振付から紐解くJ-POPの現在地 第7回:竹中夏海(前編)
竹中夏海が語る、ダンスのルーツとアイドルの振付に惹かれた理由
chelmico、末吉9太郎、エビ中……作品から紐解く“見せ方”
ーー竹中さんが活動を始められた当時より、今は振付師という仕事がクローズアップされる機会が増えていますが、ご自身がプレイヤーとして出たいと思ったことはなかったですか?
竹中:先ほどお話したように、中学生くらいの段階ですでに振付師思考だったので、(プレイヤーになる考えは)全くなかったです。子役としての短い活動期間の中でもお芝居は確かに楽しかった記憶があるので「何がそんなに違うのかな?」と考えたときに、演者や踊り手としての自分に興味がないんだということに気づきました。お芝居の何が楽しかったかというと、自分が演じるけれども、自分ではないその役について考えることだったんですよ。自分が演じる役が、どんなテレビ番組やご飯が好きで、家族構成はこうで……といったことをあれこれ考えるのが楽しくて好きだったんです。でも踊りとなると役はつくこともあるけれども、基本は自分自身で踊らなければいけない。そうなったときに、全然興味が沸かなかったんです。今もアイドルや演者さんの「この人がどういうふうに動いたら魅力的に映るだろう?」ということをあれやこれやと考えるほうが好きなので、自分でプレイヤーになろうとは思わないんですよね。
ーーなるほど。ここから、竹中さんが手がけた中での最近の作品を例に、振付について解説をお願いできればと思います。chelmicoとスポーツクラブ・JOYFITのコラボ曲「Limit」はかなりシュールで面白いですね。
竹中:本格的なフィットネス、視覚的な面白さ、chelmicoの曲の歌い出しで2人がだるそうに〈張り切っていけません〉と歌う部分など、そのギャップを強調できるような振付にしました。ダンサーの方々には「目尻を下げる笑顔ではなく、眉毛を上げる感じの笑顔でやりましょう!」とお願いして。ダンスの要素とフィットネスの動きのバランスが取れるような仕上がりを目指しました。
ーー最近は末吉9太郎さん(CUBERS)の「顔面国宝!それなー」も振付を担当しています。アイドルに詳しい9太郎さんと竹中さんならではの振付だと思いましたが、ご本人の希望などはあったんでしょうか?
竹中:9太郎くんは根っからのアイドル気質な人で、「僕は演者に徹するので、お任せします!」というスタンスを持っている子なのかなと感じました。私はどちらかというと踊り手さんができないことがあれば、踊りやすいように調整していくタイプなんですけれども、9太郎くんは「言われたことを全力で再現します」というスタンスでしたね。彼が公開している動画の中で“2ショットのポーズ指定ができなくなって文句を言うオタク”というのがあって「え、もうごんぎつねの髪飾りポーズできなくなるの?」みたいなことを言っているのがあったんです。それがすごく面白かったので〈距離近めのツーショ〉という歌詞のところで、「ここ、ごんぎつねの髪飾りポーズにする?」と聞いて「入れたいです!」みたいに希望を言ってもらうことはありましたが、他は振付したものを全力で踊ってくれました。
ーーそこは竹中さんに対する信頼感というのがすごくあったのではないかと。彼もすごくアイドルを研究していますよね。
竹中:すごく気が合うんですよね。昨年の夏に初めて彼が所属するCUBERSの振付をさせてもらったときに「男の子のアイドルはそんなに担当したことないし、大丈夫かな」と思ったんですが、9太郎くんがいてくれたから、あまり難しく考えることなくできました。私も彼もオタクなので、まず人との距離の取り方が全然近くないんですよ(笑)。人との絶妙な距離の取り方や頭の回転の速さがすごいなと思っていて、今回ソロの作品でまた一緒に組めたのも嬉しかったです。すごく努力家でどんどん踊れるようになるのでレッスンも楽しかったですし。ーー9太郎さんはアイドルそのものにも詳しいけれど、恐ろしくドルヲタの生態を捉えていて。
竹中:たとえばイントロはこういう気持ちで、Aメロはこういう気持ちで、と説明しながら「1サビ2サビとラスサビは、同じ笑顔だったとしても違う笑顔だと思う」といった表情のことまで普段から話すようにしているのですがこの曲ではそういうレベルではなく、9太郎くんの表現力に合わせてかなり細かく表情も付けました。1サビ終わりからAメロに入るまでのリイントロの振付でも、オタクのセンサーが「次の推せるアイドルは誰かな?」と探していて「見つけた!」という流れを考えて、無表情から笑顔まで、メリハリを付けてもらいました。
ーーあと最近のお仕事でインパクトがあったのが私立恵比寿中学(以下、エビ中)の「オメカシ・フィーバー」です。今回が初コラボでロックダンスの動きなどが盛り込まれた振りですが、どういう流れで生まれたんですか?
竹中:あの曲は、私も普段から仲の良い児玉雨子ちゃんが作詞を担当しているんですが、雨ちゃんの歌詞は“自動振付機”のようで、言葉を追えば振りが勝手にできていく感じなんです。それくらい歌詞が動きにしやすいというか、普段使っていない、怠けている脳細胞を刺激される感じがするんです。イントロのところなどはただロックダンスをやっても面白みがないので、女の子がコンパクトを持ってパタパタとメイクをしている動きなんかを取り入れました。例えば〈「誰も見てないよ」ってふたり近づいて いや待って リップ全落ち 終了ーー〉のところも、2人がミュージカルみたいな感じで近づくところからシンプルに歌詞を追って動きを表現しました。
ーーあの曲はセンターが中山莉子さんですね。彼女のソロパートのテンションが突き抜けていて、また面白かったんですけれども。
竹中:年末に開催した幕張メッセ公演を観させていただいたときに、すごくライブで化ける子なんだと知って、一気にファンになりました。彼女のライブで発するエネルギーと、エネルギッシュな楽曲が合わさったことがとてもよかったと思います。
ーー全体の振り入れはスムーズに進んだんですか?
竹中:そうですね、ほぼ丸1日で終わりました。エビ中ちゃんのすごいところは、表現力が技術を追い抜いた状態になっていたことです。劇的にコミカルに仕上げてくるというか、本当にテレビで見たことのあるエビ中ちゃんに仕上がった! と思いました。振りを入れている最中はけっこう基礎的な部分からゆっくり一つ一つ教えていたのに、いざ踊り始めると、動きの処理の仕方やちょっとした表情のつけ方がちゃんとコミカルになるんです。それでいて、シリアスなものはすごくシリアスにできる子たちですし。10年近く活動していても感覚がすごくフレッシュで、どこかけなげな感じもあって、それも驚きでした。
【後編へ続く】