米津玄師、ヒゲダン、Mom……注目作には欠かせない小森雅仁の存在 多くの信頼寄せられるエンジニアとしての妙

 レコーディング/ミキシングエンジニアの小森雅仁。Official髭男dism、米津玄師、宇多田ヒカル、藤井風、Mom……等々、昨今の注目作には欠かせないプロフェッショナルのひとりだ。エンジニアは、ミュージシャンの表現したいものをサウンドへと落とし込み、ブラッシュアップする重要な役割を担う。本稿では、楽曲をピックアップしてその特徴を探りつつ、エンジニアとしての小森に寄せられる信頼とはなにかに迫りたい。

米津玄師「海の幽霊」

 とはいえ、やっぱりエンジニアってなんなんだと思う人も少なくないかもしれない。現在、世の中の音楽の大部分は、ツーミックスと呼ばれるかたちで流通する。2種類の音源を左チャンネルと右チャンネルに割り振って再生することで、左右の広がりをはじめとした空間の表現を行うことができる。いわゆるステレオというものだ。しかし、ミュージシャンの頭のなかで鳴っている音楽はきれいにツーミックスで収まるとは限らないし、スタジオで演奏される音楽だってそうだ。まずは、音楽を構成するサウンドのひとつひとつを採集(レコーディング)しなければならない。次に、たくさんあるサウンドをミキシングして、ふたつのスピーカーで鳴らすのに最適な、ツーミックスというひとつのフォーマットに落とし込まなければならない。こうした作業には、演奏や作曲とは異なる高度な専門知識や経験が必要なことは多々ある。その専門家がエンジニアだ。楽器や声をどんなマイクで、どんな角度で、どんな距離で捉えるか。録音したサウンドを気持ちよく鳴らすためにはどんな音量のバランスがよいか。エンジニアはこうしたノウハウを駆使してミュージシャンの表現を実現する手助けをする。

 というと、あくまでテクニカルな話のようにも聞こえるが、ミュージシャンの頭のなかで鳴っているサウンドをリスナーに届けるために不可欠な、クリエイティブな面から言っても重要な役割だ。どのエンジニアと仕事をするかが、ミュージシャンの表現を決定づけると言っても過言ではない。

 小森が手がける仕事をチェックすると、特徴的なのはエレクトロニックな打ち込みの表現と、ボーカルやバンドサウンドといった生の表現とが融合した楽曲が多い。たとえば、バンドのターニングポイントと言って良いOfficial髭男dismの「Pretender」では、ギターやドラム、ベースを主軸としたバンド的なサウンドに、低域や定位感に現代的な広がりが加わることで、オーセンティックな感覚と新しさが同居した仕上がりになっている。続くシングル曲「宿命」にしても、ブラスの華やかなサウンドとシンセベース、そしてバンドの演奏がパートごとにさまざまに組み合わされていくが、一貫したひとつの印象をつくりだしている。

 藤原聡は小森の仕事についてこう語っている。

「自分が今求めているサウンドは、ワイド・レンジで、シンセ・ベースなどの電子音がしっかり届くようなもので。それを叶えてくれるのが小森さんだと思っています。もちろん録り音から素晴らしく、たとえばボーカルひとつを取ってもすごく奇麗なんです。奇麗で、原音に忠実。張ったところで一定のテンションが保たれる感じが良いし、抑揚だって非常に奇麗に出してもらえます」(「サウンドアンドレコーディングマガジン」2019年12月号、p.26)

 多様な音源を巧みにまとめつつ、ワイドレンジ(高い音から低い音まで広い範囲の音が出る)なサウンドをつくりだす。そうした手腕に信頼がおかれていることが伺える。

Official髭男dism「Pretender」
Official髭男dism「宿命」

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