The 1975『仮定形に関する注釈』が日本人にも響く理由 「物言うべき時代」への変化から考える
『仮定形に関する注釈』は新型コロナウイルス感染症に伴う世界的な混乱の中でリリースされることになったわけだが、ウイルスとの戦いの一方で、現在の状況は社会の新たな価値基準を必要としていて、世界と、それぞれの国が抱える問題点を改めて浮き彫りにしている。もちろん、ここ日本も例外ではなく、文化・芸術に対する支援の問題に加え、著名人の政治的発言の是非が話題となり、それに伴うジェンダーの問題や、SNSにおける誹謗中傷といった問題も可視化されていき、大きな議論を呼んでいる。
そんな中で強く感じるのが、まさに「物を言うべき時代」への変化だ。これまでの日本は「沈黙は金」という美徳も強かったが、「黙ることは現状を認めることになる」というプレッシャーがこれほど強くなったのは初めてではないだろうか。ここではその是非について掘り下げることはしないが、著名人がSNS上で様々な意見を発信するようになったのは事実であり、だからこそ、「物言うヒーロー」であるThe 1975の新作は日本の現状にフィットし、これまで以上に強く響くのだ。
もちろん、こうした状況は様々な摩擦を引き起こしてもいて、中でもSNS上の誹謗中傷の問題は日を追うごとに深刻さを増し、その解決には時間をかけて一人ひとりの意識変化を促していくしかないように思う。前作でもSNS時代のコミュニケーションを主題としていたThe 1975は、本作でも「Frail State Of Mind」や「I Think There's Something You Should Know」などでメンタルへルスの問題に言及。〈いつだって僕が抱えているのは脆い心〉〈監視されている気がして、夢も見られない〉と、マシューが同時代を生きる一人の青年として等身大の言葉を綴っていて、こうしたフラジャイルな側面にも非常に惹かれる。
22曲80分超えの大作である新作を締め括るのは、マシューの父親であり、著名な俳優でもあるティム・ヒーリーが、かつて産後鬱に陥ったマシューの母親のために作った曲だという「Don’t Worry」と、前述の「Guys」。「これからは物を言うべき時代であり、現在の困難を乗り越えて、価値観をアップデートしなければならない」という強いメッセージの背景には、「まず自分の側にいる大事な人たちを愛し、守ることから始めよう」という親密な想いがある。この重層的な作品性が、アルバムをさらに魅力的なものにしている。
■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。
■リリース情報
The 1975
NEW ALBUM 『仮定形に関する注釈』(原題:Notes On A Conditional Form)
2020年5月22日(金)リリース
UICP-1202/¥2,500(税別)
解説・歌詞・対訳付/輸入盤・デジタル配信:同日発売
配信リンク
<TRACK LISTING>
1. The 1975 / The 1975
2. People / ピープル
3. The End (Music For Cars) / ジ・エンド(ミュージック・フォー・カーズ)
4. Frail State Of Mind / フレイル・ステート・オブ・マインド
5. Streaming / ストリーミング
6. The Birthday Party / ザ・バースデー・パーティー
7. Yeah I Know / イエア・アイ・ノウ
8. Then Because She Goes / ゼン・ビコーズ・シー・ゴーズ
9. Jesus Christ 2005 God Bless America / ジーザス・クライスト2005ゴッド・ブレス・アメリカ
10. Roadkill / ロードキル
11. Me & You Together Song / ミー・アンド・ユー・トゥギャザー・ソング
12. I Think There’s Something You Should Know / アイ・シンク・ゼアズ・サムシング・ユー・シュッド・ノウ
13. Nothing Revealed / Everything Denied / ナッシング・リヴィールド/エヴリシング・ディナイド
14. Tonight (I Wish I Was Your Boy) / トゥナイト(アイ・ウィッシュ・アイ・ワズ・ユア・ボーイ)
15. Shiny Collarbone / シャイニー・カラーボーン
16. If You’re Too Shy (Let Me Know) / イフ・ユーア・トゥー・シャイ(レット・ミー・ノウ)
17. Playing On My Mind / プレイング・オン・マイ・マインド
18. Having No Head / ハヴィング・ノー・ヘッド
19. What Should I Say / ホワット・シュッド・アイ・セイ
20. Bagsy Not In Net / バグジー・ノット・イン・ネット
21. Don’t Worry / ドント・ウォーリー
22. Guys / ガイズ
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