アルバム『PAISLEY』インタビュー
18scott×SUNNOVA、アルバム『PAISLEY』に込めた“受け入れて前に進む意志” 「音楽は自分の感情を提示する場所」
18scott×SUNNOVAが2ndアルバム『PAISLEY』をリリースした。内省や葛藤をオリジナリティの高いトラックとラップで昇華していった前作『4GIVE4GET』から1年半。今作はよりハードでアグレッシブな作品に仕上がっているが、自身の素直な感情と対峙し、時に客観的に己を見つめながらリリックに落とし込むという18scottのスタンスは変わらない。その分、「面白い!」と感じたラッパーには積極的に声をかけてコラボし、自分たちのヒップホップのフィールドを着実に広げていることに加えて、SUNNOVAのトラックも自由度を増して進化している。ますます互いのグルーブが高まってきている18scott×SUNNOVAにインタビューを行った。(編集部)
「PAISLEY」は闘争の証みたいなイメージ
ーー今回のアルバム『PAISLEY』ですけど、先行で配信された「CASH ONLY」であったり、1曲目の表題曲「PAISLEY」の印象もあって、前作と比べても結構ハードな作品に感じました。
18scott:アルバムのテーマとかは僕が決めることが多くて。1stアルバム『4GIVE4GET』は自分の中の葛藤とかを表した作品だったんですけど、リリースすることでその葛藤も落ち着くかなと思ったのに、逆にいろんなことを考え出しちゃったりもして。もっと届いて欲しいところに届かないとか、いろんな悩みが生まれてきたので。今回のアルバムでそれを終わりにしたいと思って、全部出そうと思って作ったら、ハードになっちゃいました。
ーーすごく攻撃的にも感じたんですけど、そういう部分は自分の中にもともとあったものですか?
18scott:ありますね。ラップの歌詞を書き始めたのが高校生とかだと思うんですけど、意味なく著名なラッパーのディス曲とか作っていて(笑)。良くないことですけど、もともとそういうマインドを持ってたりもします。
SUNNOVA:スポーツをやってたから、体育会系なところがあるよね。
ーー例えば、今回の「CASH ONLY」と前作に収められた「MONEY TALX」は両方ともお金の話で、テーマとしては対に思えるんですけど、曲調とかは全く違うタイプの曲に仕上がっていて。
18scott:そうですね。繊細な自分の悩みとか葛藤とかを表現した1stに対して、今回はどっちかと言うと「分かんないヤツは全員置いていく」ぐらいの気持ちで。あえてそこは似たようなテーマにしたんですけど、もっとボースティング系の内容にしようと思って、ちょっと強くなったのかもしれないです。
ーーアルバムタイトルの『PAISLEY』は、どういうイメージから来ているのでしょうか?
18scott:『PAISLEY』っていう題名は結構最初の段階から決めていて。『池袋ウエストゲートパーク』とかで、カラーギャングって流行ったじゃないですか? もちろん、アメリカのリアルなギャングとか、チカーノの人たちにとっても、ペイズリー柄のバンダナってユニフォームみたいなもので。そういう人たちの闘争の証みたいなイメージが僕の中にはあって。僕たちの世代がストリートに憧れて、学生の頃にそういうファッションをしてた時に、ペイズリーってそういう象徴だったんですよね。今回のアルバムは戦うアルバムにしたかったんで。だから、「PAISLEY」の感じが全てを表しています。
ーー1曲目の「PAISLEY」は今回のアルバム制作の最初のほうにできたのですか?
SUNNOVA:わりと後半でしたね。
18scott:もともとは他のビートで「PAISLEY」っていうタイトルの曲を作っていて。
SUNNOVA:ちなみに、僕はそれは聴いてないんですよ(笑)。
18scott:自分的にはあまりピンときてなくて。だから、アルバムトータルで『PAISLEY』にして、別に表題曲を作らなくても良いかなとも思っていたんですけど、SUNNOVAさんからあのビートが送られてきて聴いたら、ガツンときて。2曲目に入っている「TILL I DIE」を1曲目にするっていう構想で僕はずっと作っていたんですけど、レーベルスタッフから「最初にガツンとインパクトのある曲を持ってきたほうがいいんじゃないか?」って言われて。それですごく納得いく曲ができたので、「PAISLEY」を1曲目にして。
ーー今回のアルバムは前作と比べて、トラックの面でもすごくバリエーションがあるようにも感じましたが、SUNNOVAさんはアルバムのテーマや『PAISLEY』というタイトルを伝えられてから、どのように制作を進めていったのでしょうか?
SUNNOVA:アルバムのテーマやイメージは結構早めにもらうんですけど、トラックの内容に関しては何も言われないので、自分で咀嚼して、イメージを作っていって。前作も結構色んなバリエーションはあったと思うんですけど、18scottと一緒にライブをやったり、バンド(downy)での活動であったり、ソロでもやったりする中で、多様性みたいなところを自然と意識するようになったんだと思います。それから、今回のアルバムはラップが乗ることを想定して作るっていうことは強く意識しました。あと、前のアルバムが出てからライブをやる中で、自分がカッコいいと思うものと、お客さんの反応に結構乖離があったんですよね。例えば「CASH ONLY」とかは、ライブでやった時の反応がすごく良くて、ライブをやるたびに自分の中にそういうのがインプットされていって。「じゃあ、次はこういうのを作ってみよう」っていう感じで作ったトラックを18scottに渡して。それを取捨選択してもらって、ラップが入ってきて。だから、今回はすごく聴く側を意識しました。リスナーとかライブに来てくれるお客さんのテンションが上がったり、何か感じてもらえるような曲ができたらいいなっていうのを逆算して、さらにラップが入るのを想定して作るみたいな感じでした。
ーー「CASH ONLY」はラップのドライブ感がトラックとがすごく合っているから、あそこまでカッコいいんでしょうね。
18scott:正直言うと、最初にトラックが来た時は、これは使わないと思ったんですよ。
ーーそうなんですか!?
18scott:最初にあのビートを聴いた時は「これで上手くラップできるのかな?」って思って。けど、実はあの曲を作った頃に僕のラップのスタイルがちょっと変化したというか、上手くなったんですよ。
ーーたしかに「CASH ONLY」はすごくスキルが上がったのを感じましたね。
18scott:僕のラップのもともとのルーツは、KREVAさんとかRHYMESTERといったFG周りで。その後にDOWN NORTH CAMPさんとかを学生時代にずっと聴いていて、かなり影響受けてたんですよ。1stアルバムだと最初のほうに作った「ALLRIGHT」とか「MONEY TALX」もそうですけど、ラップのスタイルとかもビートへの乗り方がそうなっちゃう。それはそれで好きだったし、良かったんですけど、もっと違うこともできるようになって。「CASH ONLY」を作った頃がちょうど、自分のスタイルの中で、いろんなタイプのビートに対して、いろんなアプローチができるようになった時期だったんですよね。
SUNNOVA:そう言われると、たしかにスタイルが変わったよね。
18scott:変わったじゃなくて、進化したって言ってくださいよ(笑)。
SUNNOVA:(笑)。今回のアルバムの制作が終わって、その後に作っている曲とかを聴いても、本当に上手くなってるなって思いますね。
ーー他の曲でも結構、言葉を詰め込んでみたりとか、明らかに前作とは違うことをやっていて。テクニカルなものに挑戦してるようにも感じました。
18scott:そうですね。やっぱりラッパーだったら、そういうものをやりたくなっちゃうってことじゃないですか?(笑)
ーー特に今回はフィーチャリング曲でそういう傾向があるようにも思いました。例えば「YOUNG BROS feat. Andre, LIB」とかですね。
18scott:「YOUNG BROS」に参加している名古屋のAndreと沖縄のLIBっていうのは、二人とも歳下なんですけど。二人はお互い面識はないし、Andreに関しては、僕もまだ会ったこともないんですよ。前にC.O.S.A.さんがインスタかなんかで「こいつヤベえ」みたいなことを言ってて。そしたらインスタで繋がって、「一緒に曲をやろう」っていう話になって。彼は若いのにラップがすごく上手いから、もう一人若手で格好良いラッパーに参加してもらいたくなって、沖縄のLIBを呼んで。あの曲は一番頑張りましたね。
ーーいろんなタイプのフロウが詰め込まれていて、かなりテクニカルでした。
18scott:そうですね。フロウにこだわったり、いろいろ考えて書きました。
ーーあと、フィーチャリング曲だと、ACE COOL、Taeyoung Boy(TAEYO)、Gottzというバラエティに富んだ3人が参加した「G.O.D.」は今回のアルバムの目玉の一つだと思いますが、この3人を選んだ理由は?
18scott:個人的にGottzさんが大好きで、一緒に曲をやりたいなってずっと思っていて。GottzさんがMUDさんと一緒にやっている「+81」っていう曲の中で〈助けてはくれない G.O.D.〉ってラインがあるんですけど、そこから「G.O.D.」っていう曲を作りたいなって。だから、Gottzさんは絶対に入れたくて。あと、自分の中で日本で一番ラップが上手いのはACE COOLさんだと思ってるので、ラップの神だから呼んで。Taeyoung Boyはめちゃくちゃ仲が良いんです。彼はメロウな楽曲のイメージがあると思うんですが、実はセルフボースト系もめちゃくちゃカッコいいんですよ。あとはものすごくイケメン。だから、イケメンの神だろうって。僕の中の神を3人召喚した曲です。超ボースティングしてくれってお願いして、バッチリな曲になりました。
ーーこの曲って静かでクールな感じトラックなのに、そこで激しく戦っているのが良いですね。
18scott:あのビートを聴いた時に、上ネタのメロディが印象的で。シンプルなループでマイクリレーみたいなのをやったらカッコいいなって。自分が中学とか高校の時とかに流行っていた、USとかのオールスター感あるような、「これハンパねーな!」っていうメンツが集まったような曲をやりたかったんですよ。そういう願望がずっとあって。