PUNPEE『The Sofakingdom』レビュー:掘り下げるほどに無数のメッセージが散りばめられた作品

 2020年7月現在、ヒップホップドリームを叶えた国内のラッパーを問えばPUNPEEで異論は無いはずだ。悪いニュースばかりが飛び交う昨今、結婚の知らせは非常に喜ばしいことであった。しかし「元AKB48の秋元才加が一般男性と婚約」という(パンピー故の)誤報が流れたり、彼の大人しげな見た目やラッパーという肩書に野次が飛ぶ様子を見ると、ファンとしては少しもどかしい気持ちにもなった。ならば、7月1日にリリースされたEP『The Sofakingdom』のレビューにかこつけて、勝手に“人気ラッパー・PUNPEE”がいかに非凡なるアーティストなのかを紹介してしまおう。

PUNPEE『The Sofakingdom』

 彼の名前が最初に広まったのは、意外にもラップバトルの大会として当時頂点であった『UMB(ULTIMATE MC BATTLE)』の2006年東京予選であった。後にフリースタイルダンジョンの審査員などMCバトルのシーンを牽引する存在となるKEN THE 390を下し、東京代表となったPUNPEE。後のINHA戦での咆哮は、今では見ることのできない一面だ。その2年後、PUNPEEはAKAI主催によるビートバトル『GOLDFINGER’S KITCHEN 2009』の優勝も収める。補足するとAKAIとはエレキギター界におけるギブソンのような存在であり、ヒップホップのビート制作を象徴する機材であるサンプラー、MPCシリーズで世界的に知られるメーカーである。その大会の2カ月後、弟のS.L.A.C.K.(現:5lack)と友人であるGAPPERを率いたユニット、PSGでアルバム『David』をリリースした。これが今に至る日本語ラップの多様化を推し進めた1枚であることは間違いない。2000年代中盤以降、国内のラップシーンはメジャーヒットにも恵まれず、冬の時代にあった。ラップがJ-POPの常連化した揺り戻しで、暴力やドラッグが盛り込まれたハードコアなラップが多く出たのは事実であり、それが一般層を遠ざけた。しかしながらその時期のスリリングな世界で生きる者たちの音楽は、日本語ラップを世間が抱くイメージと比べて別格と言えるほどに豊かなものへと育てた。そうして人知れず成長していた日本語ラップのカッコ良さをそのままに、トピックの制限を取っ払ったアルバムが『David』であった。

 以降、PUNPEEは客演やプロデュースで数多の依頼を受け、厳しいヘッズたちも納得のいく作品を地道に重ねる中で、そのラップのスタイルも進化させていったと筆者は思う。初期はラッパーらしからぬ自身を卑下したユーモアが特徴であったが、彼の作品は徐々にハードなラップとは違うスリリングな展開も持ち味としていった。それは、現実がフィクションの世界とも通じてるかのような、映画的ストーリーテリングだ。これは自身が愛してやまない映画やアメコミから着想を得たものであり、マーべルコミックの悪役ドクター・ドゥームのマスクを被ったNYのラッパー、MF Doomからの影響でもあると自身のブログで振り返っているが、ラジオでは学生時代の辛かった一時期を乗り越えるための工夫として身についた視点でもあると語っていた。

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