振付から紐解くJ-POPの現在地 第8回:CRE8BOY(後編)
振付ユニット CRE8BOY、“キャッチー”を大事にする理由 平手友梨奈、野口衣織らパフォーマーとしての魅力にも言及
CRE8BOYが目指す“日本ハッピー化計画”
――“キャッチー”というキーワードに戻るんですが、CRE8BOYさんの振りって、まったくダンス経験がない人でもついつい真似したくなるところがありますよね。
山川:そこなんです。ダンス人口を増やしたいんですよね。
秋元:僕たちはダンサーを増やしたいわけじゃないんです。見てくれた人がナチュラルにダンスを楽しんでくれれば、それが一番“振付師冥利”に尽きるなという感じです。日本人っておとなしいじゃないですか、たとえば作品に関する打ち合わせでも座りっぱなしだったりして。でも振付の話をしている時に相手が「こういう感じで」とか少し動いてくれるだけでも、楽しいと思ってやってもらえているのならそれが一番だなと思うんですよ、キャッチーの醍醐味はそこなので。かくいう僕らもキャッチーという言葉の解釈で迷子になることはあるんですが(笑)、その振付に触れて、誰かがそれに対して話したり、身体を動かしたりしているときに、その人の中で幸せホルモンがちょっとでも出ていたらいいなというのはありますね。
――J-POPの中でのキャッチーの定義はまさにそこかもしれませんね。
秋元:それが“日本ハッピー化計画”ですよ。
山川:大きく出たねえ(笑)。
――そういう思いがTikTokみたいなところで短く切り取られた動画でも伝わっているんじゃないかと思うんです。あとはみなさんでも「振付けてみた」動画を上げていらっしゃいますけど、ダンサーとしての活動も並行されているんですか?
山川:ごくまれにそういうオファーが来る時もありますが、パフォーマンス集団ではなく、あくまで振付集団としてできるところまでやりますという感じです。あの「踊ってみた」は定点の振付動画を見たい人もいるんじゃないかということで、ファンの方がライブの時にマネして一緒に踊ってくれたりするような楽しいポイントを作れたらいいなという主旨の見本動画みたいなものなので。
――お二人が今注目されている振付師やダンサーの方はいらっしゃいますか?
秋元:Phillip Chbeeb(参考:Instagram)という振付師がいるんですが、ヤバいです。もはやペアダンスって呼んでいいのかもわからない域で、Instagramで載せている動画がものすごく面白いんですよ。想像がつかないような動きをしてきます。
山川:すごく無秩序なようでいて、でもその流れが全部きれいに繋がっているんです。
秋元:相当体幹を鍛えていないとできないような動きで、形も面白いし流れもすごい。たとえば3人で床に寝そべって踊っている動画(参考:Instagram)もあって、そういうアイデアも含めていい意味で相当イカれてるなと思うんですよね。
――やはりインプットにはInstagramを活用されていますか?
山川:そうですね。僕はよくPARRI$(Parris Goebel)のを見てます。BIGBANGや2NE1などYGエンターテインメントのアーティストの作品でも知られていますけど、一番有名なのはジャスティン・ビーバーの「Sorry」で一気に火が着いたんですよね。
秋元:あと理想的な作品ということで言うとAKBの「願い事の持ち腐れ」です。僕的にはAKBの今までのすべての振付の中で一番いいなと思っていて。あれは名振付ですね。
――センターが松井珠理奈さんと宮脇咲良さんの踊れる2人というのもありますね。
山川:僕もあの曲が一番いいと思う。歌割を見せるという点でもすごく上手くできていて流れが本当にいいのと、サビの振付も面白くて曲の世界観に合っているので、完璧だなと思いました。
――なるほど。今後一緒に仕事してみたいアーティストやタレントはいますか?
秋元:最近はずっと同じことを言い続けているんですけど、King Gnuさんとやりたいですね。彼らの曲が、めちゃくちゃ踊れるんですよ。踊りたくなる曲でアートセンス的な部分もすごいですし、面白い表現ができそうだなと思うので、ぜひ一度一緒にやってみたいなと思っています。
山川:僕もほぼ毎晩家でKing Gnuで踊ってますね。かぶったな(笑)。
秋元:あと、米津玄師さんもいつかご一緒したいアーティストですね。
――さっき「集団行動」の話が出ていましたが、米津さんがMVの中で踊ったりされているようなコンテンポラリーというか、不規則な動きもお好きなんですか?
山川:どっちも好きです。集団行動的なものも、感情をバーンと表に出すようなものも。
秋元:わりと極端に、両方好きかもしれないですね。
――そういう意外な方との共演も今後見られるかもしれないと期待しています。
秋元:そうですね、言ったらたぶん叶うんじゃないかなと思うんで。一緒にやりたいです!
山川:僕はもう一人、椎名林檎さんですね。僕の中で「林檎さんとあのダンス、めっちゃ合うでしょ!」っていうジャンルがまだ組み合わさっていないのが、すごくもどかしくて。
――ちなみにどういうダンスを思い描いているんですか?
山川:社交ダンス的なニュアンスの、ボールルームダンスです。前に阿波踊りも合うなと思っていたんですけど、以前にライブで阿波踊りはされていて。しかも本人とビッグバンドが演奏して、その前を阿波踊りの人たちが囲むっていう画力のヤバさで、それを見た時に「キーッ、俺もやりたい!」と思ったんですけどね(笑)。彼女の品があるところがボールルームダンスとすごく相性がいいんじゃないかと思っていて、そういうものを提案できたらいいなと思っています。
――普段は歌って踊るアーティストではない方も、振付師の方とのコラボで生まれる化学反応を楽しんだり、面白いと思うんじゃないかと思います。
山川:僕らの振付ってわりと可愛い感じに見られがちではあるんですけど、他にもいろいろやりたいことが、死ぬほどあるんですよ。
――これまでお話を聞いてきて、お二人の意見が合致しているポイントが多いと思ったんですが、意見がぶつかったりすることはないんですか?
山川:基本的にクライアントから振付のテーマやコンセプトが必ず降りてくるので、それに沿っているかどうかという話し合いはするんですけど、そこで意見が食い違って「そうじゃねーだろ!」みたいな展開にはならないですね。あくまでそのコンセプトがある中で、話し合う感じでやっています。
――振付師という職業が注目され始めてきたここ10年くらいの流れの中でも、振付師のユニットというのは珍しいと思うのですが、CRE8BOYさんのチームとしてのルールみたいなものはありますか?
秋元:“丁寧に、優しく、基本ハッピーに”というのが絶対的にベースにあると思います。たまに若い子たちの振付のときに「厳しく怒ってください」と頼まれることもありますけど、基本的にはみんなが楽しく踊れるようにというのがベースにあります。
山川:あと振りを作る上で1人で作るということは絶対にしないですね。必ず複数人で、どうしても現場が割れちゃう場合もありますけど、そんな中でも3~4人以上で作るようにはしています。
――振りを付けるプロセスにおいて、必ず誰かと話し合うということは決まっているんですね。
山川:まず作る前に「こういう風に進めるよ」という流れだけを決めて、だいたい誰かがメインで作ったものをみんなでブラッシュアップしながらまとめていく形が多いですね。そうすると暴走が起きないといいますか、いろんな角度から見てこういう風にした方がいいという意見を組み合わせた振付になるので。
――J-POPシーンの中でも振付に対する注目度が年々高まってきていますが、当事者としてその実感はありますか?
秋元:そうですね。いろんなところで徐々に、振付師のクレジットも出してもらえるようになって……。歌番組やYouTubeでも最初の頃は全然触れられていなかったので、時代が変わったなと思います。
――日本のダンスシーンの中での振付師という仕事の今後をどんな風に見られていますか?
山川:自分の色を出したい人と、クライアントさんの意見を汲んだ上でそれに沿ったものを作りたい人という感じで、シーンが二極化してきそうな予感はします。どちらもありだと思うんですが、前者の方は“見つけてもらう”感覚が強いのかな。これまでの振付師の人たちはわりと後者が多いと思うんですけども、時代的にもSNSだったりで「自分はこういうのを作ってますよ」とアウトプットできる人が増えたので、そういう人たちも見つけてもらいやすい時代なのかなと。
――その二極化でいうとCRE8BOYさんはどちらのスタンスですか? クライアントの要望にも応えつつ、でもCRE8BOYさんっぽさもちゃんとある作品になっているので、個人的にはバランスがいいなと思っているんですけども。みなさんがテーマにしている“魔法のスパイス”が効いている振付というか。
秋元:まさに今言って下さったようなことを言われたことがあって「こちら(クライアント)の意見も組みつついい感じの味も出してくれるから、すごいバランスがいいよね」という言葉がすごく嬉しかったんですよ。それを僕らの持ち味にしていきたいですね。
山川:励みになります!
■CRE8BOY (クリエイトボーイ) プロフィール
高いダンススキルと多彩な経験を生かし、これまでにない振付・作品を創り出すことを目的に、2012年、振付ユニット「CRE8BOY(クリエイトボーイ)」を結成。
2017年、アジア最大級の広告賞「Spikes Asia 2017」において、振付したHaru.Robinson(ハル・ロビンソン)「Identity」MVが、Music部門のBRONZE SPIKEを受賞。
2019年、振付した日向坂46の1stシングル「キュン」が、初週売上47.6万枚を記録し「女性アーティストの1stシングル初週売上枚数」歴代1位に。サビのダンスは「キュンキュンダンス」と名付けられ話題になる。MTV VMAJ2019にて、最優秀振付賞受賞。
「第61回輝く!日本レコード大賞」にて日向坂46「ドレミソラシド」が優秀作品賞を受賞。
「遊び心を振付ける」のポリシーのもと、心に響き、思わず真似したくなる、ひと目みるだけで忘れられない演出・振付を提供。
CMやミュージックビデオの振付・ポージング等、あらゆる分野において活動中。
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