツッパリ”をテーマにした「ハイティーン・ブギ」(近藤真彦)を放つと、雨が降り注ぐフィールドの熱気が一気に上がっていく(のが手に取るようにわかる)。さらに山下の十八番、キレキレのギターカッティングに導かれた「SPARKLE」を披露した後、「あいにくの雨ですが、台風がなんぼのもんじゃい(笑)。バラードはやめます。一気に行きます、みなさん温まってください」というMCから、パワフルなファンクディスコチューン「BOMBER」ーー大阪のディスコでこの曲が支持されたことが、山下のブレイクにきっかけになったのは有名だーーさらにKinKi Kidsのデビュー曲「硝子の少年」の“セルフカバー”とアッパーな楽曲を続けた。小笠原拓海(Dr)、伊藤広規(Ba)、佐橋佳幸(Gt)などの凄腕ミュージシャンが揃ったバンドのサウンドも最高潮。

写真=菊地英二

 ここから竹内まりやがコーラス隊に参加。サーフィン&ホットロッド直系のサウンドと未来に対するメッセージが一つになった「アトムの子」、極上のバンドグルーヴが響き渡った「恋のブギ・ウギ・トレイン」とライブアンセムを続け、心地よい高揚感を生み出す。画面越しでも、演奏のクオリティの高さと現場の熱さがはっきりと伝わってくる。凛とした立ち姿で鋭利なギターと、エモーショナルな歌声を響かせる山下のパフォーマンスに圧倒された視聴者も多かったはずだ。

 「さよなら夏の日」をダイナミックに歌い上げ、『氣志團万博』のライブ映像は終了。そして最後は80年代の超貴重なライブシーンへ。公開されたのは“一人アカペラ”による「SO MUCH IN LOVE」 (1986年10月9日郡山市民文化センター)、名ドラマー・青山純(2013年没)をはじめ、80年代の山下を支えたミュージシャンの演奏を体感できた「プラスティック・ラブ」(1986年7月31日中野サンプラザホール)。30代前半のステージの映像が公にされるのも、これが初めてだ。

 「再びリアル・ライブができるようになるまでのあいだ、違う可能性を必死で探さなくてはなりません」「最初は施行錯誤でも、とにかく前に進まねばなりません」という強い決意を持って臨んだ初のライブ映像配信『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』(参考:山下達郎、キャリア初のライブ映像配信 貴重なパフォーマンス収めた特別番組を高音質で)。音質、選曲、構成を含め大成功と言っていいし、“初めてヤマタツのライブを見て、その素晴らしさに驚いた”という新たなリスナーに訴求できたことも大きな成果だが、このプロジェクトはまだ始まったばかり。前述したラジオ番組内で「いつもライブのセットでやれるように、これから先、計画していきたいと思います」とコメントしていた通り、この企画は生ライブ配信に発展する可能性を秘めている。山下達郎とネット配信の今後の動きにもぜひ注視していきたい。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

山下達郎 公式サイト

※メイン写真=菊地英二

関連記事