PUNPEE『The Sofakingdom』レビュー:掘り下げるほどに無数のメッセージが散りばめられた作品

 ではこのEPにその要素は抜け落ちているのか? 現実に立ち返り、もう一度聞き直してみる。すると、PUNPEEが忍ばせたコロナ禍特有の言葉に気が付くはずだ。〈余裕ある時しか自分の音楽はFeelできないのかな〉と悩み、〈自粛してる気持ちならば いっそ夢の中〉と現実世界を離脱するも、仮想空間ですら〈みんな意見を押し付けあってる〉。〈だけど君がいなけりゃ僕はソリチュード〉と繋がりに自分を見出し、〈出会いは偶然で 別れんのは必然〉の最もたる存在である弟と、互いの関係を確かめる。しかし最後には〈ふわり疎遠になるかも〉と、常に先が読めない現実世界の不穏さや日常の儚さを香らせて締めくくっている。そう聴けば1曲目「The Sofakingdom VR」の後半にずっと聞き覚えを感じていたのだが、これがカニエ・ウエストの「Amazing feat.Young Jeezy」に似ていることに気がつく。この曲はカニエが婚約者と別れ、最愛なる母も亡くし、心が不安定な状態で3週間スタジオに籠もって生み出されたアルバム『808s & Heartbreak』からの曲だ。HOUYHNHNMのインタビューでは、PUNPEEが制作時の世情とシンクロするように体調を崩し、その時の閉じた心境を語っている。それらを考えると自身を隔離させた状況は重なり、第一印象で抱いた心を躍らせる印象より、鬱蒼としたイメージがより際立って聴こえてくるようだ。

The Sofakingdom VR
Kanye West - Amazing ft. Young Jeezy

 このように、ラッパーといえども皆が親しめるような風貌をし、それでいて底が見えない程に細部まで拘った作品を出し続けてきたのが、“人気ラッパー・PUNPEE”なのだ。今、世の中はどんどんとギスギスした方向に進んでいる。平面的で奥行きのないエンターテインメントが持て囃され、有名人には過剰な潔白を勝手に期待され、考えも表立って言いにくい空気感だ。勇気を持って露骨な表現をすれば、死角から批判・中傷の矢が常に飛んでくる昨今において、ここまでバランス感覚に長けたアーティストは稀有なのではないだろうか。浅く聴いても楽しめ、深く知ろうとする者には無数のメッセージがある。こんな優れたアーティストには〈紅白、勝手に期待〉してしまいます。 

PUNPEE『The Sofakingdom』

■斎井直史
学生時代、卒論を口実に音楽業界の色んな方々に迫った結果、OTOTOYに辿り着いてお手伝いを数ヶ月。そこで記事の書き方を教わり、卒業後も寄稿を続け、「斎井直史のパンチライン・オブ・ザ・マンス」を連載中。趣味で英語通訳と下手クソDJ。読みやすい文を目指してます。

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