「コロナ以降」のカルチャー 音楽の将来のためにできること

10-FEET TAKUMAが語る、コロナ以降の『京都大作戦』とライブハウス 「いいものに変わる日まで腐らず生きていく」

 コロナ禍における音楽文化の現状、そしてこれからについて考えるリアルサウンドの特集企画『「コロナ以降」のカルチャー 音楽の将来のためにできること』。第2回は、『京都大作戦』を主催する10-FEETより、TAKUMA(Vo/Gt)へのインタビューを行った。ライブやイベントの延期・中止が相次ぐ中で、本来なら7月4日、5日に開催予定だった『京都大作戦2020〜それぞれの一番 目指しな祭〜』も中止が発表された。過去にも災害による中止や中断、それに伴う対策強化を積み重ねてきた歴史があるとはいえ、今回のパンデミックは本当に予測不能で頭を悩ませる出来事だっただろう。どのような過程で決断に至ったのか、これからもフェスやライブハウスで楽しむために何をすべきなのか、10-FEETの今後はどうなっていくのかーー様々な角度から、音楽とライブの未来について率直な想いを伺った。出口の見えない日々でも、決して希望がないわけではない。ロックバンドを愛するすべての人にじっくりと読んでほしい。(5月6日取材/編集部) 

「いろんな想いも木っ端微塵だった」

ーー様々なイベントが中止になっている最中ですけど、今はどのように過ごしていますか。

TAKUMA:曲を作ったりしてますね。あとはあまりできてなかったブログを更新したりとか。こもって作業すること自体は嫌いじゃないんで、熱中してる時は自粛ってことを忘れられる瞬間もあるんですけど、やっぱりふとした時に窮屈だなって思ったり、ニュースを見てるだけでガクッと落ちてしまう瞬間はどうしてもありますね。ここまでくると、みんなのライブや音楽に対する情熱とか記憶が薄れていくんじゃないかなと思うことすらあるんです。それくらい衣食住のストレスが多かったり、生活に制限がありますから。音楽やライブが好きな人はいつまでも情熱を持ってくれてるやろうし、僕もそうやって信じてるんですけど、もしかしたらライブがないことに慣れたり、記憶が薄れたりするのかもしれないって思うと、「やっぱりライブっていいよな」って再燃してもらえるように、オンラインでもできる限りの熱量を伝えていこうって思ってます。

ーーTAKUMAさんも弾き語り動画をアップしたり、映像コンテンツをたくさん載せていると思うんですが、そういった配信ライブへの感触はいかがですか。

TAKUMA:今までは機材車に乗って全国を回りながら、寝不足で体が痛くて、飯もあんまり食えないスケジュールとかでツアーを続けてきたので、やっぱりそういう分だけ人に伝わったり刺さったりしてきたんやっていう経験と自負と実感がありますから、なかなかオンライン配信に目がいかなかったんだけど、今は自分自身もいろんなライブ配信を見ていて救われたり、現場でやってた感覚を思い出したりすることもあるんで、前よりも親しみがあるというか。現場の熱量に勝るものはないと思うんですけど、「配信だから伝わらない」とは一概には言えないのかなって、今やから言える部分もあるかなと思いますね。

ーーそういった状況の曲作りでは、どんなことを考えていますか。

TAKUMA:激しい曲でもゆっくりな曲でも、楽曲ができる時ってストーリーがあると思うんですよね。なんでそういう気持ちになったのかを掘り下げていったら、単純にずっと激しい曲をやってたからゆっくりな曲を作ったのかなとか、コロナで自粛が続いてたから外に出て大暴れしてるような曲を作ったのかなとか、どの曲もストーリーを感じて聴いてくれる人が多いと思っていて、自分もそうなんです。大好きなMetallicaを聴いててもそういうことを感じるし、オンライン云々っていうのを一旦置いといたとしても、こういう寂しい時に音楽を聴いたらすごく沁みるし、それがその音楽とのストーリーになると思うんです。大変な時期に音楽をやったら残るんじゃないのっていう打算的なことよりも、今は音楽をしたい、音楽を聴きたいという欲求がすごく強いなと純粋に感じてるんで、YouTubeとか、できることの中からより良く伝えられる方法を探し出して音楽やりたいって思ってますね。「あの時はしんどかったな。お疲れさん!」って言い合ってどこかの場面で歌えるようになったら、それはそれで嬉しいですし、僕自身もしんどい時期に作った曲が思い出深いものになったりしてきましたから、曲のストーリーが続いていったらいいなと思います。

ーーわかりました。では『京都大作戦』の話も伺わせてください。今年の開催中止がHPやSNSで発表されたのが4月24日でした。本当に断腸の思いがあっての中止の決断だったと思うのですが、発表のプロセス自体はどういう流れで進んでいったんでしょうか。

TAKUMA:完全な中止にするのか、それとも部分的に何かやろうとするのか、いろんな話はあったんですけど、最終的にはいろんな想いも木っ端微塵でした。音楽イベントだけでなく『京都大作戦』の日程より後のイベントとか、より規模の大きいイベントもどんどん中止になっていく中で、「中止だけはやめてください」「せめて延期に」「なんとか部分的にも開催してください」とか、想いのあるありがたい意見もたくさんもらったんですけど、「おい、まだやろうとしてんのか」「他のイベントが中止なのにできると思ってんのか」とか、そういう意見も出てくるわけで......コロナウイルスが命に関わる病気やから当たり前なんですけどね。そんな中でも、周りの意見や世の中の動向だけで判断せず、知恵も勇気も出し合ってちゃんと自分たちで決めていきたいので、なんとか開催できないかをメンバーもスタッフも全力で話し合ったんですけど、日が経つごとにどんどんニュースの内容が変わったり、大きいイベントとか友達のイベントが中止の発表をしたり、どんどん状況が変わっていってたので、いろんな理由が重なって無理かなという判断になっていきました。

ーー出演予定だったミュージシャンやライブ関係者からの反応はいかがでしたか。

TAKUMA:Dragon Ashの建志(Kj/降谷建志)からはすごいスピードで返信が来ましたね。僕らはスタッフ同士も仲良いし、情報出しの関係もあるんで先に窓口のスタッフさんに伝えてたんですけど、そこから建志も聞いてくれたらしく、「もう知ってんのか!」っていうタイミングで連絡くれました。「これは仕方がない。また来年一緒に頑張ろうよ」って言ってくれたのは嬉しかったな。でもね、今回はあまりにも中止要因が圧倒的すぎて、悔しいっていうよりも手に負えなかった感じなんですよ。もちろんめちゃくちゃ悔しいですけど、みんなの感覚としてもどうしようもなかったというか。

「ライブハウスはバンドマンを育ててくれる場所」

ーー主催者としては『京都大作戦』中止によって今一番頭を悩ませてるのはどういう問題でしょうか。

TAKUMA:ブログにも書いたんですけど、自然災害じゃなくて、疫病による中止っていうのは保険適用にならないんですね。その損失って想像できないような金額やったりするし、もっと大きいイベントや、準備や設営が完了しているイベントやったら何億円もの損失だと思うんです。仲間がやってるライブハウスのイベントやツアーとかでも何千万もかかったりしているレベルなので。ただ、例えばフェスやったら、グッズ販売とかで少し補填を効かせられるし、認知度と規模が大きい分、そういう情報が伝わる分母も大きいと思うんですよ。それでもしんどいことに変わりないんですけど、やっぱり周りを見た時に、ライブハウスの方が圧倒的にダメージが大きいというか。フェスって、Tシャツとかグッズを買うことも、ライブの次に醍醐味の一つになってるものやと思うんですけど、ライブハウスに行ってもそのライブハウスのTシャツとかグッズを買う場所だっていう認識がそこまでないと思うんですよ。クラウドファンディングもあると言えばありますけど、ライブハウスってなかなか補填を効かせられる手段が少ないんですよね。だから『京都大作戦』の損害どうこうより、ライブハウスの方に意識が行ってることが多いかもしれないです。

ーーなるほど。

TAKUMA:ライブハウスの人たちって何かを売って儲けるというよりは、すげえライブを作るプロフェッショナル集団だし、そこにこだわりを持ってる人たちだから、こういう時にリスクを背負うことになってしまうというか......そもそもライブハウスは街中にあることが多いんで、家賃がすごく高いケースがほとんどで、人件費もありますから、日頃調子いい時でもそんなにガッポガッポ儲けてるわけじゃないんですよ。それでもやるっていう気合の入った人らが元々ライブハウスをやってくれてるんで、僕らはそういうところに育ててもらって恩恵を受けてるなってすごく思うし、何かできへんかなって毎日模索してます。ほんまにすごいところ、もう道場なんですよね。男塾みたいなところだから、バンドやってる人からしたら学校と同じぐらい大事な場所ですし、そんな人らがやってるライブハウスがないと、こんなにバンドマンがたくさんフェスに出れるようになってなかったと思うんで。

ーー本当にそう思います。中には、家にいても曲を聴くことができるから、ライブハウスがなくても困らないっていう意見も一定数あると思うんですよ。でも、ライブハウスってただ単にでき上がった曲を披露する場所じゃなくて、若手アーティストが育っていく場所だったり、曲が生まれるために必要不可欠な場所だと思うんですよね。今家で聴いてるその曲も、今好きなアーティストも、ライブハウスがなかったら生まれてきていないかもしれないっていう、そういう認識が世の中に意外と少ないんじゃないかなと思っていて。ライブハウスがないと音楽は生まれてこないっていうことがもっと理解されたらいいなって、お話を聞いていて思いました。

TAKUMA:本当にそうやと思います。美味しいお米もね、素晴らしい農家がいるから食べられてるわけで。ライブハウスって、ほんまにそういう風にバンドマンを育ててくれてる場所なんです。そういうところから出てきたすごいバンドを見て、次の世代が続いてきて今があるわけですし。応援したくなるようなライブハウスのストーリーをもっと伝えていけたらいいんですけどね。

ーーライブハウスが続いていくために、TAKUMAさんは今どんな施策が必要だと感じますか。

TAKUMA:グッズ販売とか投げ銭ライブもいいと思うんですけど、ライブハウスのスタッフもバンドマンも、ビジネスをやっていく上でお金だけを追求している人ってそこまでいない気がするんですよね。まずはお金に着目しないような、すっげえもんを作ろうとしている人がいるから素晴らしいアーティストが輩出されてきてるわけであって。だから、こういうお金がなくなってピンチになった時に、上手いことぽんぽんアイデアが出る人って意外といないんで、そういう分野で活躍してる人に入ってコンサルティングしてもらうだとか、ウェブやオンラインに詳しい人も入れて、思いもよらぬシステムとかインフラを作っていくとか、そういう意見にももっと耳を傾けていった方がいいんじゃないかなって思うことはあります。

ーーこれまでのライブハウスの常識では考えられなかったことも必要になるかもしれないと。

TAKUMA:まあこういう進言って難しいんですけどね。一番理想的なのはやっぱり音楽人同士だけで、名案を出してやっていけたらいいなとは思うし、そういう人やったらみんながライブハウスから足が遠のくようなプランを立てないと思うんですよ。そんなこととっくにやってるよって言われるかもしれへんけど、それくらい根本的なところから「その発想なかったな!」って思えるような叩き台をたくさん用意して、知恵を出し合った方がいいんじゃないかなって思います。「最後には現場のライブが勝つから!」って思う人がそういうことをやっていったら、いい手法を見つけてくれるんじゃないかな。

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