NYで活動するピアニスト 泉川貴広が語る、J-POPとジャズのクロスオーバー 『Life Is Your Thoughts』で示した“日本人らしさ”

泉川貴広が語るJ-POPとジャズのクロスオーバー

「『こんな音楽があるんだ』と興味を持ってくれる人が増えたらいい」

ーー参加したミュージシャンのバックグラウンドも反映されているんですね。アルバムに参加している方々はジャーメインさんと同じく、普段から周りにいる人たちなんですか?

泉川:そうですね。結果的に歌がいっぱい入ってるんですけど、当初はピアノアルバムにしようと思ってたんです。

ーーそうなんですね。でも結果的に、ピアノがメインの曲は「Walk Alone」くらい?

泉川:そうですね。最初は「Walk Alone」みたいな曲を中心にしようと思ってたんですけど、たまたま制作の時期にボーカリストと話す機会が多くて、「歌わせて」みたいになって。「Close Again」という曲もそう。ナタリー・オリヴェリが歌ってくれたんですけど、もともとはインストにする予定だったんです。僕は彼女のバンドにも参加しているんですけど、リハのときに自分の曲を聴かせたら、「いいね。歌わせて」と言ってくれて。

ーーマヤ・ハッチさんをフィーチャーした「Who You'll Make Me Be」はどうだったんですか?

泉川:マヤは日本にいたときから一緒にやっていたんですけど、この曲はだいぶ前に彼女と一緒にJ-POPテイストのジャズの曲をつくろうというところから始まったんですよね。なのでこの曲だけ、少しテイストが違うんですよ。

ーーなるほど。「No Satisfaction」をはじめ、エレクトロ系のトラックを取り入れた曲も印象的でした。

泉川:テクノ、トラップミュージックですよね。この感じはずっと流行ってるじゃないですか。ブーンバップ、トラップの流れはずっとあるので、それを汲んだ曲も入れようと。いわゆるアメリカンポップスのなかで生きている人も、周囲にたくさんいるんですよ。有名なアーティストのツアーに参加したミュージシャンが、“出稼ぎが終わった”みたいな感じでニューヨークに戻ってくると、自分のライブでも流行りのトラップを試したりするんです。「ツアーの感じが抜けてないから、大目に見て」っていう感じなんですけど(笑)、僕もそれをライブで聴くと「こういうのもいいな」と思うので。そういう発想で作ったのが「No Satisfaction」や「Shigan」で、アメリカではすごく人気がありますね。

ーー「Shigan」のピアノにはビバップの影響が強く感じられて。それも泉川さんらしさですよね。

泉川:めっちゃビバップのピアニストですから。そこをきちんと出すのは大変でしたけどね。ジャズのピアニストがアメリカンポップスを引っ張ってきた、みたいな感じにはしたくなかったから。それはいろんな人がやっているし、自分がやることじゃないなと。ただ、ハードバップの仕事はないですけど(笑)。

ーーちなみにビバップ、ハードバップの入り口はどこだったんですか?

泉川:オスカー・ピーターソンですね。DVDの映像をたまたま見て、「何だこれ?!」と思って。僕、高校まではバンドでベースを弾いてたんですよ。レッチリとかが好きで。

ーーえ、そうなんですか?

泉川:はい(笑)。ロックこそが正義だと思ってる高校生だったので。当時はエリートになろうと思って勉強してたんだけど、挫折して。親に「勉強はやるだけやったんだから、好きなことをやってみたら」と言われて、音楽を始めたんです。仕事として成り立たせるためには、ピアノがいいかなと。その頃にオスカー・ピーターソンを知って、「ロックじゃん!」って思ったんです。しかも音楽のことを理解したうえでやってるみたいだし、「これだ!」って。

ーーでも、あんな超絶技巧のピアノ、マネできないですよね? 

泉川:弾けなかったですね。ビデオを1/8の速さで再生して、指の動きと鍵盤の位置を確認しながら、短いフレーズを1カ月くらいかけて練習したり(笑)。

ーーすごい(笑)。そういう背景だったり、ニューヨークに行ってからの変化も反映されていて。「Life Is Your Thoughts」というタイトルにふさわしいアルバムになりましたね。

泉川:ありがとうございます。自分のスタイルがない状態で作り始めたので、結果的にいろいろな要素が入ったアルバムになったなと。ミックスエンジニアには「おまえ、何がしたいんだ」って言われましたけどね(笑)。次のアルバムはもっと統一したスタイルの作品にしたいと思ってます。

ーー今後の活動については?

泉川:うーん……。まず、アルバムを出すことしか考えてなかったんですよ。まずは制作して、その後でいろんなレーベルに連絡を取って。150社くらい送って、連絡をくれたのが<Ropeadope>だけで。たまたまニューヨークで<リボーンウッド>(日本の発売元レーベル)の人に会って、日本でも出せるようになったっていう。個人的にはジャズが好きな人だけではなくて、そこまで音楽に詳しくない人にも聴いてほしいんですよね。少しでも「こんな音楽があるんだ」と興味を持ってくれる人が増えたら、音楽業界自体が盛り上がると思うので。僕の動きによってーー僕がBIGYUKIさんのおかげで活動しやくなったみたいにーー下の世代のミュージシャンがやりやすくなったら、最高ですよね。

泉川貴広『Life Is Your Thoughts』

■作品情報
泉川貴広『Life Is Your Thoughts』
6月24日(水)発売 ¥2,727(税抜)

<収録曲>
01.Introduction
02.No Satisfaction
03.Life Is Your Thoughts feat.Jermaine Holmes
04.Higan
05.Trigger feat.Syl DuBenion
06.Shigan feat.Parker McAllister, Joe Blaxx
07.Walk Alone
08.Moving Up feat.Bajah
09.Interlude feat.Parker McAllister, Marshall York
10.Close Again feat.Natalie Oliveri
11.Who You_ll Make Me Be feat.Maya Hatch
12.The Side To Give feat. Maya Hatch (BonusTrack)

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