遊び心と生命力に満ちたバンド Sir Vanityの魅力 人気声優とともにクリエイティブ担う桑原聖、渡辺大聖の声から紐解く

Sir Vanityを桑原聖、渡辺大聖の声から紐解く

 さらに、梅原と中島という2名の人気声優が、どのような手法の歌声を奏でてくれるのかも大きなポイントだ。彼らは声優として、いわゆるキャラクターボイスを用いて、“演じながら”歌を披露するのか。はたまた、多くの声優アーティストと同じく、個人のパーソナリティを楽曲に反映しながら、“素の歌声”を表現するのか。桑原は前者の歌唱法について、キャラクターとして歌声の違和感をなくしていく必要があるほか、「個人の感情を優先すると作品性が薄れて」しまうと例を挙げながら、続けて語ってくれた。

「声優アーティストにおいても、その人のパーソナルだったり、趣味嗜好にフォーカスを当てて組み上げていく方もいれば、自分の思い描く理想のアーティスト像を“演じる”方もいます。どちらも素敵な形だなと思いつつ、Sir Vanityは後者に近いのかなって」

「僕らは決して演じているわけではないので、表現したいことをぶつけているというか、音楽に言葉をのせて感情を揺さぶっていきたいなと。なので必然的に歌詞はメンバーが書かないとダメで。自分たちの言葉でぶつけていきたい。内容は本心でもフィクションでも良いんです、それが形になった時に自惚れられたら勝ちだなって思っています」

 その上で、レコーディング時には言葉のリズムや発音をあえて崩すなど、「生きている質感」に重きを置いたという。生きている質感。これこそが「Vanity」「悠」を通して感じた、バンドの“生命力”の滾るサウンドであり、彼らの音楽に心を揺さぶられる理由のひとつに違いない。彼らの目指す“自惚れ”には、自身の振る舞いに主観的に陶酔しながらも、その自分をどこか客観から俯瞰する視点も必要なものだ。その双方を兼ね備える視点こそ、声優として日頃から磨かれている能力であり、まさに今回のバンド観にもぴったりである。

 また、昨今の情勢から無観客ライブの生配信が今後も広まると思われるが、ここではVJや映像制作を担当する渡辺の腕前が活きそうである。現段階でのライブ構想を尋ねたところ、渡辺は以下のように答えてくれた。

「新しい時代のライブエンターテインメントは一つのプラットフォームや楽しみ方にとらわれず、マルチプラットフォームをリアルタイムに横断でき、その瞬間でしか得られない価値を繋いでいくことで、1人1人その人だけのストーリーを作ることだと思っています。色々な表現やインフラ、プラットフォームを使って、Sir Vanityらしいライブ体験として作れるか、今から少しずつ考えていきたいです」

 渡辺にとって、ライブ配信は映像といい意味でイコールでは直結せず、VJについてもその職能に止まることなく、数多の演出のハブとなる存在として捉えているのだろう。彼らの紡ぐストーリーがどのような形でビジュアライズされるのか。そのステージを楽しみにさせられる。

 最後に、バンドとして今後の目標を聞いてみた。

「目標はたくさんありますが、ライブツアーができるように成長していきたいですね! 単純にこのメンバーで旅行がしたいのも含まれますけど(笑)。あとはせっかく“サバ、鯖”と言っているので、鯖(食品)関係のお仕事と繋がれたら嬉しいですね(笑)」(桑原)

「ライブツアー(旅行)と鯖にまつわるグッズは作りたいってよく話しています(笑)」(渡辺)

 何はともあれ、最後はやっぱり“サバ”になってしまった……。そんなオチを用意してくれる温かさもありつつ、今回のシングル収録楽曲の出来栄えを含めて、全員が各自のフィールドで培った経験と、レコード会社に所属しない自主活動ならではの自由度の高さを武器にしているSir Vanity。彼らの頭の中には、音楽と仲間に対する愛情と情熱、そのすべてを繋いでくれた“サバ”だけがあるのだろう。だからこそ、彼らの表現は何にも縛られず、心の底から音楽を奏でる時間に没頭し、そこで生まれた功績に対して、美酒を傾けるように“自惚れ”られるのだと思う。Sir Vanityと一緒に“自惚れる”毎日は、まだ始まったばかりだ。

◼︎一条皓太
出版社に勤務する週末フリーライター。ポテンシャルと経歴だけは東京でも選ばれしシティボーイ。声優さんの楽曲とヒップホップが好きです。Twitter:@kota_ichijo

Sir Vanity『Vanity / 悠』

■楽曲情報
Sir Vanity『Vanity / 悠』
6月26日(金)配信リリース

M01「Vanity」
作詞 : 梅原 裕一郎
作曲 : 桑原 聖

M02「悠」
作詞 : 中島 ヨシキ
作曲 : 桑原 聖

Jacket Art Work : 渡辺大聖

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