振付から紐解くJ-POPの現在地 第8回:CRE8BOY(前編)
日向坂46ら手がける振付ユニット CRE8BOYに聞く、大人数への作品創作で意識するポイント
日向坂46の振付 TAKAHIROから受け継いだ点とCRE8BOYらしさ
――日向坂46の「キュン」のサビで“ヒ”を作ったり、NMB48の「ワロタピーポー」のサビでWを作る“ワロタポーズ”など文字を作るのが印象的です。
山川:でも、日向坂の振付にはもともとそういう色があるんです。
秋元:(日向坂46の)ひらがなけやき(けやき坂46)時代に振付を担当されていたTAKAHIROさんがこういうアイデアを盛り込まれていたので、僕らもところどころでそのエッセンスを入れたりしています。
――バトンを引き継ぐような感じで。
山川:そういうお話はまだできていないですが、ぜひそこについてTAKAHIROさんと話したいと思っています。過去作品をどういうイメージで作っているのかという解説を記事とかで読むことはありますが、ひらがなけやき時代からのファンの方々が「これこれ!」というようなところをちゃんと残しつつ、バトンをも引き継げたらという気持ちがあるので。僕ら自身でもひらがなけやき時代のMVやライブ映像を相当見て研究してきて、TAKAHIROさんが出したかった色が無意識のうちに刷り込まれている可能性もあるかもしれませんね。
――グループの名称が変わったタイミングで、振りについてもイメージを変えようという意図があったのでは? と思っていたのですが、その辺りはどう捉えていますか?
秋元:グループが大きな変化を迎えたタイミングで僕たちにお話をいただいたということで、やっぱり僕たちならではの強みを出していって日向坂のダンスのイメージを付けられたらという気持ちはあるんですよ。なので、ひらがなけやき時代をあえて引きずっていこうという風にはまったく思っていないですね。以前の曲でもちろん可愛らしい曲もありますけど、「キュン」みたいな振りはないんですよ。「キュン」「ドレミソラシド」とめちゃくちゃキャッチーな曲が2曲続いたので、振りについても「全力でキャッチーを狙いにいこう」「ダンス流行らせよう」というメッセージを受け取ったと自分たちは思っています。
山川:曲が上がった時点で「キャッチーなのお願いね」っていう言葉が聞こえてきてしまうぐらいに(笑)。
秋元:ホントに“みんなで踊りたいよ感”がすごくあったよね。
――具体的にCRE8BOYらしさを日向坂のダンスに反映したポイントというと、どの辺になりますか?
秋元:僕たちは構成をものすごく凝るんですが、基本的なところでは“ダンスを通して歌割を見せる”というのがこだわりです。歌っている子たちが目立つように、なおかつその歌詞にあるような佇まいで……と。あと日向坂には“ハッピーオーラ”というグループのテーマがあるので、それを増幅させるために意識していることとして、パフォーマンス中にメンバー同士の目が合いやすいポイントをたくさん作ること。人って目が合うと自然と笑顔になるようになっているから、ライブ中とかに目が合うと勝手にお互いが笑ってしまうじゃないですか。もちろん「こんなに好きになっちゃっていいの?」とかはシリアスなイメージの曲なのであえてそういうポイントを多くは作っていませんが、元気な曲、明るい曲に関してはできるだけ目線を合わせられるようなシーンを入れ込んで、ハッピーオーラを見せられるような構成を考えて作っています。
――日向坂のみなさんはMVやライブ映像でもすごく表情が豊かだなと感じますけど、その辺りはきっと振付に影響されている部分もあるんでしょうね。
山川:たとえばメンバーの誰かが1人で撮影しないといけない時にも人と人が繋がっている感じを出してほしくて「本当はカメラしか目の前にいないけれども、その先にメンバーや友達がいるつもりで踊ってほしい」というようなことを、いろんなタイミングで伝えるようにはしていますね。
――デビュー時から日向坂の代表曲はもちろん、ステージングの振付などもされていますよね。これまでの彼女たちの歴史を見てきて、パフォーマンスの成長ぶりはいかがですか?
秋元:めちゃくちゃ上手になっていると思います。初めて会ったのが「JOYFUL LOVE」の振付でしたけど、そこから考えるとみんなシンプルにダンスが上達しています。
山川:パフォーマンスへの集中具合いというか、「ダンスをやるぞ!」というスイッチが変わる瞬間が見えるようになりました。なのでいろんな面で急成長している印象ですね。
――「ソンナコトナイヨ」のMVを見て、パフォーマンスの勢いはもちろん、今自分たちがやっていることに対する自信みたいなものを感じました。
山川:これまでは振り入れが終わって本番までの間に、「もうちょっとリハしたいけど、大丈夫かな」と少し心配に思う部分があったんです。でも「ソンナコトナイヨ」は振り入れが終わったタイミングで、けっこう仕上がってるなと感じるくらい踊り込めていて。振り覚えが速くなっただけじゃなく、自分たちで「どういう雰囲気にしよう」というところまで作れるようになって、早い段階で完成度を高くできるようになってきたなと感じました。
――今やテーマにしてきたハッピーオーラだけじゃない魅力も垣間見えるようになってきたと思うんですが、日向坂の色が出てきたなと感じたのはどの辺りですか?
山川:僕は「ドレミソラシド」を去年の『日本レコード大賞』でやった時に「すごいプロ集団になったな」と感じましたね。
秋元:でもそれが「ソンナコトナイヨ」の振り入れと同時期くらいなんですよ。
山川:あと佐々木久美さんがライブのMCで言っていたことなんですが「私たちは(イメージカラーが)空色だから何色にもなれる」という言葉に「なるほど!」と思わされた部分があって。自分の中でもハッピーオーラというワードからポップな印象だけを彼女たちにイメージ付けていたところがあったんですけれども、本人たちが“何色にでもなれる”と言っているのであれば、僕らもそれに対してお手伝いができるように、曲や場面によってはカラーをガラッと変えてしまうのもいいのかなと。これは僕の個人的な考えなんですけど、たとえばハッピーは必ずしも晴れの日にあるわけじゃなくて「雨の日に外を見ながらちょっとコーヒーを飲む休日」みたいなものにも含まれていたりするじゃないですか。見方を変えれば幸せはいろいろなところに見つけられるものだと思うので、全部が全部“明るくて元気!”みたいな形でなくても、たぶん日向坂のメンバーがそれを表現してくれることによって、また新しい幸せの世界観を構築できるんじゃないかなと思います。
――ご本人たちの伸びやかな成長をサポートするというか。
山川:そうですね。僕らができるのは振付やステージ上でのパフォーマンスに関することだけなんですけれども、作品の背景が見えるように、振り入れの中でも「ここはこういうシチュエーションですよ」「こういう気持ちの持ち様ですよ」と例えて伝えるようにしています。そういう機会に動きの1つずつに色を付けてあげて、彼女たちがその作品の主人公になって皆さんにお伝えすることができたらいいかなと。
秋元:僕も、見え方としてキャッチーであるということと同じくらい“感情を振りに入れる”というか、気持ちの面をどう持っていくかが作品を披露する上で大事だと思っているので。たとえば「歌やダンスを始めた頃、歌と踊ることがとにかく大好きだったことを思い出して、『ドレミ』に当てはめてパフォーマンスしてごらん」という風に、踊る中で少し気持ちを持っていってあげるとか。でも「こんなに好きになっちゃっていいの?」みたいな、ちょっと影のある雰囲気もメンバーのみんなは好きなんですよ。一人一人と「この曲はどんな人がこういう風に思っていると思う?」とか話すと、潮紗理菜さんや佐々木美玲さんとかは楽しそうにリアクションしてきたりする。そういう会話があると結果的にパフォーマンスのときの表情にも出てくるので、やっぱり大事な時間だなと思いますね。
■CRE8BOY (クリエイトボーイ) プロフィール
高いダンススキルと多彩な経験を生かし、これまでにない振付・作品を創り出すことを目的に、2012年、振付ユニット「CRE8BOY(クリエイトボーイ)」を結成。
2017年、アジア最大級の広告賞「Spikes Asia 2017」において、振付したHaru.Robinson(ハル・ロビンソン)「Identity」MVが、Music部門のBRONZE SPIKEを受賞。
2019年、振付した日向坂46の1stシングル「キュン」が、初週売上47.6万枚を記録し「女性アーティストの1stシングル初週売上枚数」歴代1位に。サビのダンスは「キュンキュンダンス」と名付けられ話題になる。MTV VMAJ2019にて、最優秀振付賞受賞。
「第61回輝く!日本レコード大賞」にて日向坂46「ドレミソラシド」が優秀作品賞を受賞。
「遊び心を振付ける」のポリシーのもと、心に響き、思わず真似したくなる、ひと目みるだけで忘れられない演出・振付を提供。
CMやミュージックビデオの振付・ポージング等、あらゆる分野において活動中。
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