Liturgy、Trivium、THE冠、Vader……コロナ禍を吹き飛ばすメタル/エクストリームミュージック界必聴の7作

THE冠『日本のヘビーメタル』

THE冠『日本のヘビーメタル』

 トゥーマッチさでは日本のメタル界も負けておりません。冠徹弥(Vo)によるTHE冠の最新アルバムのタイトルは、そのものズバリ『日本のヘビーメタル』。「にほん」ではなく「にっぽん」、「ヘヴィメタル」ではなく「ヘビーメタル」という読み/表記からは彼ならではのこだわりが伝わってきます。

 ストロング系アルコール飲料について歌った「ZERO」やSNSでの炎上がテーマの「FIRE STARTER」など時事ネタを含む歌詞は日常に根付いたものがあり、思わず共感してしまうのでは? と同時に、鳴らされているサウンドや楽曲そのものは、HR/HMリスナーなら自然と体が動き出す純粋なメタル。ここ最近、人間椅子が海外で高く評価されていますが、信念を持って続けた音楽こそが“最先端”と呼ぶに相応しいのであり、本作で鳴らされている楽曲は(オープニングナンバー「日本のヘビーメタル」からの引用になりますが)〈最低で最強なミュージック〉であると同時に〈日本の真っ当なヘビーメタル〉なのだと。そんな「何ものにも揺るがない」強い信念は、冠と同い年の筆者にとって尊敬に値するものであり、今作は最高にリアルに響く1枚。こんなご時世だからこそ、本作を爆音で聴いて自分自身を鼓舞したいものです。

THE冠 『日本のヘビーメタル』トレーラー 4月29日発売!

 H.E.R.O.『Bad Blood』

H.E.R.O.『Bad Blood』

 昨年4月に1stアルバム『Humanic』でデビューしたばかりのH.E.R.O.はクリストファー・スティアネ(Vo/Gt)、アナス“アンディ”・キルケゴール(Dr)、ソレン・イテノフ(Gt)からなるデンマーク出身のハードロックバンド。同郷のDizzy Mizz Lizzyのサポートアクトを通じて知名度を上げ、日本デビュー前に2018年11月のイベント『HOKUO LOUD NIGHT』で初来日を果たしたほか、2019年1月のスラッシュ(Guns N' Roses)来日公演でサポートアクトを経験。耳の早いリスナーの間では、その憂いあるメロディとフレッシュなサウンドが人気を博しています。

 前作から1年という短いスパンで届けられた2作目『Bad Blood』はメロディやアレンジ、サウンドメイキング含め、細部まで作り込まれた“鉄壁さ”が印象に残る良作。「現在海外のヒットチャートを賑わせるポップスのテイストを散りばめた、モダンなサウンド」という作風は前作の延長線上にあるものの、ハード&ヘヴィな味付けを強めた楽曲が増えたことで、ライブ感が強まった印象を受けます。前作が「ソングライターであることにこだわった」作風だったとすると、今作はロックバンドとしてのアイデンティティが強く伝わってくる仕上がり。日本人の琴線に触れる楽曲が多く、HR/HMファンよりも昨今のラウドロックリスナーに強く響くのではないでしょうか。

H.E.R.O. - Avalanche

Boston Manor『Glue』

Boston Manor『Glue』

 Boston Manorはイギリス・ランカシャー出身の5人組バンド。エモやポップパンクを主軸に活動という点では、本稿で取り扱うほかのバンドとは一線を画するものではありますが、ぜひラウド系リスナーに届いてほしいという思いを込めて紹介したいと思います。

 スクリーモの要素やデジタルエフェクトを多用した新機軸の2ndアルバム『Welcome To The Neighbourhood』から1年半という短いスパンで届けられた本作『Glue』は、前作で取り入れたデジタル要素がさらに強まった実験的な内容。『Welcome To The Neighbourhood』の時点で垣間見えたゴシックテイストが強まっており、そのダークさはどこかDeftonesにも似たものがあります。特にミディアムテンポでじっくり聴かせる楽曲ではその傾向はより強まっており、以前よりもセクシーさが増しているような気も。また、モダンメタル以降のテイストと同時に、90年代のブリットポップや80年代のUKニューウェイヴからの影響も見え隠れする。先に紹介したH.E.R.O.とはスタンスや方向性は異なるものの、こちらも日本のラウド系リスナーに引っかかるフックが多数用意された、今聴くべき1枚だと断言できます。

Boston Manor "On A High Ledge"

Vader『Solitude In Madness』

Vader『Solitude In Madness』

 最後に紹介するのは、ポーランドのデスメタルバンドVaderの12thアルバム『Solitude In Madness』です。彼らはMetallicaやSlayerがデビューした1983年に結成という40年近いキャリアを持ち、ポーランドという共産圏で地道な活動を続けながら1992年に名門<Earach Records>からデビュー。ここ日本でもコアなメタル/エクストリームメタルのリスナーから高い支持を獲得し続けています。

 「速い曲は2〜3分の長さがべスト。5分以上もあるのは退屈」だというピーター(Vo/Gt)のポリシーどおり、本作収録曲の大半は2分前後というショートチューンばかり。中には1分18秒というファスト&ショートチューン(M-4「Despair」)も存在し、全11曲で29分強というトータルランニングはかのSlayerの名盤『Reign In Blood』(1986年)にも匹敵。ものすごいスピードで連打されるジェイムズ(Dr)のバスドラと、ピーター&スパイダー(Gt)によるザクザク刻まれるギターリフの気持ち良さは、外出制限で鬱屈した日々を過ごす人にこそ(可能な限り爆音にて)体感してもらいたいところです。

VADER - Into Oblivion (OFFICIAL MUSIC VIDEO)
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■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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